石油文明考
石油の創生
原油の確認可採埋蔵量は、約1兆3千億バレルで、年間消費量(約3百億バレル)の約40年分と予測されています。しかし枯渇の期限は「逃げ水」のように先に延びてきました。価格が上がると油田開発にコストをかけても引き合うため、新油田開発が促進されてきたからです。そうであれば、石油枯渇説は単なるコケオドシに過ぎないのでしょうか。
昔、中国で「今にも天が落ちてくる」と食も進まず、寝もやらずに心配した人がいました。これが中国の故事にある『杞憂』の語源です。この荒唐無稽な杞憂の考えの延長線上にあるのが、石油枯渇説(有限説)なのでしょうか。あるいそれは憂慮すべき正夢でしょうか。
そこでその真偽を確かめておきましょう。
★有機起源説 石油は、大昔の動物・植物・微生物などの有機物が積み重なって堆積岩となりそれが地熱やバクテリアによって分解され、長い時間をかけて油になったというのが定説です。
★無機起源説 地殻の底で岩石が水と反応しメタンガスができ、そのメタンが反応を重ねて石油や天然ガスに変化する。これは生物の死骸ばかりでなく、岩石からも石油はできるとする考え方です。無機説は1870年代、元素の周期律表を考案したロシアの科学者、メンデレーエフが最初に提唱し、両説が並び立つ時期もありました。また、2005年6月にカナダで開いた米石油地質家協会(AAPG)年次総会で、無機起源説をテーマに討論会が開かれ話題を呼びました。
無機起源説が今、注目される理由のひとつは探鉱実績です。「従来の考えでは存在を説明しにくい地層や堆積層の深い岩盤で石油・天然ガスの貯蔵層が見つかっている」からだと日本エネルギー経済研究所の中島敬史研究員は話しています。05年1月、米航空宇宙局(NASA)が飛ばした探査機が土星の衛星の画像を送ってきましたが、そこには液体のメタンやエタンが地表を浸食した跡と思われる地球の河川によく似た地形が映っていました。これらの新事実から無機起源説支持者は「生物のいない場所でもメタンが大量にできる」と強調しています。しかし、この説はいまだ認知されてはいまません。
石油ピーク説
ピーク説の原因は、大きく二つに分けられます。
一つは埋蔵量の限界です。有機起源説によれば、石油は有機物が堆積した地層分しか存在しないため、埋蔵量に限りがあり近い将来必ずなくなるからです。
他の一つは消費量の急増です。ブラジル・ロシア・インド・中国の頭文字をとって「BRICs」と呼ばれている経済発展がいちじるしい地域で消費量が増えているからです。特に中国の経済成長は著しく、したがって石油の需要も旺盛で、わが国との間に軋轢が生じている東シナ海でのガス田開発もこの流れの中に地位付けされます。
中国の石油需要の急増が04年からの世界の原油価格の上昇を招きました。その矢先の05年8月、日本の台風に相当するハリケーン・カトリーナが米国、アラバマ州などに襲いかかり、さらなる原油価格の高騰の要因となりました。
価格の変動は、需要が増えれば高く、供給が増えれば低くなるという「需要供給」の原理に基づく.ものです。需要に応じて十分に供給がなされるのであれば、価格は高止まりしません。石油価格の上昇は供給不足、つまり原油の枯渇を物語っているのです。
2050年には人口は約91億に達すると予想され、同時に日本やアメリカBRICsなど世界の持続的経済成長も堅調だと考えられています。であれば石油需要はますます高まり、枯渇は確実に進み、価格は高騰します。
石油文明のシナリオ
05年7月末には1バレル当たり約60ドルだった原油価格は、ハリケーン・カトリーナの影響を受けて8月30日には一時70ドル超を記録しました。これらの高騰も一因となって、燃料効率が悪く
ガソリンのガブ飲みといわれているアメ車の苦戦を招ねきました。現文明は一面、石油文明といえます。その石油価格が5倍〜10倍に高騰し、あるいは不足した状況を予想してください。アメ車の苦戦などは単なる前触れにすぎず、文明そのものの崩壊を招くでしょう。
冒頭に記したように、地球上にある石油の確認可採埋蔵量は約40年です。であれば、石油の枯渇までの時間は現実には秒読みの段階にあるといえます。1972年ローマクラブから始めて地球の有限性を明らかに論証した『成長の限界』が刊行され、当時一大大センセーションを巻き起こしました。
当時の主要メンバーにより、わが国では2005年3月、前掲書の刊行から30年後を節目にして『成長の限界人類の選択』が刊行されました。そこでは1972以来一貫して「成長に関するデータや理論を統合」するために構築したコンピューターモデル【ワールド3】が使われています。同書では【ワールド3】を若干バージョンアップ.したものを用いて、10のシナリオを示しています。そのうち実際的なシナリオのすべてが、およそ2050年ごろを境にして、地球の「持続可能性の脆弱化または文明の崩壊」の傾向を示しています。化石燃料など資源の枯渇と汚染の浄化能力の限界がネックとなって作用するからです。
さて、化石燃料にはそれが創成された当時の太古の二酸化炭素が含まれています。したがって燃やすと二酸化炭素が大気中に放出され温暖化を招きます。と同時に、その枯渇は私たちの文明を根こそぎ破壊します。石油文明には、このような恐怖のシナリオが書かれてあります。