恐怖症


  恐怖症という文字は、前に書いた「獣道」ではないが、何とも恐ろしい病名である。恐怖症と言うとすぐ思い出すのが、あのアルフレッド・ヒッチコックの有名な映画、「断崖」(1947年)を思い出す。スリル満点のこの映画は、高所恐怖症の元刑事(ケイリー・グラント)が、美女(いい女であった、ジョーン・フォンティン)にその恐怖症を利用され、犯罪に巻き込まれる話である。高い所に立つと足が震えて何も出来なくなる症状である。この症状は多かれ少なかれ、多くの人に認められる。ある意味では、当然の反応でもある。何事もそうであるが、度を超すと異常となり、病院の神経精神科の世話になることになる。もちろん「症」という言葉を使う以上は、当然まともではない。  

  
恐怖症の種類は非常に多い。前述の高所恐怖症、そして閉所恐怖症、対人恐怖症、不潔恐怖症、帰宅恐怖症、出社恐怖症、登校拒否症、身近のものでは拒食症、過食症等々ある。全部で200以上もあるという。これらに共通していることは、潜在的には別であるが、表面的には少なくとも自分の意志に関わらず、そうなってしまうことである。そして、特定の対象、行為あるいは状況に対する過度で、不合理な恐怖を示す状態を避けるようになる。この回避行動は社会生活に支障を来すようになると、治療が必要になる。

  そして、これらの
恐怖症、脅迫神経症の治療については、1970年までは有効な方法が無かった。その後、薬物療法と行動療法に於いて、大きな進展が見られるようになった。また、森田療法、精神分析療法も行われている。薬物療法では、アナフラニール(Anafranil)が最も著効とされているが、現実には、その作用は不安やうつ状態の人に限定されているとの報告が多い。投与量も200〜300mg/日と大量で、3−8ヶ月の治療が必要とされている。しかも中止すると大半が再発するということである。さらに副作用が強く約30%が中途脱落と言われている。

  しかしアナフラニールの治療は一定の限界があるが、恐怖症、脅迫神経症の合併症として2次的な鬱病が多く、初期に少量のアナフラニールを投与するのは有効と言われている。

  
行動療法については、これまで、思考阻止法、内破療法(フラッディング法)などが試みられてきたが、現在では恐怖や脅迫症状を呈する場面に身をさらしながらじっと耐えさせ、Response Preventionが最も有効とされている。しかし、1回の治療に2時間もかかり、患者としては、不安、恐怖に2時間も耐えることはものすごい苦痛となっている。中には顔面蒼白となりパニックに陥ったり、いらいら感が強くなり、時には嘔吐を来すこともある。従って、こうした苦痛に耐えさせるために、治療者や補助治療者(看護婦や家族)が付き添ったりするが、時間も経費もかさみ、とても日常の臨床に導入できない。

  治療効果は報告によって差があるが、おおむね50〜70%となっている。しかしこれは脅迫観念には適用出来ない。そして、苦痛のため脱落する例が約25%と言われている。特に鬱状態の人は治療に乗ってこない。しかし再発生は極めて低く、それなりに評価されている。

  手のひらの中心、「老宮」または頭の中心の「百会」に電極を当てながら、どの様な場面でどのような症状が起きるか、聞き出して於いて、順次その場面をイメージさせ、不快感を出させる。そして、その不快感が電気刺激により2−3分間で消える。これを繰り返し、週に2回、5−6ヶ月続けると、治癒または著効が70−80%となるとの報告が最近の学会で発表されている。副作用が無く、治療出来るのであるから、こんな良い方法は無い。しかし、ここで問題がある。これを医師が行っても、収入にならないのである。

  どれが患者にとって、福音なのか、思わず考えてしまう。自分のこと、あるいは自分の家族がこういう立場になったらどうすれば良いのだろうか。これは、恐怖症に限らない深刻な問題である。人ごとと思わず考えてみたい課題である。ただ、前述の新しい治療法を、本当に患者の為に考え、収入を度外視し、真剣に取り組んでいる医師がいるのも事実であり、救いである。そういう点では、まだまだ、日本は明日に期待が出来る国である。 
   

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Hitosh

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