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■狼なんて怖くない!!

No 掲載号 総頁数 WJ(※1) コミックス(※2) 席次(※3) J(※4)    5   10  15  20
001 1989年20号 31 211〜241 5〜35 7 20 ********************

※1 WJ(週刊少年ジャンプ)に掲載されたページです。
※2 コミックス(単行本)に収録されているページです。
※3 ジャンプ本誌でのの作品掲載順位です。
※4 ジャンプ本誌での総作品掲載数です。

■作者コメント(※5)

掲載号 コメント
1989年20号 ◆初めまして。本誌初掲載で感激しています。今度はもっとうまく描きますので感想下さい(義博)

※5 ジャンプ本誌の巻末(単行本未収録)での冨樫先生のコメントです。

■巻頭柱(※6)・あおり(※7)・巻末柱(※8)文句・扉絵(※9)

掲載号 コメント 扉絵
1989年20号 ◆満月に遠吠え…!!

まぁるい月に御用心!!
★本誌初掲載にドキドキしてます!冨樫義博
春に萌える!特別読切シリーズNo.3

満月だけが知ってます…
志月拓狼
早乙女さやか

注:上の図の見方は上側が巻頭柱(※6)、中があおり(※7)、下側が巻末柱(※8)文句です。

※6 柱文句とは作品のタイトルやあおり文句とは別にマンガのコマの端っこに書かれた文句です。
※7 あおりとは作品の最初のページに作品のタイトルとは別の文句です。
※8 (※6)同様に巻末に書かれた文句です。
※9 作品のタイトルが書かれているページの登場人物です。


[あらすじ]

人狼体質であるがために、正体がばれるたびに、転校を繰り返してきた高校生の主人公、志月拓狼。
転校先の学校の、人気者早乙女さやかに一目ぼれし、バスケットボール部に入部。
ある日、漫画研究会の不良グループに絡まれているときに注意したことがキッカケで彼女と…。
拓狼は彼女や学校に秘密がばれないようしていたが、彼女と親しくなるチャンスである狼に変身してしまう満月の晩とかさなる合宿に参加して…。


【予告】
1989年4月11日火曜日発売の週刊少年ジャンプ、カット入りで登場しました。多色刷ページの予告には右手に持った狼人間のマスコットをを左手ではじく、ヒロイン早乙女さやか。

ジャンプの次号予告ページにはやや背中合わせに隣り合った主人公志月拓狼とヒロイン。

どちらも大きく取り上げられました。代原ではなく正々堂々と予告を引っさげての登場です。


▼1989年19号の予告紹介文(『狼なんて怖くない!!』の予告号)

特別読切31P(ページ)

狼少年がほれてしまった女の子って…!?


狼なんて怖くない!!
冨樫義博

(『週刊少年ジャンプ』1989年19号P47より)
4週連続 特別読切31P第3弾!!
狼なんて怖くない!!
冨樫義博

スペシャル増刊の注目株・冨樫
先生のS.(スーパー)コメディー!!狼少年が
一目惚れした女の子って一体!?

(『週刊少年ジャンプ』1989年19号P427より)

r特報r  次号、冨樫義博先生の31P(ページ)読切『狼なんて怖くない!!』が登場!!
 狼少年がほれた相手は!?S(スーパー)コメディー!!
(『週刊少年ジャンプ』1989年19号P357左端柱より)


[解説]

今でこそジャンプになくてはならない存在である冨樫義博先生の作品が週刊少年ジャンプに初掲載されたのは1989年4月18日火曜日発売の週刊少年ジャンプ1989年20号の『狼なんて怖くない!!』でありました。


当時の価格は180円。この年の4月1日から消費税が導入され、本体175円の本に3%の税が課金されるようになった3週目のジャンプです。実はジャンプそのもの値段は消費税施行前と変わらないのですが、消費税のことは作品内に登場する漫画研究会の不良グループが「消費税が同人誌に与える影響について」と作品内の会話でわざわざ使用されるほど影響力のある出来事でした。20号の愛読者アンケートで5問も消費税についての設問がもうけられています。

日本雑誌教会のデータによると現在の週刊少年ジャンプの読者層は発行部数350万部中の9割が男性読者であり、読者年齢層は12歳〜14歳が4割を占めているのですが、おそらく当時の対象者もこの年代の人たちであることでしょう。(2002年7月1日現在)ちなみに最高発行部数は1995年3・4(合併)号時点の653万部です。

