獣道(けものみち)

  獣道、なんか恐ろしい感じがする。映画かテレビかは忘れたが、「獣道」と題するドラマがあった。人の道をはずれた政治家の黒幕を扱ったものであった。西村晃、と山崎勉、名取祐子の好演が印象に残っている。でも、これはある意味では、動物に対して失礼である。人の道に反するから、獣道とは獣が悪ものになっている。

  人も動物も、生きると言うことは、他の生命体を喰っていると言うことである。うっかりするとそれを忘れがちである。今の人は、自分で他の生き物を直接殺す機会が減ったから、その意識が薄れてきている。魚でさえ、切り身で買ってくる人が多い。そして、植物もまた生命体である。それを忘れて、平気で食材を捨てる人がいる。いくら飽食の時代と言っても、考えさせられる。

  獣は自分の食べられる量以上のものは決して他の生命体を殺さないと聞いている。自然の理りをわきまえている獣の方がよっぽど動物らしい。人間も動物である。しかし、一つの生命体として、動物以下の人の多いのも現実である。

  さて、本題に戻り獣道について考えてみたい。丹沢や奥秩父の山を歩っていると、良く鹿に遭遇する。そして、人に慣れているせいか、えさをおねだりする。丹沢の鹿なんか誰に仕込まれたのか、弁当を食べている人の前に来て餌をくれるまで何回もお辞儀する。その仕草は本当に真に迫っている。奥秩父、雲取山で出会った子連れの鹿は、子鹿を安全な場所に置き、自分だけは堂々と登山者の側にやってくる。ミカンの皮なんかをやると手渡しでもうまそうに喰う。

  丹沢で、地図にない尾根道を歩いたことがある。大山の通称北尾根と呼ばれている所である。もともとは、獣道であったのだろう。丹沢のヤビツ峠から台の岳、菩提峠を経由して二の塔に登る道がある。これも、地図には載っていない。その両方を歩いたことがある。所々で、人間には道筋が解らなくなるところがある。

  現実に、前者ではご丁寧に道に迷い、一の沢峠に降りるはずが、札掛橋の方へ、降りてしまった事がある。地図に載っていない道であるから、地形と方角だけが頼りで、あまり当てにはならない。結局勘とコンパスだけが頼りである。

  塔の岳の花立をすぎて、頂上近くで鹿に遭遇することがあるが、そこにも道らしい所があった。ただ、塔の岳の場合は登山道が整備されているから、その道に踏み込むことはないが、一度歩いてみたいと思ったことがある。
  
  余談であるが、現実は鹿の天敵である狼がいなくなったから、鹿が増えてしょうがない。作物を荒らすから、丹沢ではあちこちの登山道に鹿除けの柵が作られている。その柵を越えるために、わざわざ登山家の為に扉が設けられていたり、梯子がかけられている。何のことはない、人間様が鹿の通る道を通らせてもらっている感じである。足柄峠の近くの矢倉岳ではウサギ除けの網が張ってある所もあった。

  人間は、昔と違い動物を殺さなくなった。殺せなくなったといった方が正しいかもしれない。逆に動物も人間を恐がらなくなった。熊もまだ遭遇したことは無いが、人を怖がらなくなった。だから、気軽に人を襲うようになったのかも知れない。幸いのことに、丹沢や奥秩父では、熊に遭遇したことはない。

  人と動物の間の生活距離というものがある。今はそれが無くなっている。日光で、猿が店を荒らすようになったのはその距離が無くなったせいである。大きな理由は、人が餌をやるようになってからと新聞に書いてあった。それが、今になって餌をやるのをやめようとキャンペーンをはっている。

  獣道、人間にとって歩いてもおかしくない道である。人間も動物であるから、その資格がある。しかし、自ずから、動物との生活距離がある。それが、自然の理である。それをいつまでも忘れずにいたい。獣道、いつまでも大事にしたい道でもある。


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Hitosh

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