怪談 捜しても捜しても見つからぬ幻の美女

                              

                                L北村猪之助

 

 又々くだらない話で恐縮である。去る十一月十七日、運河プラザ三番庫に於いて「まちの語りべ第一夜 色内・運河周辺」が小生の担当で開催された。一応三番庫は満席になるだけの聴衆が集まったが、言わずと知れた事ながら私の話は、かつて見たこと、聞いたこと、経験したことを話す人情話の様なもので、学問的あるいは郷土史的な価値は更々ないのであるとお断りをした上で、その時の一節として表題のお話を申し上げたい。

 

 私の子供の頃、夏は泳ぐか艀の上で遊んでいるかであった。荷役仕事が一区切りつくと、艀の船頭を中心にして一服しながら、四方山話に花が咲く。大抵は酒と女性の話で、マセタ子供達も話の輪に首を突っ込み、じっと話を聞いている。

それは「この界隈で一番美人の嫁さんは川田の嫁さんだべ。夜は矢張りカフェーサンバシのマダムに敵うのはないべさ。」ざっと、この様な接配となる。子供達もそれをしっかりと覚え、餓鬼大将の命令で「サンバシのマダム見に行くべ」となれば一同ぞろぞろ打ち揃って、色内十字街に有る「カフェーサンバシ」に行くのである。

中を覗くと数人の女性はいるが、どう見ても「マダム」らしき女性はいない。一同「今日もいないぞ」とブツブツ言いながら帰るのであるが、この繰り返しである。然し考えて見ると晝間はいずれも化粧を落としスッピンのノッペラ坊で、どう捜しても子供達の目では、美人マダムを発見出来ないのである。従って、カフェーサンバシのマダムは遂に我々にとっては、いくら捜しても見つからない幻の美女で終わったのである。

 

 今でも「カフェーサンバシ」を想い出す事がある。マダムは山田五十鈴型か、田中絹代型か、はたまた入江たか子型か、夢の中の美女は色々な面影を見せるのである。

 

以上が怪談 捜しても捜しても見つからぬ幻の美女、カフェーサンバシのマダムの一席である。どうもご退屈様でした。