住み続けられるまちづくり

まちづくり研究所所長 黒崎 羊二

『住み続けるための新まちづくり手法』
(佐藤滋+新まちづくり研究会編、1995年、鹿島出版会)より

1.住み続けられないまちの風景

2.定住促進と住環境整備

3.生活者の視点

4.まちづくりの基本

5.住民間の調整機能

6.住み続ける展望

7.まちづくりの目的と課題

8.まちづくりのルール

9.まちづくりの仕組み

10.事業化と合意形成

11.仲町愛宕地区のまちづくり
 1) 中心市街地整備計画
 2) 住民の意向〜基礎調査
 3) 総論の確認
 4) 建替えを阻害するもの
 5) 個別の動機
 6) 共同建替え──計画の実現性
12.新まちづくりの思想
 1) 「共同化はいや」
 2) まちづくりは私的な個別要求から
 3) 地区整備の視点
 4) 事業化の障害

1.住み続けられないまちの風景

 都心部での人口の空洞化は、地域社会のバランスを崩壊させ、住み続けられない事情をいっそう拡大する。都心で新たに住居を求めることが絶望視される一方、古くからある住宅地の人口は減り続けるという矛盾した状況が進行する。この人口減少は後継者である若年層の流出によるもので、より急速な高齢化をもたらしている。
 住宅地の中心部にあたる近隣商店街では、地元客の減少と高齢化を主因として店舗の歯抜け減少が起こり、店舗構成のバランスを欠いて集客力を失う。商店街はさらに斜陽化の道をたどり、まちの衰退に拍車をかける。
 コミュニティバランスの崩壊とともにまちの構造も弱まり、まちは災害に対する抵抗力を失っていく。
 このような住宅地の衰退をもたらしたものは何か、それはどんな仕組みで進行したのか。住み続けられなくなったまちの風景から探ることにする。

 表通りの商店街は廃業した店もあって活気がなく、人通りも少ない。裏通りの住宅地は建て詰まり、老朽住宅が軒を重ねている。区画道路の幅員は4mに満たず、路地の奥には接道不良の宅地が多い。木造アパートが集中する街区では老朽化と空室が目立つ。なかでも子どもたちの遊ぶ姿が見られないことは小学校の統廃合問題を裏付け、まちの衰えを象徴するものとなっている。

 戦災あるいは震災も免れた地域では、長期にわたる借地・借家が多く、それが住宅の老朽化と人口の高齢化を助長する。地価の高騰が地代・家賃や契約更新をめぐる調整をますます困難にし、その争いや負担が住宅の更新を阻む。成長した子どもたちは居住スペースを確保できないので親離れを早める。残された高齢者だけではローンの返済は難しく、住宅事情の改善はさらに遠いものとなる。
 かつては妥当と考えられていた地代・家賃も地価が高騰するなかで支払う側には重い負担となった。地主・大家層は年ごとに増え続ける不動産諸税の納付に悩み、相続を控えてその対策に苦慮している。いずれも被害者と言えるが、両者の「対立関係」は厳しく、当事者間での問題解決は容易ではない。

 区画道路が整備され、緑とゆとりのある環境を誇っていた住宅街では、相続の発生とともに敷地の分割を余儀なくされる。敷地分割は後継者の住居を奪い、高齢化が進行する。
良好な環境と利便性に着目したマンションや業務ビルによる侵蝕がすすみ、かっての閑静な住宅地の面影が急速に失われていく。

 高度成長期に都市化した市街地でも老朽化と高齢化が進行する。これらの住宅地はミニ開発が連担して形成され、共通した欠陥をもっている。行き止まり道路が多く、狭小宅地や接道不良宅地が是正されないままにまちの衰退化がはじまった。
 私道部分を含んで 100u以下の宅地が連続する。50u以下の宅地も多く、そこに建つ住宅の大半は建ぺい率、容積率の基準をこえている。私道はほとんど行き止まり道路で、通り抜けのできる公道はいわゆる2項道路である。
 4m未満道路の沿道では、建替えは道路後退を必要とするので従来の居住スペースを確保できず、建替えのメリットはない。私道沿道では劣悪な環境が建替えの動機を奪い、老朽化を促進している。

