遷延治癒骨折


遷延治癒骨折(難治性骨折、偽関節)

 何だこれは、と思った方も多いと思う。
遷延(せんえん)とは、広辞苑によれば、「のびのびになること、ながびくこと」と書いてある。要するに、骨が折れて、ギブスや添え木を当てても、なかなか骨がくっつかない状態を言うのである。そして臨床現場では、これが予想以上に多いのである(米国の例で年間20万人発生)。普通2、3ヶ月くらいで直る骨折が、直らないのであるから、本人にとっては、悲劇である。

 複雑骨折など最初からあきらめて、骨を金属板で接続してしまう事もあるが、出来ることなら、自分の骨で付いた方が良いのは当然のことである。本来、骨は成長するのである。骨折すると再生するのが普通なのである。ここで、そのメカニズムを述べるつもりは無いが、骨芽細胞が成長し、レントゲン線で見るとわかるが、骨折した骨と骨の間に、時間の経過と共に白い骨の固まりが成長してきた、やがて、骨と骨の間を埋め尽くし、あたかも骨が成長したかのように綺麗に接着(完全癒合)されていくのである。初めて、写真で継続して観測したときはもう感激ものであった。いや、神秘的と言っても良いくらい劇的である。

 ところが、この通り行かない人が多いのである。骨がなかなか成長してこないのである。従って、遷延治癒骨折と言うのである。世の中、良くできていて、有るべき姿と現実にギャップがあると、そのギャップを何とか埋め様と考え、実行する人がいる。問題解決である。

 ここで、ノーベル賞ではないが、先駆的な日本人がいた。1953年に京都医学会誌で、安田岩夫氏が、微小電流による
仮骨形成に成功したことを発表(骨折治療に関する基礎的緒問題、京都医学会誌、1953)した。犬の大腿骨を使って一端を固定し、多端に力を加えると、骨の振動に同期し圧電気が生じることを実験で確認した。これは、乾燥骨や、煮沸骨でも変形部に電位差が生じ電流が流れることを証明した。そして、このマイナスに荷電された状態が骨形成指令として働くのである。

 この原理を応用して、骨折部に電極を埋め込み、微小な電流(20マイクロA位)を流すと、電極のマイナス側に盛んな骨形成が見られることが確認されたのである。これを応用した製品が、またもや外国より発売された。血中酸素飽和度計(パルスオキシメーター)の時もそうであるが、原理の発明は日本人であったが、実用化したのは、米国人であった。ペンシルバニア大学の整形外科医
プライトン教授で、商品化したのはジンマーUSA社であった。この機器は移植式(体内に電極と装置を埋め込む方式)であったため、適用には決断が必要であった。

 そこで、開発されたのが、米国のコロンビア大学の
バセット教授が発明した方法である。これは、皮膚の外部より、大きなコイルにパルス状の電流を流し、パルス状の電磁場(2ガウス)を作り、骨に微小電流(1.0〜1.5mV/cm)を流す方法である。メーカーは、エレクトロ・バイオロジー社である。もちろん、両方とも米国のFDA(日本の厚生省)の認可を得、正式な医療機器として認められている。そして、当然の事ながら特許も成立している。

 日本で発明され、実用化は米国で行われ、特許を取られ、何のことはない、日本は、その機械を輸入しているのである。医学界にはこんな例が多い。一番大きな理由は、日本だけでは、どうしても市場規模が小さく、世界を相手にしていかないと、ビジネスとして成り立たない業界であるためである。もちろん、この理由だけでは無いが、いろいろな医療機器を見ていると、そう思わざるを得ない。

 骨折部に骨再生に最適な微小電流を流すと、骨折部のギャップにミネラルが沈着し、石灰化して、カルシウムイオンで、マイナス荷電が中和し、血管が入り込み、骨化していくのである。したがって、日本のJ大医学部の様に、ここに注目し、直接血管を移植する方法をメインとして遷延治癒骨折の治療を行っている所もある。
 
 さて、たかが骨折と思っている方が多いかと思うが、こういう事例もあるので、やはり、「道」が好きで、外出が好きな我々としては、当然の事ながら、怪我には十分気を付けないといけないと思うと同時に、間違うと骨折に至るであろう行動は、出来るだけ避ける様にしないといけないと思うこのごろである。特に、中高年の人は、骨折が直りにくく、手術で骨折部を固定することもままならず、そのまま寝たきりになってしまう事例が多いからである。寝たきり高齢者の多くは、骨折に起因している事も、改めて認識して欲しいと思っている。 又、今回紹介した方法でも、完全癒合しない骨折の事例が多い(脛骨偽関節で治癒率80%)と言うことも忘れないで欲しい。 

 蛇足であるが、足の骨折の方が腕の骨折より直りやすいのは、上記原理より、説明する事が出来る。足は、リズミカルな刺激が歩行で自然に得られ、より電流が流れやすく骨再生を促進させるからである。
             

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Hitosh


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