ホームフェルメールの研究エピローグ真珠の耳飾りの少女(その時が来た)

真珠の耳飾りの少女

T.その時が来た


 「あとで、2階に来てくれないか?」と夕食を食べ終えた、フォスは、カタリーナに言った。そして、自分は、静かに二階に上がって行った。

 
 最近の、フォスの作品は、私から見ても、素晴らしい。いつものように、そんなに沢山は描かないが、迷いは消えている。私をモデルにした絵も、そうでない絵も、わくわくする。


 ただ、絵を描くのに、注文が多くなって来ているのも事実だ。今度は、誰をモデルにするのだろう。どこの部屋で、描くのだろう。カタリーナは、子供の世話をしながら、色々のことを考えた。それは、楽しみでもあり、苦痛の日々の始まりでもある。


 夫に、良い絵を描いて欲しい、それが彼女の1番の願いだ。「マーリア、フランシクスを看ていて。すぐに、戻るから・・・。」と、1歳になったばかりのフランシクスを、長女のマーリアにあずけて、急いで階段をかけ上がった。


 「コンコン。」とノックしたあと、「入ります。」と言って彼女は、2階のフォスの部屋に入った。他の部屋に入るのに、こんなことはしない。ただ、このフォスの仕事場に入る時だけは、自然とこうなってしまうのだ。


 フォスは、お気に入りのブルーの椅子に腰掛けて、壁の方を見ていた。そして、カタリーナが、部屋に入ると同時に、ゆっくりと彼女の方を向いた。そして、つぶやくように、言った。


 「レジーナを描きたい。」その言葉に彼女は、驚いた。「ええっ、あの娘は、もう・・・・。」という、カタリーナの言葉を遮るようにフォスは言った。「そう、だから、カタリーナ、君の力が必要なんだ。今どうしても描きたいのは『レジーナ』なんだ。」

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