fu_t.jpg「ふみえの真実3」


 某社某雑誌(2002年4月)より転載。

3杯めは、そっと出し……

 2000年6月に事務所を独立して、2周年になろうとしている4月、下記のようなインタビュー記事。独立というものは、どんな業種であれ、とにかく、非常に勇気と努力が必要なことに違いない。一介のサラリーマンである私には、尊敬の眼差しだ。


2002年4月雑誌掲載

7年かけて広げた翼
              細川ふみえ


 私が芸能界にデビューしてから、ちょうど10年後の2000年、私はずっとお世話になってきた事務所・イエローキャブ(*1)から独立(*2)しました。この出来事は私の人生にとって、大きな転機になりました。
 私が20代のほとんどを過ごしたイエローキャブには何から何まで面倒を見てもらい、計り知れないご恩があります。特に野田社長(*3)は愛情の溢れる人で、所属するタレントは実の娘のようにかわいがってくれました。私には、何も不満はありませんでした。
 けれど、3年ほど仕事を続けると、少しずつ疑問に感じてしまう部分も出て来ます。社長にすれば、かわいいタレントを守るため、気心の知れている会社やスタッフとのおつきあいを優先します。また会社としてのおつきあいもありますから、仕事の範囲がある程度固まってきてしまうのも、やむを得ないことです。
 私はとても安全な環境にいたけれど、カゴの中の鳥でした。もっと広い世界が見てみたい、新しい出会いをしたい。そんな気持ちが自然に芽生えてきたのです。
 もうひとつ、私にとって残念だったのは、会社としては、私の「何で?」という素朴な質問を、とても嫌がるところでした。仕事を与えられて現場へ行くとき、何をやるのかは聞かされていますが、どういう経緯でこの仕事をすることになったのかまでは、説明されなかったのです。
 こちらから持っていった話なのか。昔からおつきあいがあった会社なのか。人間同士の繋がりがわからないので、現場に行って、どう挨拶するべきなのかわかりません。その仕事がスタッフの誰かの営業努力で得たものだったとしたら、ひと言でも担当者にお礼が言いたい。
 ところが、「このお仕事は誰が取ってきてくれたのか、教えてください」とスタッフに尋ねても、はっきり答えてはもらえませんでした。確かに、タレントは与えられた仕事をー生懸命にやって結果を出せばOKというのも事実。どこの芸能事務所でも、状況は同じなのです。けれど私にとっては、それが大きなストレスでした。ことあるごとに「何で?」と聞くので、「本当はこの仕事をやりたくないから、そんなことを言うのか?」と誤解されたこともあります。
 そんなことが積み重なると、私も精神的に辛くなる。そして、「思い切って社長に気持ちをぶつけてみよう」と決心したのです。私はすごくドキドキしながら、社長と2人で話すきっかけができた時に、自分の考えを伝えてみました。「私、現場でどう振舞っていいのかわからないんです。私なりにきちんとわかって仕事をしたいんです……」
 この業界には、タレント本人には言いづらいことだってたくさんあります。あえて真実を伝えないことが、社長の深い愛情なのだともわかっています。
 野田社長は「うーん……」と言葉を濁すばかり。私の気持ちをしっかり理解してくれている社長は、複雑な思いだったと思います。
 けれど、私は話すチャンスを探って、社長に訴え続ける覚悟でした。もちろん、そんなにしょっちゅうではありません。話を切り出したのは、半年に1回ずつです。
 そうするうちに、以前からすでに漠然とあった「独立してみたい」という思いが、私の中でハッキリしたものになってきました。
 ただし「独立」という言葉は、私からは口が裂けても言えません。そんなことを私が言うのは身の程知らずだとわかっていたし、第一絶対許されるはずもない。でも、でもいつか、もしかしたら……。
 そして2年前の春、急に社長室から呼び出しがありました。「何かしら」と思いながら出向くと、突然、社長がこう言ったのです。
 「会社、作ったらどうだ? うちの子会社(*4)として独立して、お前が代表になって好きにやってみろ」
 ――私はただただ呆然! 万が一でも無理だろうと思いこんでいたので、「わかりました。ありがとうございます」とだけ返事をしたものの、頭の中は真っ白です。
 独立の夢を心の中で想像しすぎていたので、現実と錯覚したんじゃないか。そんなふわふわした気持ちでうちに帰り、丸3日間、放心していました。野田社長は、ここまで私のことを考えてくれていた。振り返れば7年、待ち続けてよかった……。
 そして社長の言葉をいただいてから3ヵ月後に、あわただしくも無事、個人事務所を構えました。
 独立してみて一番変わったのは、仕事に対する意識です。責任感が今までとはまったく違ってきました。それに仕事に関する情報は、すべて耳に入ります。もちろん、知らなかったほうがよかったなと思うこともありますが(笑)。
 私が言うのはおこがましいのですが、ビジネスの厳しさを少しずつ味わうにしたがって、野田社長の偉大さがより一層実感できるようになりました。それに、仕事の企画の話をいろいろ持ちかけてくださるなど、いつも気にかけてくださるのがよくわかります。本当に有り難く思っています。
 いろいろ苦しいこともありますが、今は、関係者と対等な立場で仕事を作り上げる楽しさを味わっています。どこまでやれるかわかりませんが、自分が選んだこの道をこれからも精一杯歩いていきたいと思います。

注:
 *1 現在、野田義治氏は「イエローキャブ」から退陣している。
 *2 有限会社「ウェルメイド」。
 *3 野田義治氏は、現在「サンズ・エンタテインメント」の社長。
 *4 現在、「ウェルメイド」は「イエローキャブ」の子会社という位置づけではない。


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管理者補足

 本題から、はずれるが、ここで注意しておきたいのは、「仕事は、会社が選ぶ」ということ。どんな仕事でも、個を殺して業務をこなす場合がある。私生活を消してでも遂行する仕事がある。必殺仕事人というわけではないが、世間一般に知られている彼女のイメージと彼女そのものには、やはりギャップがあるのだ。
 これは、別にフーミンに限った話ではない。世のアイドルや俳優が、どうしてあんな仕事をしているのか。もちろん本人が大好きでこなしている場合もあるが、その逆もある。また、仕事はアイドルや俳優が探してくるのではない。探してくるのは事務所のマネージャや社長であり、仕事を持ちこむのは、それなりの思惑を持ったテレビやラジオのスタッフなのだ。メディアのスタッフが求めているのは、その芸能人の「声」かもしれないし、「姿かたち」かもしれない。あるいは、「キャラクター」かもしれない。そこで動く基準は、やはり視聴率や売上であり、決して、アイドルや俳優の意思のみではないのだ。しかし、厳然たる数字や金が動く中で、アイドルや俳優の虚像は、メディアによって作られていく。ドラマやコントで表現されるものが、そこに演技する俳優の個性ではない。自分のキャラクターを地のままさらけ出して思い通りに仕事ができるのは、ほんのわずかな人たちのみなのだ。