ユートピアの正体

トマリタケノコ

クラブ・ポンティングによると「1780年以降アメリカに来た白人の大多数は、航海費用や生活費を前借して決められた年限を雇い主のために働く労働者だった」のです。彼らの実体は奴隷であり、本当の奴隷との違いは自由になれるかもしれないという僅かな可能性のみでした。しかし、その望みは果たされないまま、彼らの5人に4人は死んでしまったのでした。このような悲しい歴史を持つアメリカ人が抱く「自由」への渇望を、私たちも共感を込めてよく理解することができます。

やがて彼らの願望は実を結び、自由主義・個人主義・資本主義の三点セットを定着させました。その結果、アメリカは世界中で一番自由な国になり、アメリカを敵視するあのアラブをはじめ中南米・アフリカ・アジアなど世界中の多くの人々が、このユートピアに憧れ、淡い期待を寄せています。

だが―、一般に地上に現れるタケノコの約半数、場合によっては70パーセント以上が高さ30センチにもならないうちに成長できなくなり、落伍していきます。このようなタケノコを「トマリタケノコ」と呼びます。現在のアメリカ人の約80パーセントはこの「トマリタケノコ」に相当します。少数の富裕層と多数の貧困層で構成されるアメリカ社会は、一面では、“比較的奴隷制度”の存在する国とも考えられます。奴隷もどきであった過去を彼らが持っていただけに、三点セットから生じた副作用の強さと、人間の業の深さに、ただならぬ恐怖感を私は抱きます。

 さて、主に経済の面に絞って、ユートピアに住む「トマリタケノコ」の生き様を見ていきます。03419日、『個人破産、アメリカ経済がおかしい』を、NHKスペシャルは放映しました。以下は、そのあらすじ(私の考えを投影させた)です。この映像の主役(破産者)はいずれも3040歳代の白人家族で、全員肥満体でした。

 @ 彼らはクレジットカードを1030枚所有している。

A 借金(カード残高を含む、以下同)の2パーセントを払えば、いつまでも支払いを先送りできるミニマムペイメント制度が、アメリカにはある。

B    住宅の値上がりが続いており、投資の対象は株から住宅へシフトしている。

C    金融機関・カード会社は企業への貸し出しの増加が見込めないので、個人をターゲットにして、すさまじい貸出競争をしている。

D    消費社会アメリカは、消費は美徳で、借金に寛容。加えて楽観的で将来をあまり悲観視しないため、日本人が普通預金口座を持つ感覚で株式投資をする。

E    このような背景の下、クレジットカードを使って必要以上の買い物をする。またたとえば、住宅価格の値上がりにより、借り入れ枠が広がると、すかさず借り増しに走り消費に回す。

F    このようなあり様はいつまでも続くものではなく、ついに02年には150万件の破産者が生じた。今、住宅価格は値下がりに転じつつあり、金融機関やクレジットカード会社は多数の取立て不能者を抱えて、苦境に陥っている。

G     しかもその対策として、さらなる貸付先の開拓競争に金融機関等はしのぎをけずっている。当分の間、新しい貸付先は支払不能には陥らないからだ。しかしこれはねずみ講、いずれ必ず行き詰まる。

H    アメリカのGDP(国民所得)の80パーセントは消費支出に頼っているが、その実態はこのようにバブル(泡沫)である。

この様相は、バブル時の日本経済と二重写しで、住宅価格の低下→不良債権の増加→金融機関の破綻や破産者の激増などの恐れを内包しています。これが、今日のアメリカ経済の一断面であり、憧れの国、アメリカのユートピア?の実態でした。

 解雇をすることがごく普通な行為に過ぎない国。将来の個人破産者候補者に当たるトマリタケノコの異常、かつ奇妙な消費に支えられている国。健康保険に加入しない自由、ホームレスになる自由が満ちている国。これがアメリカです。

 青春の詩

わが国の場合、倒産や失業を苦にしてなされる主に、40〜60歳代男性の自殺率の急増や物欲に絡む殺人・家庭内暴力・ニートの増加が顕著です。特に格差社会の定着に伴って、若年層に広がっている「生きる目的の喪失」は深刻です。

次にサムエル・ウルマンの詩『青春』(訳:作山宗久)を掲げます。

 

青春春とは人生のある期間ではなく、心の持ちかたを言う。(略)

青春とは怯懦(きょうだ)を退ける勇気、安易を振り捨てる冒険心を

意味する。ときには、20歳の青年よりも60歳の人に青春がある。

年を重ねただけで人は老いない。理想を失うとき初めて老いる。(略)

歳月は皮膚にしわを増すが、情熱を失えば.心はしぼむ。苦悩・恐怖・

失望により気力は地に這い、精神は芥になる。

60歳であろうと16歳であろうと人の胸には、脅威に魅かれる心、

おさな児のような未知への探究心、人生への興味の喚起がある。(略)

霊感が絶え、精神が皮肉の雪におおわれ、悲嘆の氷に閉ざされるとき

20歳であろうと人は老いる。

 

皇居前のビルにあったマッカーサー元帥の部屋の壁に、この詩は掲げられていた事で有名です。また、日本の財界人の間に一時、広くて喧伝され親しまれていました。

日本の若者たち(小学生高学年から)は、この詩にある希望・勇気・冒険心・理想を失っていて、「生きた屍」状態にあります。これはもう精神面はもとより、経済の面からも深刻な「亡国の兆し」です。

孫悟空がお釈迦様の“手のひら”から飛び出し、やりたい放題に振舞える現文明。これは地底の暗黒から、まぶしい太陽の下に解き放たれて、欣喜雀躍する捕らえられびとの歓び、人類のユートピアでもあります。

でも、その必然で弱肉強食の文明が構築され、富裕層(国・個人)はますます富むばかりか、資源や富を恣に独占し、それが持たざる層の貧困化を、さらに加速するという悪魔のサイクルに陥っています。そして目を覆うばかりの貧富の差や殺人・強盗・レイプ・家庭内暴力がいま、アメリカにはびこっています。アメリカほど過激ではないものの、日本も確実に衰退・劣化に向かっています。

世界の超先進国、日米ともにユートピアはありませんでした。

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