捨てられる食料

エントロピーの法則

 生産したエネルギー以上にエネルギーを消費することは、それは生産ではなく、消費と考えるのが妥当である。と中村修は書きます。一般にエネルギー産出投入比(生産性)は、「産出エネルギー」÷「投入エネルギー」で求められます。水稲の1990年のこの比率は、【産出エネルギー(米)】÷【投入エネルギー(労働、および化石燃料)】=2÷100.2でした。つまり10のエネルギーを投入したにもかかわらず、産出はわずか2だったという意味です。

「宇宙のエネルギー」は一定です。熱力学の第二法則エントロピー増大則によれば、利用可能なエネルギーは、利用不可能なエネルギーへと劣化していくし、いかなるエネルギーも他のエネルギーの消費なしに作用することは絶対に不可能です。これらを敷衍すると、中村修の主張「生産ではなく消費」の正当性がよく理解できます。

私たちはいま、大量生産・消費・廃棄文明を享受していますが、中村修が明らかにしたように、経済成長が続けば続くほど、人類の生存基盤は崩壊していきます。にもかかわらず、私たち日本人の多くは、「成長教」という一神教に帰依し、今日もまた成長・成長・成長-------を唱え続けています。これはもう、狐に化かされ、あげくのはてに、狸御殿で飲んで、歌って、踊っている人類終焉の図にほかなりません。以下、その奇妙な態様のうち「食」について見ていきます。

飽食の行くへ 

 地球環境映像祭の入選作品「飽食の行方」のエグゼクティヴプロデューサー、ドミニカ・シュウのメッセージを要約して示します。「ゴミの減量化やリサイクルといったことが注目を浴びる中、食物の浪費について香港ではほとんど話題にのぼることがない。香港の人びとは1日に少なくとも2000トンもの食料を埋立地に廃棄している。その中には飛行機、レストランそして食料品店などから手つかずのまま棄てられる食物まであるのだ」。

次にその映像のあらましを示します。

1)航空会社キャセイパシフィックの機内食は、いつも満席分準備するほか複数のメニューをそろえるので、少なくとも半分の手つかずのランチが残ります。このランチは全部廃棄されます。(日本では機内食は輸入品とみなされ、廃棄しなければなりません)。

2)レストランの客は豊かになったために、大量の注文を出すため、約30%の食べ残しがゴミとして捨てられます。また、料理の過程で生じる使い残しはもとより、手付かずの材料もゴミ箱に棄てます。加工して利用するより安くつくからです。パン屋では前日のパンを売ると信用を失うので、すべて廃棄します。

以上、「香港」を「東京」に置き換えても実情は変わりません。

ついに東京都はカラス退治に立ち上がりました。盛り場のカラスのなかでも銀座のカラスは有名。早朝に飛来し、ビニール袋を食いちぎりゴミを散らかし放題にします。また特に、子育ての時期には人を襲い、それに糞害も加わります。カラスは知能が高く人の顔を見覚え、もしその人が過去にカラスとトラブルを起こしたことがあれば、待ち伏せしたりして執念深く襲ってもきます。道路にクルミを置き車に割ってもらうことなど、カラスにとっては朝飯前です。

ある研究者が、竹籠を使いカラスの捕獲に成功しました。ところがその後、2度も3度も同じカラスが竹籠に入っているではありませんか。知能が高いといっても、たかがカラスの浅知恵と、私たちは考えがちです。だが、浅知恵ではありませんでした。捕まっても離してもらえること、おまけに籠の中には十分な餌があることを、当のカラスは学習済みだったのです。都会のカラスは栄養がよいせいでしょうか、丸々と太っています。実は、太っているのはカラスだけではありません。ノラ猫やノラ犬も、つやつやと太っています。高級料亭やレストランから捨てられた豪華な料理を、彼らは食べているからです。

一体、私たちは毎日どのくらいの食料を捨てているのか。それぞれの家庭から出る食料ゴミ、飲食店やホテルからの残飯、コンビニから捨てられる弁当などがあります。コンビニから捨てられる弁当などは、食べられるのに“ロスおとし”として捨てられます。また、コンビニ企業1社から約5万人が1年に食べるのと同じ量のご飯2500トンが、捨てられています。惣菜産業などの食品加工業者が、生産の過程で捨てる原材料も相当な量になります。

1998年度に日本国内で捨てられた残飯の量は、約700万トンでした。この価値約2兆円は、日本の農林水産業の年間生産額とほぼ同じ額です。つまり、これは日本の農家や漁師などが苦労して作ったコメやキャベツ・リンゴ・魚類・肉類など全部を捨てているのに等しい額です。また、捨てられた残飯量をカロリーに直すと、日本人の1人当たり摂取熱量2000カロリーの約3分の1に相当し、3食に1食を捨てている計算になります。

その一方で日本の食料自給率は今、40%に過ぎず、金額では世界1位の農水産物純輸入国です。とりわけ高価な食材を独占的に輸入しています。96年度のエビ輸入量は世界の貿易量の約25%、世界3大珍味キャビアは同68%、マグロの生とチルドの輸入量も同50%を占めていました。

アメリカでも日本とほぼ同じ割合で捨てられていますから、日米約4億人の食べ残しおよび食べ過ぎ部分の全部を、もし援助に回すことができれば、飢えに苦しんでいる12億人を十分に救うことができるはずです。

善男善女

この船には水さえ満足に飲めずに、飢え、あるいは飢えに怯えて暮らす人びとが12億人も乗り合わせています。一方には、食べ過ぎのため、心臓病・脳卒中・糖尿病、そして各種ガンのリスクに怯える人びとも同数乗り合わせています。また特別船室には、「欲望の法則」に取りつかれ、その飢餓亡霊の呪術から抜け出せないまま無間地獄に陥っている大富豪たちもいます。身の危険におびえ、他方では財産を狙う禿鷹に用心するなど、彼らの上に平安の日々は訪れません。

《一方に飢えて死ぬ人がいる。なんと悲惨なことか。他方には飽食で死ぬ人が絶えない。なんと愚かなことか。ジャンクフードを売り込む企業人、それを嬉々として食べ命を縮める善男善女たち----》。どうやら私は、異次元空間の世界に迷い込んだようです。喝!

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