生命の海、広がる汚染

 知られざる海

南メソポタミアで発掘された紀元前4世紀ごろの壷の壁面に、大海の波から植物が生まれ、つづいて動物・人間が現れる絵が刻まれ、これらの上には女神が描かれていました。生物は海で創生された後、上陸していますから、古代人の認識は正しかったのです。

地球表面の71%を占める海洋には、地球上の水の97%が蓄えられています。海洋はまた、陸地から流れ込んでくるさまざまなものを受け入れ、一方では水蒸気を発生させて陸地へ送り込む、水の大循環となる大貯層です。海洋はつぎのような役目も果たしています。

1)地球表面温度の激変を防いでいる。

2)陸上生物に欠かせない水の補給源となっている。

3)地球の自転及び太陽エネルギーによる海流が生物に恩恵を与えている。

4)海水は栄養塩、酸素、二酸化酸素を含んでおり、生物を育む。

5)大気中の二酸化炭素を吸収したり、放出したりの調節機能がある。

6)微生物やプランクトンを生み、生物が生息する場所となっている。

7)陸地から流れ込む異物を融解または分解するなど自浄作用を有する。

このように海は生物を生み、育て、維持する万物の根源なのです。

    海洋汚染  

海の使用は、すべての人にとって自由であるというローマ法の「公海自由の原則」に立って、人類はこれまで海を自由に使用してきました。また、1883年、英国の科学哲学者トーマス・ハクスレーは「すべての広大な海洋漁場は枯渇することはない」と論じましたが、海を無尽蔵な資源、開発すべきフロンティアとみなす考えが、当時は支配的でした。

1998年を、国連は「海洋年」と定めました。シンポジュウムには、世界中の1600人以上の海洋科学者、海洋保全活動家などが集まり、「荒らされる海」と題する共同声明を発表しました。そして人間活動に起因する乱獲や生息地の劣化、汚染・外来種の移入・気候変動などが、切迫した脅威の因であるという点で、彼らの見解は一致しました。

右のうち海の汚染は、自然システムの破壊に止まらず、人類存亡のカギを握っているとさえ言われています。汚染は、陸・船・海底(油田開発)・大気を通して、開発と投棄と各種汚染によって引き起こされます。汚染はまた、有害化学物質による汚染・富栄養化物質による汚染・油類による汚染・放射性物質による汚染・廃棄物の投棄による汚染などに分けられます。

油類による汚染については、1997年に起きたロシアのタンカー・ナホトカ号の島根沖での座礁が記憶に新しく、大量の石油が流れ約1300羽の海鳥が被害を受けました。

廃棄物の投棄について、日本は毎年産業廃棄物を約400トン、一般廃棄物を300トン海に捨てていると、桐生広人は書いています。国際海事機関の92年統計によると、日本の投棄物は世界投棄量の25%に達しています。廃棄物の海洋投棄を規制するロンドン条約の改定により、96年から産業廃棄物の海洋投棄が原則禁止になりました。が、これには除外項目が設けられており、わが国の投棄量は20%しか減少しません。したがって、日本はこれまでどおり、「ゴミの海洋投棄大国」の優勝トロフィー保持者であり続けることになります。

以下では、「有害化学物質による汚染」について見ていきます。(ただし、ここで取り上げるのは、その中のほんの数例であることを理解してください)。

 ●水俣病 1953年ごろ熊本県水俣市周辺で原因不明の奇病が発生したが、原因は有機水銀中毒でした。まず、魚が有機水銀を体内に取り入れ、その魚を人間が食べ、有機水銀が体内に蓄積されていきます。この過程を経て発病したのです。患者、特に子どもたちの、もがき苦しみ、のた打ち回る様子は到底、正視に堪え得るものではなかった。水俣病はその悲惨さもあって、世界的にも有名です。

●アザラシの大量死 北海海域に異常現象が目につき出したのは1988年のことだった。412日デンマークの大学生二人が、小さな白い物体がころころ動いているのを見つけます。アザラシの胎児でした。それから3週間ほどの間に、40頭ものアザラシの胎児や子どもの死体が流れ着きます。結局、大量死の収まった8810月末までに、この一帯の沿岸各地で死体として回収されたアザラシは、17936頭を数えた。原因はジステンバー・ウイルスによる病死で、原因を作ったのは北海に流入したPCBほか、水銀・カドミウム・鉛など化学物質の体内蓄積でした。西ドイツでアザラシの子どもを解剖したところ、内臓から高濃度の水銀のほか、カドミウム・鉛・PCBなど少なくとも150種の有害物質が検出され、さらにメスの90%に生殖不能が起きていることが分かりました。

 ●船底塗料、魚網防腐剤 TPT・TBTなど有機スズ化合物が、この塗料には使用されている。いずれも神経障害を引き起こす猛毒物質で、魚や鳥が被害を受けています。また最近、この物質が生殖に異変を起こさせることがわかった。国立環境研究所の堀口敏宏主任研究員は立ちつくした。バイガイのメスにペニスが生えていたからです。メスにオスの生殖器ができる症状はインポセックスと呼ばれていますが、主犯は船底塗料・有機スズ化合物TBTであるといわれています。

 ●富栄養化による汚染 工場や家庭・農地からの排水には、多量の有機物や窒素・燐が含まれている。すると、植物プランクトンや水中植物が活発に増殖して次のような変化をもたらす。@ プランクトンの急増殖による赤潮・青潮の発生、A 特定藻類の急増殖、B プランクトンの死骸による魚介類の酸欠死、C 結果起こる水質汚濁・悪臭の発生などです。また、酸性雨によっても赤潮は発生する。これは酸性雨に含まれる窒素酸化物が硝酸塩となって海に降り、富栄養化するためです。最近は新種のプランクトンが、世界各地で発生しています。その影響で海の生態系が狂いだすのではと、心配する学者もいます。

 海からのシグナル

環境観測技術衛星「みどり2号」は、海水温や海水の色を見るセンサーも積んでおり、魚群が移動する「魚道」探しにも活用されます。また、船舶1万隻以上に相当するデータを、ほぼ瞬時に集めることができる優れものでもあります。このように科学の進歩は目覚しく、喜ばしいことではあります。しかし、地球は極小で、かつ有限の惑星です。魚群を見つけ取り尽くせば、いずれ枯渇します。実際、絶滅危惧種に数えられている魚種も少なくありません。

海洋を守るために、国内法や条約が数多く作られています。たとえば、日本・中国・韓国・ロシアによって採択された「北西太平洋地域街道計画」や「ロンドン海洋投棄条約」「ヘルシンキ条約.」などです。これらが機能して改善された事例も少なくありません。けれども、実際にはほとんどの対策は事後処理、あるいは問題の先送りに過ぎません。科学や法制度に頼るやり方は、内蔵疾患を塗り薬で治すようなもの、根治は不可能です。

老子の思想の核心にある「道」は多分、宇宙の真理を指しており、奈良東大寺の大仏、大日如来も宇宙神とされています。また、自然現象には人知を超えた原理があると考えて、アリストテレスが名づけた「超自然の原理」は、後にキリスト教で「神」という言葉に置き換えられていきました。

これらを敷衍すると、老子やキリスト・ブッダの哲理は、「宇宙教」あるいは「自然教」に収斂されます。その「自然=神」を見下し、「科学」を過信したために、人類は混沌を招いたばかりでなく、人間本来の喜びさえも失ってしまいました。その人間性を復活するためには、worm heart(「神=自然」)を中心に据え、それと調和する科学を構築して、そこに軸足を移して行くべきものだと考えます。

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