血  圧


 もっとも基本的なバイタルサイン(生体情報)として、体温の話を前回取り上げたが、今回は、その次のバイタルサインとも言える、血圧について述べてみたい。

 心臓のポンプ作用で、体内に血液が送られ、部位により圧分布が生じる。大動脈の最大血圧(120mmHg)と最低血圧(80mmHg)から、たとえば毛細血管の部分であると20mmHg位(静脈域はそれ以下)まで分布し、測定は、普通は直接血管にパイプを挿入して、圧トランスジューサーで圧波形として取り出している。この方法を、直接法又は
観血法と呼んでいる。

 一方、大動脈の最高、最低血圧値だけを図るためには、皆さんご存じの非観血方式である血圧計を使用している。腕に腕帯(カフ、マンシェット)を巻き、聴診器と、水銀柱で測定する
リバロッチ(Riva Rocci)式方法である。肘窩部に聴診器を当て、上腕動脈を流れる血流の変化音(コロトコフ音)を耳で聞き、最高血圧値と最低血圧値を測定しているのである。

 もう少し具体的に言うと、まず腕帯に空気を送り込み、上腕動脈の血流を止め、徐々に圧力を弱め、最初に血液が流れた時の圧力を最高血圧と呼んでいるのである。この判定は心拍に同期した
コロトコフ音(Korotokov Sound、気持ちよい拍動音で、音色を伴ったトン、トンと言った感じの音)が聞こえた時を、スワン第1点と言い、その時を最高血圧値(標準でで120mmHg位)とし、次に徐々に腕帯の圧力を下げていき、コロトコフ音が完全に消失した時の、圧力値を最低血圧としている。これは、直接、血管にセンサーを差し込んで測定した値と似ている。原理からして、当然、腕帯の圧力は徐々に下げないと、測定誤差となるので、コロトコフ音の変化を聞きながら、圧の降下速度を調整しなければいけない。早いと、心拍1つで数十mmHgも変化してしまうので、コロトコフ音を1発でも、聞き逃すと大きな測定誤差になってしまうことになる。かといって、ゆっくり行うと鬱血してしまう。

 以前は、血圧は年齢と共に、高くなると言われていたが、それは、あくまで平均値であって、今は
WHOで決められている値(上が139mmHg以下、下が89mmHg以下)が正常値で、それに対し、高い低いと判定するようになった。加齢と共に、血圧が上がる人が多いのは、正常では無いと言うことになる。また、この血圧は当然は、その日の体調や、時間帯、心理状態でも大きく変わるから、その解釈(診断)は簡単では無い。このへんが、家庭用血圧計の出番でもあり、また反対される理由ともなっている。

 さて、ここから本題に入ろう。この血圧は、実は医師にとっても厄介な物なのである。前述の様に血圧が変動する上、計る医師によっても測定値が違うのである。以前に、数人の医師が同時に患者の血圧を図り、その差を学会誌に発表していた。それも、同時に計測(聴診器を分岐し)していても、一致しないのである。同じ患者でも、続けて計ると値が違ってくることもあり、また、右腕と左腕でも値が違うのである。加えて、腕帯の幅や、圧力の降下速度でも測定値が違ってくるのである。

 ここまで、述べてくると要するに、血圧もまた曖昧な生体信号なのである。従って血圧値だけで、高血圧症、低血圧症と簡単には判断出来ない事になる。

 一時、医家向けの
自動血圧計が各社より開発され、売り出されたが、その殆どが市場から消えている。こう書くと変に思う方が多いと思う。病院でも、人間ドックでも、そして量販店の店頭でも血圧計を目にする事が出来るからである。

 かつての自動血圧計は、前述のコロトコフ音の微妙な音の変化の検出に、知恵を振り絞り工夫したのであるが、結果として、医師の聴診法と比較し、相関性(各社とも相関係数が0.8以下)が低かったのである。これでは、診断できないと特に内科系の医師が反対し、その証拠に今でも開業の内科医や、外来では聴診器法が普通である。

 そこで、米国で考え出された方法が、
オシロメトリック(振動)法と呼ばれる測定法である。この方法をいち早く採用した、日本のN社は、売り先を変え、血圧の経時変化がわかれば良い分野や、基本的に健康人を対象の人間ドック、あるいは地方自治体の待合室等に的を絞り売り込んだのである。結果的に、この会社は、この血圧計だけで成長した。

 原理は、従来のコロトコフ音のこだわりを捨て、また従来の内科系医師を相手にせず、OP室やCCUや病棟での連続測定、すなわち血圧の傾向がわかれば良い分野に的をしぼった製品として考えたのである。

 一本のナイロンチューブの中に脈動する水を流し、その途中で、指でチューブをゆっくりつぶす動作を思い浮かべて欲しい。水圧で、ピンと張ったチューブをある一定の力(指)で押さえるとチューブがつぶれ、水流が止まる。この時が最高血圧である。そして、徐々に力を緩めると、また水が流れ出し、変形したチューブが、もとの完全な円になった時の圧力が、最低血圧である。その中間は、チューブが変形している状態であるから、水の流れが、乱れが生じチューブの内壁に当たるので、チューブにセンサーを当てれば、その振動が検出出来るのである。この振動を検出して、測定しているのがオシロメトリック法である。

 原理は、至って簡単である。そして、この方法は再現性が良いのである。たちまち、病院等で、外来以外(ここが重要である)では普及した。そして、人間ドックや、救急車にまで設置されるようになったのである。

 さて、少し
家庭用血圧計に的を絞って、話を進めよう。この機種も当初は、厚生省は家庭用の血圧計を認めようとしなかったのである。今はどこの量販店でも、スーパーの店頭でも、電気式血圧計は並んでいる。殆どは、オシロメトリック法と似たもので、圧力トランスューサーで血管の振動を捉え測定している。従って、あくまでも目安である。ましてや、手首式や指式はなおさらである。これらは、明らかに、上腕部での測定に比し低めでかつ不安定である。

 しかし、血圧は所詮目安であると考えると、どちらでも50歩100歩と言うことになる。家庭での安静時の測定が出来ると言うことと、経時変化、経日変化が分かるだけで良しとすべきであろう。これは、これでよいのである。そして、疑問に思ったら、医者に診て貰い、水銀柱と聴診器で測定して貰い、そして他の診察と合わせ、診断して貰う事になる。素人判断は危険である。

 新しい診断器は、使い方をわきまえてそれなりに使えば良いが、結局は、古来からの方法が、歴史もあり臨床例も多く、診断の役に立つのである。年季が入っていると言うことは、何事でもそうであるが、おろそかに出来ないものと思っている。

             

0010
Hitosh


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