2.定住促進と住環境整備

 上述のように人口の減少と高齢化が進行する地域では、住宅の老朽化と低下した住環境が相互に影響して悪循環をおこし、状況の改善
を阻んでいる([図 2-1-1]参照)。したがって住宅更新を妨げる循環を断つことによって人口減少を防止し、人口構成のバランス回復を可能にする
といえる。さらにこのような相乗しあう連鎖は一挙に分断しなければその効果はなく、その意味で住宅と住環境の一体的な整備が鍵となっていることがわかる。つまり定住促進は、住宅事情の改善と住環境整備を基本的課題とし、その一体的推進によって実現性が保障されるのである。
 しかし、課題があきらかになり、解決の方向が示されたとしても改善の事業は容易には進展しない。事業化の過程、むしろその当初から関係住民の合意形成をはじめとするさまざまな壁につきあたる。
 その障害は改善型まちづくりにふさわしい手法をもたないために発生する。すでに形成された市街地、生活・生業が営まれているコミュニティの改変にあたる場合、トップダウンの手法は適切ではない。しかし不適切な手法による失敗はあまりにも多い。これは改善型まちづくりの手法が用意されていないということではなく、その基本的な理念が理解されていないことに原因するといえよう。
 改善型まちづくりは「内側からの積み上げ手法」「住民の意向に基づくまちづくり」ともいえ、地域の現状に基づき住民の生活実態と要求にねざして計画を策定し、事業化を図るものである。以下にその理念とプロセスにおける諸問題を検討する。

3.生活者の視点

 まちづくりは、そこに住む人々の都市生活を安全で快適なものとすることを本来の目的としている。しかし都市計画事業やまちづくりの現状は、住民の不安をかきたてる形となるものが多い。計画や事業がまちを改変し、人々の生活やコミュニティに大きな変動をもたらすにもかかわらず、それについての配慮が欠けている。そこに住む人々の生活実態を反映しない計画や手垢のついたコンセプトの羅列では住民の賛同は得られない。規定の計画に合意を求めることであったり、制度や補償の仕組みの説明だけでは、住民の納得が得られるものではない。

 生活者の視点から見るならば、事業による補償の金額が問題ではなく、生活・住居の再建や環境の改善・保全が問われるのである。住民の関心事は従来の住宅事情の保全・改善であり、事業によって変動する住宅の再建が具体的に補償されることである。従前の権利を金額に換えて補償することはあくまでも手続きの問題であり、補償の公平性を確保する手段でしかない。

 生活者にとって住居や宅地は生活の基盤であって、売買によってその向上・改善を図ることはできず、その余裕もない。この視点に確信が持てず、住宅・宅地を商品としか考えられないところには、住民が同意するまちづくりの可能性はない。

 土地取得や住宅更新が困難な時代に、個人の才覚と補償費だけでは住宅事情の改善は望めない。したがって計画や事業の枠組みを前提とするのではなく、住宅事情の改善をはじめとする個別の問題と身近な環境問題の解決が先決の課題となる。個別問題を積みあげた結果が住民が求めるまちづくりであり、まちづくり本来の目的と整合するのである。

4.まちづくりの基本

 ヒトは人と人とのふれあいのなかで人として生きていく。地域社会・コミュニティは人として生存し続けるための絶対条件である。都市・まちは地域社会のまとまりとして存在する。したがって「住民主体のまち」とは本来のまちのあるべき姿であり、運動の形態とか運動の目標といった類のものではない。住民を主体としない「まち」はまちとは言えない。

 まちの主体が住民であるならば、まちを構成する物的な基本要素は主体者の生活の基盤となる住宅である。つまり、まちづくりの基本は住宅づくりということになる。ところがこれがしばしば忘れられ、軽視される。まちづくり問題は、道路や公園の整備問題であったり、環境問題や大規模再開発問題となる。それぞれが誤りというのではないが、いづれの場合も住宅づくり、とくに既存住宅の改善を基本的なものとして位置づけ、その関連のもとに道路・大規模開発問題等をとらえる視点が弱いのである。