1989年3・4(合併)号で発行部数が500万部を達成した時期です。この号の価格がサービス定価で190円なのでなんとジャンプは1989年19・20号時点で値下げをしています。(しばらくすると190円に戻っていますが、『てんで性悪キューピッド』連載第1回、1989年32号時点のジャンプは180円です。)

ジャンプのテーマ「友情・努力・勝利」は創刊(1968年・昭和43年)当時の平均読者層の小学5・6年生を中心に行ったイメージ調査で、読者にとって「いちばん心温まるもの」が「友情」、「いちばん大切なこと」が「努力」、「いちばんうれしいこと」が「勝利」だということがわかり、ジャンプの主人公たちに反映していったそうです。

以上からジャンプの対象年齢は小学5年生〜中学3年生くらいの男子と考えられ、彼らの主な収入源と考えられるお小遣いに与える消費税の影響を気にしていたのだと思われます。

話は戻りますが、週刊少年ジャンプに長期連載されている荒木飛呂彦氏の『ジョジョの奇妙な冒険』が、第3部日本編が公開されたころであり、冨樫先生ご自身も絵ではかなわないとご自身発行の同人誌『ヨシりんでポン!』までに語られた、萩原一至氏の『BASTARD!!』が連載され、まさに「友情・努力・勝利」のテーマのもとでヒーローたちが活躍している号でした。

車田正美氏の『聖闘士星矢』、鳥山明氏の『DORAGON BALL』えんどコイチ氏の『ついでにとんちんかん』、宮下あきら氏の『魁!男塾』、ただ今、コミックバンチで『ANGEL HEART』執筆中の北条司氏の『CITY HUNTER』、佐藤正氏の『燃える!お兄さん』、徳弘正也氏の『ジャングルの王者ターちゃん』、江川達也氏の『まじかるタルるートくん』、秋本治氏の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、実に当時の20作品連載中9作品もが当時もしくは後にアニメ化されて、その人気が世間にしらしめられたジャンプの絶頂期でした。

『狼なんて怖くない!!』は春の4週連続企画の第3弾で「春に萌える!特別読切シリーズNo.3」と銘うたれ、20作品中7番目に掲載された読切でした。ジャンプの表紙にもA4版紙面の28ミリ×28ミリのスペースにヒロイン早乙女さやかのカラーイラストが飾られていました。小さなカットではありますがここから当時全国500万人の週刊少年ジャンプ読者にその名と作品を明かしたのです。



______________冨樫作品におけるヒロイン観の移り変わり



『狼なんて怖くない!!』はその作品タイトルからは1978年3月に発表された作詞:阿久悠/作曲:吉田拓郎/うた:石野真子(デビュー曲)のヒット曲『狼なんか怖くない』のタイトルが彷彿させられます。

また、主人公の志月 拓狼(しづき たくろう)の名前から、『狼なんか怖くない』の作曲者の吉田拓郎の名前を重なります。冨樫先生にとって吉田拓郎氏は、後に発行された彼の同人誌『冨樫帝国』でもその名が見うけられたりと、少なからず気になる存在ではないかと思われます。また、歌手の石野真子氏もお誕生日が1月31日とこの日付は冨樫先生の代表作『幽遊白書』の唯一プロフィールを明かされたヒロイン雪村螢子のお誕生日と偶然なのか意志によるものか一致致します。

冨樫先生の女性の好みは幅広く、またアイドルがお好きであるようなことが『幽遊白書』の単行本12・13巻の作者コメントを参照されるとよくわかりますが、さらに今月の姫(セーラームーンの公式ホームページ…冨樫先生の奥様である武内直子先生原作者のコメント)からも窺えます。(2002年5月4日現在)冨樫先生初めての連載作品『てんで性悪キューピッド』、『幽遊白書』の作中内にも連載当時人気を誇ったアイドルの名前は見られ、自らテレビジャンキーと仰られるほどテレビ番組をよく見られ、作中内の登場人物の発言や93年に抽選された限定CDでも担当者も冨樫先生の好きなアイドルを語られていました。

幽遊白書以前の彼の作品にはほとんどがヒロインが登場し、その多くが人望・美貌を兼ね備えた、アイドル的存在が彼の作品の特徴でした。(たとえば『狼なんて怖くない!!』のヒロイン早乙女さやかはクラスの華であり、人気者の位置づけ。同級生に数学を教えたり、バスケットボールでは活躍し、彼女目当てで入部した生徒もいる描写や会話が見られます。『てんで性悪キューピッド』のヒロイン聖まりあは成績優秀・妖精のような美貌・行動力、『幽遊白書』のヒロイン雪村螢子はさらに生徒会・学級委員をこなし、人望も厚く、成績優秀・美少女・スポーツ万能とされています。)

