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環境ホルモンの正体
[定義]環境ホルモンは、内分泌かく乱物質・ホルモン作用かく乱化学物質などと呼ばれていますが、本書では引用文を除いて、それらすべてを「環境ホルモン」と呼んでいきます。
米国のホワイトハウス科学委員会が1997年に主催したワークショップは、環境ホルモンを次のように定義しています「生体内ホルモンの合成、分泌、体内輸送、結合、作用あるいは分解に介入することによって生体の恒常性(ホメオスタシス)の維持、生殖、発達あるいは行動に影響を与える外来物質」。
また、米国化学アカデミーの学術研究会議は1999年8月、「環境中のホルモン様化学物質」と題した報告書で、おおよそ次のように発表しました。
1、ホルモンかく乱物質は高濃度に比べ、低用量のほうがむしろ影響は大きいようである。
2、ホルモン様物質に暴露したヒト、野生動物、実験動物のいずれも、生殖の発達に支障をきたす。
3、ヒトに起こった事実からポリ塩化ビフェニール(PCB)を筆頭にした化学物質には、ヒトの発育を妨げ、新生児の低体重や早産をもたらすものがあると推測される。
4、ホルモンかく乱物質に子宮内で暴露すれば、生殖異常を起こす恐れがある。
5、五大湖周辺の魚や鳥、フロリダのアポプカ湖のワニをはじめとした野生生物に見られる個体数の減少は、こういったホルモン様化学物質の影響である可能性が高い。
以上のなかに、環境ホルモンの内容がほぼいい尽くされています。
[悪事を起こすメカニズム] 人体は、常時体内を飛び交っているメッセージのやりとりや絶え間ないフィードバックがなされなければ、50兆の細胞がゴタゴタと寄り集まってできた厄介な肉の塊に過ぎません。本項の主役、内分泌系(ホルモン)と、神経系・免疫系は身体の「三大ネットワーク」と呼ばれています。また、身体各部間のコミュニケーションを取り持っているホルモンをはじめとする化学メッセンジャー(化学伝達物質)は、体内の「情報スーパーハイウェー」というべき血流内を駆け巡って、性と生殖をつかさどり、器官や組織を維持するのに必要な信号を送り届けています。
その血液中を飛び交っているホルモンを、受け取ってくれるものを受容体(レセプター)と呼びます。このホルモンとレセプターは鍵と鍵穴の関係に相当し、結合して一体となって細胞核にまで侵入し、ホルモン本来の役割を果たしているのです。ところが、レセプターが勘違いをして、環境ホルモン(偽者)と結合してしまいます。これは、インターネットにガス管をつないだようなもの、当然生体の中で異常が生じます。
[健康被害]その異常について以下に説明しておきます。
★濃縮残留 環境ホルモンは、体内で凝縮され次世代へ引き継がれていきます。たとえば、まず微生物が湖底に沈殿している汚染物質と水から残留性化学物質を摂取します。続いてこの微生物が動物プランクトンに捕食されます。すると今度は、この動物プランクトンをアミが捕食し、続いて魚類がそのアミ捕えます。こうして次々と食物連鎖を登りつめていったPCB(環境ホルモンの一種)は、マスを捕獲したセグロカモメに至っては実に2500万倍に濃縮されます。この濃縮の連鎖から人間は逃れることはできません。
★微量性 環境ホルモンは前掲、米国科学アカデミーの報告書に見られたように低容量ほど影響を及ぼします。ホルモンの濃度で問題になるのは、ppt
(1兆分の1)という単位です。タンク車660台の水に焼酎を一滴垂らした量に相当するのが、1ppt。このわずかな量が人に、ただならざる害を及ぼします。
★蔓延性 今日、推計で5万種以上の化学物質が流通し、またわが国において工業用途として届けられるものだけでも、毎年300物質程度の新たな化学物質が市場に投入されています。北極のアザラシやクジラの皮下脂肪には、海水の1千万〜3億倍という高濃度で環境ホルモンが濃縮されています。このアザラシやクジラの新鮮な肉や脂肪を食べているイヌイット族は、もしかすると環境ホルモンの汚染で、最初に絶滅する民族になるかもしれないとさえいわれています。このように、環境ホルモンは地球の隅々にまで拡散し、生物の体内に濃縮して引き継がれていきます。
子どもが危ない
月に2、3度の割合で環境ホルモンに汚染されている五大湖の魚を食べていた母親から生まれた子供は、早産で体重も軽く頭も小さかったこと、へその緒を流れる血流に含まれるPCB濃度が高い子供ほど、神経系の発育が悪くさまざまな点で劣っていたことが分っています。この五大湖の事例は、ほんの一例に過ぎません。
精巣の下降不全をはじめとして、小さなペニス、尿道下裂といった生殖器の異常例が、乳児の間でうなぎ登りに増加している事実を、全米各地の小児科医の大半は憂えてきました。ある研究者の推測によると、いつ神経障害を引き起こしてもおかしくないレベルのPCBに、米国の赤ん坊の5%が暴露しています。
猛毒.PCBは主に焼却により排出され、わが国の大気や水・土壌にも含まれています。台湾でPCBに汚染された食用油を摂取した女性から生まれた子どもたちについて、大規模な研究が行われた結果、身体や神経系のさまざまな障害を子どもたちが抱えていることが分かりました。ほかにも運動機能や知的能力に癒しがたい障害や多動症などの行動障害が見られ、知能テスト では精神遅滞がIQテストでは5ポイント低い成績が認められました。
人が人ではなくなる日
環境ホルモン問題を世界にアピールした生物学者で、『奪われし未来』の著者シーア・コルボーンによると、PCB暴露による短期記憶障害や注意散漫のような症状は病ではなく機能障害です。そしてそれは、人間の潜在能力をむしばみ、豊かな人生を台無しにし、ひいては個人間のコミュニケーションを損ない、社会秩序まで脅かします。
ガンの蔓延は世界中に広がっていて、罹患率でついに日本はアメリカを抜きました。「がんは悲劇以外の何物でもないが、人類の存続を不可能にするわけではないのである。ホルモン作用かく乱化学物質は、生殖障害や発育を知らず知らずに蝕んでいる。しかもその影響が及ぶ範囲も実に広い。だからこそ、この有害物質には、種全体を危機に陥れる恐れがある。さし当たっておそろしいのは滅亡ではなく、人類が知らず知らずのうちに蝕まれていく状況なのだ」と、シーア・コルボーンは人が人でなくなる恐れについて警告を発しています。
難なく胎盤をすり抜け、胎児の成長を阻害するばかりか、数十年経ってもなお、環境ホルモンは人体に悪影響を及ぼしつづけます。それに加えて、ガンの激増・生殖機能障害・子どもの知能障害など、化学物質の使用は人類を滅亡へ誘う禁断の果実なのかも知れません。
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