 住宅の取得・維持改善を私的な問題と考え、個人の甲斐性の問題にするこだわりが、まちづくりからまちの基本的な構成要素を除外することになる。「参加型まちづくり」「まちづくりの住民運動」が限られた範囲にとどまり、大きく発展しないのはこのためである。

 生活者のすべてが快適で安心して生活できる住宅を求めている。そこに公共の福祉、まちづくりや環境問題などに関わる原点がある。身近な足もとの要求を汲みあげることによってまちづくりをすべての人々の問題とし、まちをよりよく変換する展望が生まれる。

5.住民間の調整機能

 ある地域の大規模再開発問題からはじまった住民によるまちづくり協議会が、再開発事業者との工事協定やまちづくり憲章の策定など多くの成果をあげた。しかし、総論の合意形成から各論の論議に移ったところで住民間の意見の食い違いが目立つようになり、協議会の活動は中断してしまった。
 活動中断は直接には協議会の運営問題や行政の姿勢の問題等が原因と考えられる。しかし協議会内部の力でそれらの問題を解消できなかった理由は、住民が最も身近な問題について展望をもたないということだった。身近な問題とは住民自身の住居の改善である。
 協議会活動の成果の一つである「まちづくり憲章」ではまちづくりの目標を「快適な住宅地として‥‥住み続ける」と正しく指摘していた。しかし、住み続けるための基本的条件である住宅の改善についてはふれられてはいない。
 この地域は戦災を免れ、生活道路が整備されないままに木造住宅が密集し、老朽化している。一見して住宅の更新と生活道路の整備が重要課題となることがわかる。この課題が総論合意の内容から洩れていたことは、基本的な課題で一致することが不十分であったことを示している。各論段階における住民間の意見の対立は、現状認識と主要課題での確認が欠けていたために助長された。異なる意向や対立は、現状認識と主要課題の一致点に立ち返ることによってはじめて調整することができるのである。

6.住み続ける展望

 住み続けることを願う人々にとって基本的なことは、安心して暮らせる住居を保全し改善することである。しかし住宅事情の深刻さからその問題解決をあきらめるような事態が進行している。また住宅事情の改善は個人の甲斐性とする偏見も根強い。「住居は人権」の意義は抽象化され、その声はまだ弱い。
 現在の住宅問題の状況は個人的な解決の範囲を超えたところにあるにもかかわらず、これをまちづくりの主要課題から外す傾向が強い。まちづくり活動のなかで住宅事情の改善を図ることは期待できないということになる。つまり、住み続ける展望が失われていくのである。
 住み続ける展望がもてないときに住環境を改善しようとするエネルギーは起こらない。「環境条件が悪いから有効な住宅更新ができない」「住環境が悪いから住み続けたいとは思わない」「長く住み続ける可能性がないからまちづくりの努力は意味がない」「土地を売って転出したい」と、悪循環はとどまることなく、住民の意向は分断される。
 住み続けられる見通しのないところにまちの将来像やまちづくりの展望はなく、一致点を見いだすことは不可能である。まちづくり問題の意見対立、調整不能の状況は、住み続けるための具体的な展望を欠いたところに発生した。

7.まちづくりの目的と課題

 まちづくりの目的に関して最も重要なことは、「安心して住み続ける」という住人の要求を基本に据えることである。これをさらに具体化すると、「住居水準の向上」「住環境・商業環境の改善」等となり、いずれも行政の重要施策にかかわっていることがわかる。
 都心部では、人口構成のボトルネックの補正、つまり中堅世帯層を呼び戻し、コミュニティバランスを回復する定住化促進が重要課題となっている。多くの自治体で定住化を促進する住宅条令が策定されているが、単発の住宅供給にとどまるものが多く、住宅供給を計画的に行うとともに周辺地区の環境整備を図る総合的な施策とする視点が弱い。
 定住促進はまた、相対的な高齢化の進行をとどめることとなり、高齢化対策の一環ともなる。
 このようにみると「安心して住み続ける」という住民の個々の要求が、地域社会の構造を改変する働きをもつことがわかる。個別の住宅要求が個人的な問題にとどまらず、それを動機としてさまざまな課題をかかえたまちづくりが進行する。住民個々の要求が総合的なまちづくりを推進するエネルギーとなるのである。