彼の作品のヒロインとは、作中内において異性同性かかわらず不特定多数の人間に好まれる美貌を持ち、作中内では周囲の人間から好かれる人気者であるという、正統派アイドル的要素をたぶんに含んだ定義を持ちえていました。『狼なんて怖くない!!』以前にあらわされていた読切とは別に冨樫作品においてヒロインが完全無欠のアイドル的位置を確立したその原点となる作品です。

しかし、幽遊白書連載中、彼の漫画で見られた完全無欠のヒロインは影を潜めてしまい、むしろ個性的な読切時代のヒロイン傾向が復活しているようです。



______________作中内で見られる実在する映画作品について


『狼なんて怖くない!!』では作品の中では映画の名前が出てきます。

『ティーン・ウルフ』です。

映画『ティーン・ウルフ(92分)』は1985年アメリカで監督ロッド=ダニエル氏、マイケル=J=フォックス主演で制作され、公開された作品です。『ティーン・ウルフ』の内容に関しては以下に引用します。

☆平凡な高校生が、遺伝によって狼男に変身してしまうホラー・コメディー。
興奮すると狼男になるスコットは、バスケットの試合中に変身して大騒動を巻き起こす。

_ザ・テレビジョン 2002 No.18号 より引用

(続編に『ティーン・ウルフ2 ぼくのいとこも狼だった(95分)』(1987年・米)もあります。)

すでにこの作品の名前の登場から冨樫先生のホラー映画好きの一端が見られます。以後冨樫作品においては、映画の名前、映画のシーンや感想解説が作中内、単行本コメントがしばしば見られます。

冨樫先生の初期短編の『HORROR ANGEL』の作品回想や後の初連載『てんで性悪キューピッド』の作品コメント(ワイド版には未収録)のには、ホラー映画好きだと明かされているのです。

(冨樫先生は1997年12月24日初版の同人誌『冨樫義博王子武内直子姫 '98社会復帰宣言』で一番好きな漫画を明かされていますが、それは梅図かずお先生の『漂流教室』です。梅図かずお先生に対するコメントは1990年4月15日初版の『てんで性悪キューピッド』第2巻のP86で好きな漫画家の筆頭に上げられて、まさにこの間7年以上経ても好きと答えられていることになります。おそらくもっと以前からお好きであることでしょう。そして『狼なんて怖くない!!』の単行本に収録されている作品回想で「機会があれば梅図かずお先生みたいな恐怖作品がかいてみたい」とコメントされています。)

冨樫先生の作品内ではちらほらと映画のワンシーンや映画でのキーポイント的なセリフや設定をモチーフにされたり、さりげない登場人物の一言に置き換えられたりなどが見られます。また、その映画のモチーフなども突如出てくるのではなく、テレビで放送された映画番組などや、話題作、読者の記憶に新しい間や絶妙のタイミングにポンと出されるところが巧の技なのです。

多くのサイトや批評、コミック研究本を見て回ると、驚くほど冨樫作品におけるシーンや登場人物名、設定と実在する映画や本などとの関連付け、いわゆる『元ねた明かし』が見られます。読者がその内容にまったく気づかないほどマニアックな作品ではなく、また登場した語彙が作品と全く関連性がないものではなく、絶妙といっても過言ではないほどの登場の仕方なのです。ある程度はお好きなものが世間一般受けしやすい流行にとても近い感性をもっていらっしゃるか、意図的に読者にわかるように自作品と映画のモチーフが重なるように選び分けていらっしゃるようです。冨樫先生の作品で映画名や時事ネタが出てくれば、調べてみると面白いです。それは近年の作品ほど巧みで顕著であるといえるでしょう。




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参考文献:ジャンプ・コミックス『狼なんて怖くない!!』
『てんで性悪キューピッド(全4巻』
『幽☆遊☆白書(全19巻)』)
冨樫義博(集英社)
『週刊少年ジャンプ』(集英社)
1989年19・20号
『今さら人には聞けない疑問650』(光文社)
『ザ・テレビジョン』2002 No.18号
『J-MAGAZINE』データベース
『ティーン・ウルフ』