ライブスチームの運転


23.おばあさんとお孫さんのこと  (H27.12.13掲載)

 愛知県碧南市の市営明石公園に5インチゲージと3.5インチゲージの3線式のレイアウトがあった2004年秋、 倶楽部に入会させていただきました(この倶楽部については「とれいん No.370 2005.10」で紹介されました)。
 入会当初はライブスチームから電動系に浮気?していた頃でしたので、近鉄・養老線を走っていたELを参考にして 製作した電動車を走らせていたのですが、倶楽部のメンバーの方の勧めで、もう一度ライブスチームをやろうと決心しました。 そして、OSクラウス(3.5インチゲージ)を実家から運び入れ走らせはじめて2〜3回目ぐらいの倶楽部の定例運転会の日。 その日は電動車両が多く、蒸気機関車はたしか私一人だったかと思います。

 12時からのお昼休みの直前、その日もスチームアップに苦戦して、朝からやっているのに、 まだ走らすこともできずにいる私は声をかけられました。声の方を向くと、 そこにはおばあさんとお孫さんと思われる3〜4歳ぐらいの男の子が立っていました。 おばあさんが

「ぼうが乗りたいと言っています。乗せてやっていただけませんでしょうか?」

とおっしゃいました。 言い回しは正確ではないかもしれませんが、そのような内容で、目で哀願しておられました。 ”目は口ほどにものを言う”のごとく、おばあさんの目から、「何としても孫の希望を叶えてやりたい!」という強い希望を私は感じとり、 次の瞬間には

「いいですよ。ただ、もうすぐ昼休みですので、1時に来てください」

と応えてしまいました。
 おばあさんとお孫さんは一旦その場を離れられました。が、それからが大変です。なにしろ、 このクラウスで一度もこのレイアウトをちゃんと走らせたこともないのに、1時間後の乗車を約束してしまったのですから。
 「とにかく、約束した1時に走れる状態にしなければ」と、時計を気にしつつ給炭と給水をして・・・・。

OS製クラウス
OS製クラウス


OS製クラウスの運転室
OS製クラウスの運転室

 そして、午後1時、まだおばあさんとお孫さんはいらっしゃいません。5分ぐらい経って姿がみえました。 「どうぞ」と乗車を勧めるとおばあさんはお孫さんに乗るよう促し、 クラウスの次位に連結した乗用台車の私の後ろに乗車しました。さー出発です。
 このレイアウトでは1回の乗車で2周する決まりでしたので、なんとか停車せず2周回れることを祈って加減弁を回しました。 クラウスはゆっくり動きだし、あとはとにかく蒸気圧が下がって止まらないことを祈るだけです。1周回り、 そのまま2周目に入りました。途中で止まったらたぶん再スタートできないでしょうから。そして、 2周回っておばあさんが待っていらっしゃる乗車位置に戻ってきました。ボイラー水位は水面計の下の方ですが、まだ見えています。

 おばあさんは「ありがとうございました。」とおっしゃって、丁寧にお辞儀され、お孫さんの手を引いて帰って行かれました。

ヤレヤレです。そして、この日の運転はこれで終了です。もうヘトヘトですから。
 その後、入手したOSコッペルではこれまで多くのお客様に乗車していただきましたが、 印象に残るお客様はそういらっしゃるわけではありません。この時のことは強烈に頭の中に残っています。あれから10年、 この時のお孫さんは、中学生ぐらいになっているはずです。果たして、お孫さんはこの時のことを覚えているのでしょうか?


トップページへ戻る