8.まちづくりのルール

 まちづくりのルールは都市計画法と建築基準法の二つの法律を骨組とするが、全国一律の規定であるため地域の実体に合わないという問題がある。これを補うものとして自治体が定める宅地開発指導要項や各種の条令があり、乱開発や建築公害等の防止を目的としている。また、地区特性にあわせて地区別のルールを定めることができる地区計画制度等の規定もある。
 地域住民の合意を前提とするルールは、地区特性に沿った規制・誘導の規範を定め、その目的に即した整備計画として策定される。地区別の計画づくりをその策定段階から住民参加で行うことによって住民主体のまちづくりを保障することができる。しかしこのようなまちづくりの例はまだ少ない。地域の実体、住民の要求や合意に基づいたルールの策定を欠いては、まちづくりの正当な展開は考えられない。
 まちづくりのルールを地域の実態や住民の要求に基づくものとするならば、ルールづくりは一般的な規制を持ち込んだり新たに設定するようなことではなく、地域の歴史や住民の生活に内在する課題と規範を顕在化させる作業であることがわかる。「ルールづくりは困難」とするのは、それに関わる行政・専門家が地域の実態を住民の視点から見ることができず、住民の生活から遊離して「まちの課題」を見ていることを示すものである。

9.まちづくりの仕組み

 まちづくりの仕組みには住民の自主的主体的な組織、行政の推進体制および民間事業を支援する第三セクター等が考えられる。これらはルールや制度を有効に活かし、まちづくりの事業に結びつけるために欠かせないものであるが、その重要性が十分に理解されているとはいえない。
 改善型まちづくりは地域住民が参加する民間事業を中心として進展し、公共施設はそれにともなって整備されるという性格をもつ。総合住環境整備事業など改善型まちづくりの制度は年々改善され充実してきたが、その効果は十分に発揮されていない。制度に規定される公共施行の事業に力が集中し、民間事業を促進することによって地区整備を図るという方策が浸透していないからである。住民の合意形成が困難なことから公共施行に傾斜するという見方もあるが、むしろ住宅更新等の民間事業を行政が支援する仕組みが弱いことが主因といえる。
 制度が充実していても生活者一般はその制度を運用することができない。ここに民間事業を支援する公的なまちづくり推進体制の意義がある。
 事業支援体制とともに住民の協議組織に対する行政の関与も欠くことはできない。一般に住民の協議組織は日常的なものではなく、外圧があってはじめて組織化されることが多い。したがって住民の意向に基づくルールづくりやルールの運用は、行政の日常的積極的な働きかけを必要とする。しかしこの行政の働き自身も外圧や事件を契機とすることが多く、地域に内在する必要から住民協議が開始されることはあまりにも少ない。地域別の実体に見あったルールづくりの遅れが、外圧に左右されてまちづくりの仕組みが機能しない原因となっている。
 またこの仕組みは「まちづくりの目的」のもとにそれぞれの立場から連携し協力することで効果をあげることができるが、3者がバランスよく連携している事例は少ない。共通の目的をもつならば連携は必然的に成立するはずである。協同できないということは、その仕組みの目的が建前に終わっていることを示し、仕組みの役割に対する不理解とあわせて事業が住民の意向に反して行われる要因となっている。

10.事業化と合意形成

 まちづくりの事業は安心して住み続けるための方策である。したがって住民の基本的な要求に基づくまちづくり計画が事業の前提となり、次のような計画優先の指針を基本として事業化を図ることになる。

(1) 住民の合意に基づいた計画をまちづくりの目標とする。

(2) 計画を先行させ、計画を実現する各種の事業手法をあてはめる。

(3) 事業制度の限界を理由にして計画(地域住民の利益)を切り捨てない。

 しかし、まちづくりの事業のなかで地域住民の不安や不満を引き起こす事例が数多く見受けられる。それは計画が事業制度に従属して規定され、住民の意向が事業の枠組みの範囲外では切り捨てられるところに発生する。つまり、事業制度を優先する逆立ち現象がおこっているのである。この現象は次のような特徴をもっている。
(1) 事業制度を目的化する。

