生態系とヒト

生態系とはなにか 

 ある一定の地域における生物種と生物量(個体数)をその地域の生物相といいます。これらの生物種はそれぞれが独立して存在しているのではありません。お互い協力し合ったり、食う―食われるの関係にあるなど影響しあって存在しているのです。このような生物種間あるいは生物個体間の関係を、外的環境(温度・湿度・空気・太陽光など)を含めて統一的なシステム(系)とみなしたものを生態系といいます。

生態系の上位にある大魚が中魚を捕食し、中魚が小魚を食べ、小魚がプランクトンを食するという、つながりかたの基本的なものを食物連鎖といいます。しかし、昆虫類のような小動物では食物連鎖は一様ではありません。したがって、生態系にはさまざまな食物連鎖があり、それが錯綜して網の目のような形を作っています。これを「食物網」と呼ぶことがあります。

生態系の構成者とその役割を見ていきましょう。

 ★ 生産者 植物は太陽エネルギーを吸収して光合成を行い、無機物から有機物を作ります。この過程で、二酸化炭素を大気から吸収し、酸素を排出します。  

消費者 生産者の作った有機物を食べてこれを消費します。消費者は草食動物のように植物を直接食べる「第1次消費者」、草食動物を食べる肉食動物を「第2次消費者」、第2次消費者を食べる「第3次消費者」に分けられます。

 ★ 分解者 微生物(細菌・細菌類)は枯死した植物ならびに動物の排泄物や死骸を分解して無機物に還元します。分解者によって分解された無機物は、再び生産者に利用されます。したがって、物質は無機物から有機物へ、有機物から無機物へ交代します。この作用を物質交代と呼びます。

生態系の危機

[土地を侮辱する] 小さじ1杯の健康な土壌(微生物を含む土地)の中には、1万を超える種が10億個生きているといわれています。すでに述べたように、これら無数の微生物(分解者)がそれぞれ働きをやめてしまえば、この惑星の生命は存続できなくなります。

細菌は、信じられないほど、形も大きさも性質もさまざまです。たとえば、土壌の中に棲む細菌はべたべたした粘液を出して、土壌の粒子と粒子をくっつけています。この細菌の働きがなければ、土壌の細かい粒はできません。細菌はまた、牛糞を科学的に分解して土壌に還し、植物の養分にするという重要な役目も果たしています。ほかにも重要な微生物として、菌類がありますが、これらさまざまな種類の菌類や細菌がみんなそろっているおかげで、植物はバランスの取れた食事を腹いっぱいたべることができるのです。

この不思議にみちた地下の王国では、いたるところでこうした無数の微生物の驚異に満ちた営みが繰り広げられていて、その物語はどこまでいっても終わりがありません。ところで、それら無数の微生物の中の、たった1つの種がいなくなるだけで、土壌は健康を失うと考えられています。

この微生物を含む土壌に毒の化学薬品をばらまいたらどうなるでしょうか。イギリスでの実験によると、ある値を超える合成化学物質を定期的に散布したら相当数の土壌微生物が死に絶え、土壌中の有機物が乏しくなりました。化学薬品を撒かない区画にいる微生物を10とすれば、撒いた方は1でした。ちなみに、化学肥料を撒くのは、生物学者の間では土地を「侮辱する」行為と呼ばれています。微生物がいなくなった土壌は、工場の電源を切ったのと同じ状態、人間は自らを痛めつけているのです。(加えて、農薬は残留して直接身体に害を与えるほか、環境ホルモンとして作用し、子どもの知能障害などを引き起こします)。

 人類のエレジー〕  旧約聖書・創世記の神は、人間を万物の霊長に指名して、自然を征服し、これを加工し、利用することを人間に命じています。森羅万象は人間に奉仕するために存在し、煮て食おうが、焼いて食おうが意のままというのです。ましてや、微生物など歯牙にもかけません。この原理が、西洋文明には色濃く残っています。混沌の根はここにあります。

新聞の投稿欄『牛久の田にも「沈黙の春」が』には、―今、田には人影はなくカエルの声もせず、オタマジャクシの姿もありません。ましてメダカ・ドジョウ・ザリガニなどの水辺の小動物の影もありません。まさに「沈黙の春」の光景が広がっていました―。と記されています。

この風景は人間の危機を暗示していると考えられ、メダカやドジョウに対する惜別の念は、そのまま人間に対する哀歌に当たるでしょう。生態系は、簡単に壊れてしまいます。たとえば、温暖化の影響でヒナの餌となる昆虫が早く育ったとします。すると、ツバメのヒナは飢え死にしてしまうでしょう。また、2004年秋、日本海側でクマの出没が多くみられました。温暖化が台風を呼び、ドングリが落ち、それを小動物たちが食べ、クマの餌が不足し、飢えたクマが食べ物を求めて人里に出没したのです。

地球映像祭入選作品『西表島』の監督は、次の趣旨のメッセージを寄せています。― 船で向かうと森(島全体)がひとつの生き物に見える。近づくと、個々の生物が森を作っている。植物は演奏し、動物は歌っている―。これは生態系が織りなす豊かさと歓び、生態系への賛歌です。いとおしいまでのこの生態系の中でのみ、人間は生きていけるのです。次へつづく。

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