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酸性雨とはなにか
〔メカニズム〕 化石燃料を燃やすと、二酸化炭素だけではなく、硫黄酸化物や窒素酸化物が大気中に排出されます。窒素酸化物は主に、自動車や工場から、硫黄酸化物は石炭火力発電所や工場およびディーゼル自動車などから排出されます。大気中で化学反応を起こし、微小な硫酸や硝酸の粒子となって大気中に浮遊した後、これらの酸化物は地上に戻ってきます。
地上に戻ってくる形態には2つあって、1つは雲を作っている水滴に溶け込んで雨や雪や霧として地上に戻ってくる湿性沈着。このとき、硫酸や硝酸がたくさん溶け込んでいると、雨水は強い酸性を示します(これが酸性雨という名前の由来)。2つ目は、晴れた日でも風に乗って浮遊し、樹木や建物などにくっついたり、わずかですが肺の中にも入ったりする乾性沈着で、この2つを合わせたものが、いわゆる酸性雨(acid rain)です。
酸性か、アルカリ性かを調べるときには、pH(水素イオン濃度、ぺーハー)という数で表します。pHが7のときが中性で、7より小さいほど酸性が強く、7より大きいほどアルカリ性が強いことを示します。自然の雨のpHは5.6であり、このpH5.6未満の雨を酸性雨といいます。pH2.5は酢、同3.5はオレンジジュースに相当します。
環境省による1998年度〜2000年度における降水の全国平均pHは4.72〜4.90であり、欧米とほぼ同程度の酸性雨が継続的に観測されています。また2002年各地のpHは、札幌4.83、輪島4.62、大阪4.75、小笠原5.11で、日本列島すべて完全な酸性雨でした。
〔空中鬼〕 中国で酸性雨は「空中鬼」と呼ばれ恐れられています。購買力平価―2国間の物価水準で比較した場合の為替相場―を基準に取れば、すでに経済規模で中国は日本を抜いており、やがてアメリカに迫ると予測されています。経済規模の拡大と酸性雨の増加とはほぼ比例するほか、中国では、未だにエネルギーの大半を、酸性雨を多く排出する石炭に頼っているのに、その対策が十分には採られていません。しかも、世界中で大気中微粒子濃度の高い10都市のうち、9都市は中国にあります。
さらに、中国を除く東アジア地域においても各国の経済発展に伴い、硫黄酸化物・窒素酸化物の排出量が増大すると予測され、わが国への招かざる客、「空中鬼」の越境汚染が懸念されます。(これをうけて、2001年1月から、東アジアモニタリングネットワークが本格稼動を開始しました。参加国は中国・インドネシア・韓国・日本など12カ国です)。
酸性雨の影響
★ 湖沼・河川への影響 pHが6未満になると、ほとんどの魚類は棲息することができません。北欧や米国の冬は寒く、酸性の汚染物質を含んだ雪が降り積もります。そして春になり気温が上昇すると、その雪は一度に溶け出して川や湖を酸性化させます。この現象をsnow melt acid shockと呼び、ヨーロッパでは養殖魚の孵化の時期と重なるため大きな被害が発生します。そのほか、ノルウェーでは、湖沼の酸性化により1300k2mの地域で魚がいなくなり、スウェーデンでは、1万の湖沼が酸性化し、うち9000の湖沼で魚類の生息に悪影響がでており、カナダでも4000の湖沼が死の湖と化しています。
★ 森への影響 かつて日本の足尾では、銅を精錬するとき、たくさんの二酸化硫黄が発生し森の木々を枯らしました。同様の被害は現在、世界の各地で起きています。たとえば、ニッケル精錬所があるロシア西部のコラ半島では、枯れた樹々が数10キロにわたって続いています。さらに酸性雨は土・水・土中のいろいろな生き物や樹木に影響を与えます。たとえば、酸性雨が直接葉に触れ、あるいは土壌が酸性化することでアルミニウムが溶け出し、森林の枯死など植物の根に悪影響を及ぼしています。ポーランド・旧東ドイツ・チェコスロバキアにまたがる地域は「黒い三角地帯」と呼ばれ、この三角地帯からシベリアの東端までは小鳥のさえずりも聞こえず、樹木の新芽も出ないともいわれています。
このほか、酸性雨の被害が多い地域はカナダ・アメリカおよびドイツとデンマーク・スウェーデンなど北欧です。デンマーク・スウェーデンは工業国ではありません。いわゆる「もらい公害」です。酸性雨は気流に乗って、長い距離を移動し発生源から500〜1000キロメートルも離れた地点でも観測されています。このため、ヨーロッパ諸国は79年「長距離越境大気汚染条約」を締結し、広域な酸性雨対策を講じています。
★ 建造物への影響 パリやローマなどヨーロッパの都市ではよく、古い建物や建造物の壁や軒下に「つらら」のようなもの下がっているのを見かけます。それは割れ目から入った汚れた雨水が、コンクリートの成分カルシウムを溶かしながら外に出てきて、それと空気中の炭酸ガスとが反応してできた炭酸カルシウムが、「つらら」のようになって伸びたものです。酸性雨はまた、コンクリートのほかに、大理石の床や彫刻、銅の屋根まで溶かし、銅像にさびを発生させます。
★ 日本の被害 @ 久保田孝夫は、50年以上、鈴鹿山系の山に登り続けています。最近、ササとササの下で地表を覆っていた野草や下草、コケ類の枯死に気づきました。酸性雨の影響ではないかと、彼は不安を募らせています。A「黄砂はまだいいのだが、酸性雨がネー」「ここは海の中道にあるので、松は根を深く張ることができません。見た目より弱いのです」。と、立ち枯れの松を彼は指し示しました。これは天橋立の松並木で早朝、筆者と地元の古老が交わした立ち話の実録です。B ほんの少しpHが下がっただけでヒメマスは、産卵を止めるなど、魚への影響がわが国でも最近報告されています。
今までのところ、日本では酸性雨による被害はあまり顕在化していません。しかし、一般に酸性雨による陸水・土壌・植生等に対する影響は、永い期間を経て現れると考えられています。すでに欧米と同程度達している酸性雨が降りつづき、それに東アジア由来の「空中鬼」が加われば、時には「緑の黒死病」というセンセーショナルな呼び方がされるほど深刻な、酸性雨の被害に曝される危険性は高いと考えられます。
四面楚歌
司馬遷、史記『項羽本紀、第七』「書き下し文」―項王の軍垓下に僻す。兵少く食尽く。漢軍及び諸侯の兵、之れを囲むこと数重なり。夜漢軍の四面皆楚歌するを聞き、項王乃ち大いに驚いて曰く、--------。で始まる「垓下の戦い」は「四面楚歌」の語で有名な場面。漢の沛公らの敵軍に囲まれ、垓下の城にたてこもった項羽が、四面の楚歌を聞きながら、最後の酒宴を開き、愛する虞美人と涙の唱和をするクライマックスシーンが描かれています。楚歌は敵対する楚の国の歌。したがって、「四面楚歌」は敵軍に十重二十重に取り囲まれ、追いつめられ、身動きのできないせっぱつまった状態を意味します。
大気中に排出された汚染物質は決して、地球の外に出て行かないばかりか人為的には回収することも、処分することもできません。汚染がある一線を越えたら、地球は暴走を始めます。この段階にまですすんだら、文明は「四面楚歌」に陥り、崩壊するでしょう。
以上2題では、大気汚染の現状について語りました。
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