 事業の枠によって地域の必要性や住民の意向が規制され、事業の仕組みになじまない整備課題は切り捨てられる。
 まちづくりの目的にあわせ、その実現を図るために必要な事業制度を併用するという視点が弱い。
(2) 住民(協議会)の提案・合意を計画立案・事業化の前提とする。
 行政の責任又は支援のもとに行う計画策定やその予算化の際に、その実施についてあらかじめ住民の合意を求める(合意内容が未定である予算化段階に住民の意向を確かめることはできない)。
 「住民参加」を形骸化し、住民の合意が得られないことを理由に予算化等の必要な措置を行わない。
(3) 日常的継続的に住民の意向を汲み上げる仕組みや地区ごとの整備計画の準備がない。
 住民の共通の現状認識や合意形成の場が保障されず、住民の表面的要求を断片的に取上げることになり、住民間の矛盾を拡大する。
 行政の計画を判断する根拠を用意できず、住民の意向に反する事業に対する歯止めがない。

 これらはトップダウン「手法」の特性と言えるもので、改善型まちづくりを阻む最大の障害となっている。しかし、これを克服するためには特段の努力や能力を必要としない。地域の課題を住民の生活実態から注意深く引き出すことが第1の関門で、これに応答する施策について行政内部の合意が得られるならば、その後の展開は一般の事業手法に比べてさほど大きな変化はない。

11.仲町愛宕のまちづくり

 改善型まちづくりの理念とプロセスについて一般的な問題点を述べてきた。これは主に上尾市仲町愛宕地区での経験からまとめたものであるが、改めてこの事例のプロセスを振り返り、まちづくりを促進するポイントについて概括する。

1) 中心市街地整備計画
 仲町愛宕地区のまちづくりは「上尾駅周辺地域整備計画第一次構想案1984(昭和59)年度」に提案された中心市街地整備計画を根拠として始まった。またこの整備計画は「上尾市総合計画」に策定を予定されたものであった。
 この位置づけが基礎調査から事業に至る各段階で担当部門の認識と目標を明確にしただけではなく、住環境整備というなじみの薄い課題について庁内調整を図る際の指針となった。その効果は事業の経過のなかではほとんど意識されなかったが、この前提が仲町愛宕地区のまちづくりを推進する第1の保障だったといえる。

2) 住民の意向〜基礎調査
 住環境整備の基礎調査は、終始住民の意向把握を主題として進行した。まちづくり懇談会での応答をニュースに掲載して対象の全世帯に配布し、アンケートや個別ヒァリングなどの経過・結果も同様なルートによって周知し、その反応を確かめながら問題点の集約、課題・構想の提案を行った。住民意向の確認や調査経過の報告を各種の機会を利用して行政が直接行い、住民と行政間の意志疎通、信頼関係を強めるという効果をあげた。
 住民協議会の組織は当初からの検討事項ではあったが、これを目的化せず、形式的に流れることを恐れて直接方式をとることになったものである。

3) 総論の確認
 提案と住民意向の確認という応答を繰返しながらまちづくりの方向を明らかにしていった。地区施設の不備によって老朽住宅の更新が進展せず、高齢化が進行し、まちが衰退する関係も明確になった。これを受けて、住宅更新と住環境整備を一体的にすすめる住環境整備計画は比較的早期に確認された。

4) 建替えを阻害するもの
 地区整備の総論が確認されても老朽住宅の建替え及び地区施設整備の展望は暗かった。建替えを阻害する要因が積み重なり、あきらめが先行して建替え意向は表面化せず、共同建替えに対する拒否反応も強かった。
 しかし、個別に行った住民との対話のなかで、建替え阻害要因が累積した最も困難な条件をかかえているところから共同化の拒否反応が解け始め、共同化の効果が理解されることによって建替え意向も顕在化してきた。住宅の老朽化、高齢化、調整困難な権利関係、接道条件の不備に加えて強い定住意向を示す区域が共同化の適地として浮かびあがった。

