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大崩壊、南極棚氷
1991年秋、アルプス南西部で男性のミイラが発見されました。およそ5000年前に氷に閉ざされたのが、融解により姿を現したものと考えられています。このアイスマンは、地球温暖化の“死証人”といえるでしょう。以下、各地の様子を現場からのリポートでお届けします。
地球上の氷の99%は氷床と氷河で占められていて、南極には2403立方キロ、グリーンランドには260立方キロの氷があり、うち90%が南極にあります。(これの量はまた、地球上の淡水の3分の1に相当します)。南極大陸の面積は、日本の約34倍1248平方メートルで、97%以上が氷に覆われています。氷の厚さの平均は1900メートル、高いところでは3500メートルもあります。
中谷宇吉郎の有名なことば「雪は天から送られた手紙である」は、その著書『雪』の結びから生まれました。そこには、「雪は高層において、まず中心部ができそれが地表まで降ってくる間、各層においてそれぞれ異なる成長をして、複雑な形になって、地表へ達すると考えねばならない。それで雪の結晶形及び模様がいかなる条件で出来たかということが分かれば、結晶の顕微鏡写真をみれば、上層から地表までの大気の構造を知ることが出来るはずである。(省略)このように見れば雪の結晶は、天から送られた手紙であるということが出来る」。と書かれています。
極寒の南極に降る雪は、解けずに降り積もっていきますが、その雪には降雪時の情報、数十万年分の手紙が保存されています。南極基地で掘削された2500mの氷床コアが、南極観測船「しらせ」により日本に輸送され、国立極地研究所に保存されています。その「手紙」を読み取ることにより、気温・大気組成・堆積環境・氷床流動・氷の年代・火山活動などがわかると期待されています。
南極の氷は陸の上にある「氷床」、氷床が海上に突き出した「棚氷」、氷床や棚氷が壊れて海に流れだした「氷山」の状態で存在します。一般に四国と九州を合わせた広さに相当する5万平方メートル以上の氷体を、氷床と呼びます。氷床の表面には雪が2mくらい、その下にはフィルンと呼ばれる粗目状の雪が50〜100m積もっており、それ以下が硬い固まった氷になっています。氷雪の圧力で氷床はゆっくり海へ移動しますが、海まで移動した厚さ200m以上のものを棚氷と呼びます。代表的なロス棚氷はフランスほどの広さ53万平方キロメートルもあります。
「ランセルB」と呼ばれる棚氷が驚異的速さで崩壊したと英国南極観測隊(BAS)は発表しました。この「ランセルB」は厚さ約200メートル、面積約3250平方キロメートル、体積5000億トンでした。BASによると、過去半世紀の間に、南極半島は地球温暖化の平均値よりかなり速いペースで約2.5 ℃暖かくなっています。
南極の氷は南極低層水と呼ばれる冷たい海流を生み出し、世界の海を冷やしてしています。ところが、最近の調査で南極大陸の西側の氷床は、必ずしも安定したものではないことが分かってきました。もし西南極の氷床が全部崩壊すると、世界の海面は5メートルも上昇することになります。氷雪は大量の太陽エネルギーを宇宙へ反射し、地球の温度上昇を抑えるのに役立っているのですが、もし解け出すと、熱を反射しない地表ならびに水面が太陽エネルギーに曝されるので、さらに温暖化が進み、融解速度も加速されます。
わずか4人でテント生活を送りながら、氷の調査を進めるBASの科学者たちを密着取材して作られた地球環境映像祭入賞作品『知られざる巨大氷床に挑む』の監督が、メッセージで「--------そんな取材のなかで印象的だったのは、科学者が強い焦燥感を持っていたことです」と書いてある点に、私はショックをうけました。つまりつねに危機の可能性を抱え、ヤジロベー的安定を保っているに過ぎない地球の現状に、科学者たちが危機感を持っていることを、その「焦燥感」が示唆しているからです。
後退する氷河
★ ヒマラヤ―
ヒマラヤ最大の氷河湖ツォロルパは、地球温暖化が仕掛けた「ヒマラヤの時限爆弾」と呼ばれ、現地では決壊の恐怖におののいています。世界最高峰の登山ルートにあるクンブ氷河の厚さが平均して1978―95年には、年間約0.7m、1995―99年には年約2mの速さで薄くなっており、最近になって縮小幅は加速しています。また、中央ネパールのリルン氷河では、1996―99年に氷河下流部の厚さが年1〜1.5mほど薄くなっていました。さらにヒマラヤ東部のブータンでも、末端に氷河湖を持つ氷河が1980年代以降、年間30m以上の速さで後退しています。
国際氷雪委員会が行った研究によると、地球規模の温暖化の影響を受け、ヒマラヤ山脈の何千年前の氷河が溶け出しているので、現在のペースで氷が溶け続ければ、2035年には、溶けてなくなってしまう可能性もあると予測されています。
★ アルプス―
スイスのモルテラチュ氷河は、1900年から50年間で約700m、60〜70年の10年間では約300m後退しました。記録によると、1850年から約2キロ、最近の3年間では年平均で約20m短くなっています。アルプス最大の氷河は、スイス南部にある大アレチュ氷河で、長さ24キロ、面積86平方キロ体積17立方キロ。1850年に比べると、3キロ短くなっています。アルプス氷河の全体は1850年以降、氷河面積で35〜40%、体積で50%が消えていますが、そのうち、1970年から80年までの10年間だけで10〜20%少なくなっています。チューリッヒ大学のハーバリー教授は「最近の融解速度は人間活動による温暖化が地表に与えるエネルギーの量に等しい。つまり人間が起こした温暖化の分だけ、減っており、それは加速されている」と述べました。
★ 南米―
南米の南端パタゴニア地方にある世界有数の氷河が急速に後退していることが、北海道大学低温科学研究所の調査で分かりました。うち、ウプサラ氷河の末端は20年で5キロ後退し、氷の厚さは最近3年間だけで30mも薄くなっていました。この後退速度は、アルプス氷河の後退速度の約10倍にあたり、世界最速のペースで縮小しています。なお、北大低温科学研究所によって得られた資料は、地球温暖化による海面上昇を予測する重要なデータだといわれています。
★ 永久凍土の溶解―
北極シベリアを覆っていたはずの永久凍土が溶け出しています。永久凍土の中の巨大な氷の塊(エドマ)は、今より6〜10度温度が低かった約4万〜2万5000年前に誕生したことが分かっています。融解の原因は温暖化にあり、温暖化―メタンガスの放出―温暖化の促進という悪循環に陥っています。
北極海の氷に覆われている面積は、アメリカとほぼ同じ広さです。1978年以降は、融解により毎年、平均3万4300平方キロ失われています。問題はしかし、面積が減る以上に速く氷が薄くなっている点にあります。つまり1958年から76年にかけて、平均の氷厚は3.1mだったのが、1990年代半ばには約40%減って1.8mになっているからです。また、カナダ・ラバル大などのグループの観測によれば、カナダにある北極圏最大の氷床が2つに割れ、一部がバラバラになって海に流れ出していることが、明らかになりました。
棚氷の崩壊・氷河の後退・エドマの融解などは、アイスマン同様に、地球温暖化の動かぬ.証拠です。
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