ギターと言うと、今の人はどんなイメージを持つのだろう。私の年代では、想像もつかない。私の姪は、今23歳である。この姪がまたかわいい娘(こ)であるが、この前エレキギターを買ったという。今の若い女性にとって、ギターというと、エレキギターを思い浮かべるのであろう。 私たちの世代では、ギターと言うと、アコーステックのフォークギターであろう。ジョーン・バエズの唄なんか、耳にこびりついている。もちろんレコードを買って何回も聞いたものだ。日本人では、加藤登喜子や森山良子などの弾き語りは、今も語り草になっているほどだ。家内と始めてコンサートに行ったのが、東京・青山で行われた森山良子の演奏会であった。彼女の澄んだ声とギターの響きは今でも覚えている。始めて、森山良子の存在を知ったのは、ジョーン・バエズが来日し、その前座で歌っていたのが、彼女であり、その声とその唄が素晴らしかったのを覚えている。 同じ頃、日本でも圧倒的に、人気の出た、アンドレ・セゴビアや、あの「禁じられた遊び」のナルシソ・イエペス、ジュリアン・ブリーム、ジョン・ウイリアムのクラシックギターの調べには驚くほどの感動を得たものだ。まさしく、クラシックギターは小さなオーケストラであった。一つの小さな楽器で、同時に、メロディーと伴奏が引ける楽器はそうない。日本でも、阿部保夫や、アントニオ古賀、荘村清、そしてその後出てきた、山下和仁、福田進一などの調べは、今でも耳についている。それらのLPを人にあげた後、すべてCDで、また買いなおしたほどである。ギターの音は、非常にデリケートである。ギターによって、醸し出されるメロディーはあの世のものとさえ思われる程、繊細である。 止せばよいのに、まだ若いとき、このクラシックギターに取り組んでしまった。有る意味で地獄であった。簡単で、取り組みやすいと思ったのが大間違いであった。それほど、この楽器は、易しくないのである。右手と、左手の動きに全く関連性がないのである。馬鹿見たく、教則本に基づき身体で覚えるほか無かった。日々の単調な繰り返しの練習が要求された。左の指の先は痛くなり、皮が何回も剥け、そのうち、ギターダコが出来た。右指の爪は、弦を弾くために伸ばしていたが、その為に何回も、爪が割れてしまった。割れた爪の特効薬は、今の瞬間接着剤であった。 それでも、車で旅行するときは、そのギターを車に積んで行ったこともあった。高原の宿舎で自然を背景にギターを爪弾くのは、何とも言えない贅沢な気分であった。 そうやって覚えたギターも、子供が大きくなり、仕事の方も忙しくなり、いつの頃かやめてしまった。そして今住んでいる横浜に引っ越したときは、ギターは実家に置いてきた。もう弾くことは無いと思っていた。ところが、ひょんなきっかけで又ギターを弾いてみたくなった。最初、パソコンで、好きな曲の音符を打ち込んで演奏させていたが、メロディーと伴奏を入れると、ものすごい時間がかかるのである。こんな事をして、演奏した、シンセサイザーの音は、どうもなじめなかった。こんなに苦労し、時間を掛けるなら、直接楽器を弾いた方が良いことに気が付いたのである。 右が新しく購入したギタ− そこで、昔使ったギターを実家から持ち寄り、再開した。昔弾いた、楽譜を持ち出し、いざ弾こうと思ったら、今度は指が動かないのである。昔弾けた、「禁じられた遊び」も全然弾けなくなっているのである。25年のブランクは予想以上であった。おまけに、ギターの音色も、25年ぶりに持ち出したギターは、どうも冴えなかった。湿っぽい貧弱な音なのである。 一念奮発して、ギターを買え変えた。と、いうと簡単であるが、今はなかなか買う場所が無いのである。昔はどの楽器屋でも、いやレコード屋でもギターは置いてあった。それが今は取り寄せですと言われてしまったのである。結局、横浜の伊勢佐木町にクラッシクギターとバイオリンの専門店があることが、ガイドブックでわかり、買いに行った。このお店は、数万円のものからそれこそ2百万円クラスのものも置いてあった。 M.G.コントレラスギター、ラミレス、クリストファー・ディーン、ジョン・ギルバード、エドガー・メンヒ、アントニオ・マリン、ホセ・ヤコビ、ドミニク・フィールド、そして日本では河野ギター、桜井ギターや、ヤマハのGCカスタム、etc。どれも、垂涎の的である。 手にとって、弾いてみると音が全然違うのである。これには驚いた。当たり前であるが、やはり高いものは良い。作りが違うし、もちろん材料も違うのである。当然、作者のサインが付いていた。大枚をはたいて、ハードケース付で購入したのが今のギターである。嫌になり、以前のギターは人に上げてしまった。そして、昔使ったぼろぼろの教則本の第1ページから、おさらいを開始した。もとに戻るのにどのくらいかかるのであろうか。これからの、惚け予防のためにも頑張っていきたいと思っている。 膝に抱いた、このアコースティックの響きは、何とも言えない音がするのである。 |
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