5) 個別の動機
 建替えや共同化の動機は多様であった。住居の改善、権利の安定化、老後の生活安定、老朽木賃アパートの更新、収益の確保、資産の保全、相続対策、子供の住宅建設等、さまざまな動機に対応しなければならなかった。また個々の動機に対応すること、その解決策を追求することによってそれぞれの共同建替えを実現することができたとも言える。
 合理的なまちづくり計画が総論として合意されても、個々の地権者が住宅更新・土地利用を希望しない限り共同化やまちづくりの事業は具体化しない。共同建替えは個別の動機を発掘し、その解決を図ることから始まり、まちづくりの事業として進展するのである。

6) 共同建替え──計画の実現性
 停滞し絶望視していた住宅更新が共同建替えによって実現し、それにともなって住環境整備が進行する。地区施設用地等の補償費が共同建替え事業の補助金に加わって事業採算を好転させる。保留床は原則として地権者が取得し、特定優良賃貸住宅制度の家賃補助を受ける賃貸住宅として、中堅世帯層の呼び戻しと安定した賃貸経営を図る。
 共同化による定住確保・有効土地利用とともに住環境整備と良質な住宅供給が進行し、それが共同化を支える。このような仕組みが計画の実現性を担保する。

12.新まちづくりの思想

1) 「共同化はいや」
 戸建て住宅の居住者は共同化を拒否する。狭小宅地、借地・借家、接道不適宅地といった悪条件にあっても戸建てに固執する。資産を共有する不安、マンション生活の嫌悪からくるものである。このような感情のもとでは、共同化のメリットやまちづくりの必要性を説くことで合意を得ることはできない。
 まず共同化ではなく、現在の住居の問題点や改善要求を明らかにし、さらに家族の将来を展望した住居を想定する。その家族が真に求める住居をイメージできたとき、その実現の欲求とエネルギーは高まる。住宅事情をとりまく八方塞がりの状況を脱して本来必要な住居を確保し、安定した住生活が得られることを理解したときに、次善の方策として共同化を選択することになる。

2) まちづくりは私的な個別要求から
 個々人の住宅事情の改善を根底におかないまちづくり論議は不毛である。
 まちづくりに関する合意は、個別の住宅改善、土地利用意向の延長上にあってはじめて成立する。個別〜私的要求を公的計画が支援するという関係を理解することによってまちづくりマインドが成長する。
 私的要求つまりエゴが公共の目的と対立するという危惧があるが、安定した住生活を求める生活者の共通した立場は、本来公共の目的と一致するものである。

3) 地区整備の視点
 地区整備につながらない単発の事業は矛盾を拡大する。企業サイドの開発ポテンシャルはまちづくりの動機としては弱く、整備効果も施行区域に限定される。
 改善型まちづくりは従前居住者の個別の住宅改善要求をまちづくり推進のエネルギーとする。生活拠点に関わる個別の要求が合意形成を促進し、総合的なまちづくりの効果をもたらす。

4) 事業化の障害
 改善型まちづくりの計画が合理的なものである限り、その事業化の障害は基本的には住民の側にはない。住民の理解が得られないことを嘆き、合意形成を最も大きな壁として事業化をためらう傾向がある。実は表面的な意向を取りあげて住民の意向を分断・対立させ、住民が合意できない計画を提案していることが障害となっているのである。現状認識や生活レベルでの一致点を確認し、それに基づいて課題や計画を提起するならば、住民の理解は容易に得ることができる。
 また、行政が住民の意向や合意に基づいて行動するという「住民参加方式」にも問題がある。すべての段階で住民の意向が確認されなければ前へ進まないという行政・事業者の姿勢が事業化の可能性を閉ざしている。
 共同化促進の助成を関係者の参画意向が示されなければ行わないという類である。なかには事業計画作成助成の条件に構想を示せというものもある。共同化に不安を感ずる住民はそれを嫌い、検討することも避けようとする。促進助成の条件にまず参画の合意を求めるという思考は、トップダウン方式の遺産であろうか。
 このような思考には、地域や住民の要求に基づく計画の実現という視点はなく、制度の枠内で手続きを重視し、柔軟な対応の必要を認めない。責任を負わない待ちの姿勢となり、本質的な問題解決から遠ざかることになる。

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