海洋汚染 生命の母

【あらすじ】

 海洋を守るために、国内法や条約(じょうやく)が数多く作られ、改善された事例も数多くあります。けれども、ほとんどの対策は事後(じご)処理(しょり)、あるいは問題の先送りに過ぎません。科学や法制度にたよるやり方は、たとえば胃病を()り薬で治すようなもので、根本の解決にはなりません。

古代中国の思想家(しそうか)老子の思想の核心(かくしん)にある「(たお)」は多分、宇宙の真理(しんり)を指しており、東大寺の大仏も宇宙(うちゅう)(しん)とされています。また自然現象には人知(じんち)を超えた原理があると考えて、ギリシャの哲学者(てつがくしゃ)アリストテレスが名づけた「超自然(ちょうしぜん)の原理」は、後にキリスト教で「神」ということばに置き換えられていきました。

その「自然=宇宙=神」を見下(みくだ)し、「科学」を過信したために、人類は混沌(こんとん)を 招いたばかりでなく、人間本来の喜びさえも失ってしまいました。人間の浅知恵(あさぢえ)は、かえって人びとを不幸にします。 

 生命を(はぐく)

南メソポタミアで発掘された紀元前4世紀ごろのツボの壁面(へきめん)に、大海の波から植物が生まれ、つづいて動物・人間が現れる絵が(きざ)まれ、これらの上には女神が描かれていました。生物は海で(つく)た後、上陸していますから、古代人の知識は正しかったのです。

海は膨大(ぼうだい)量の熱・水・栄養分を吸収し貯蔵し、輸送し、浄化しています。いま私たちが目にしている海水は、深海(しんかい)で南極オーストラリアの東を北上し、赤道を越え熱帯(ねったい)北限(ほくげん)でようやく2000年かけて表層(ひょうそう)に顔を出したものです。古代の女王ヒミコが()()(たい)(こく)23世紀に日本にあった国)を作るはるか200年前から、その循環(じゅんかん)始まっていたのです。そしてまたつぎの2000年に向けて活動を始めているのです。

地球表面の71%を占める海洋には、地球上の水の97%がたくわえられています。海洋はまた、陸地から流れ込んでくるさまざまなものを受け入れ、一方では水蒸気を発生させて陸地へ送り込む、水の大循環となる大貯層です。海洋はつぎのような役目も果たしています。

1)地球表面温度の激変(げきへん)を防いでいる。

2)陸上生物に欠かせない水の()給源(きゅうげん)となっている。

3)地球の自転(じてん)及び太陽エネルギーによる海流が生物に恩恵を与えている。

4)海水は栄養塩(えいようえん)、酸素、()(さんか)酸素(さんそ)を含んでおり、生物を(はぐく)む。

5)大気中の二酸化炭素を吸収したり、放出したりの調節(ちょうせつ)機能(きのう)がある。

6微生物(びせいぶつ)やプランクトンを生み、生物が生息する場所となっている。

7)陸地から流れ込む異物を融解(ゆうかい)または分解するなど自浄(じじょう)作用(さよう)を有する。

このように海は生物を生み、育て、維持(いじ)する万物(ばんぶつ)の根源なのです。

    汚され続ける海  

海の使用は、すべての人にとって自由であるというローマ法の「公海(こうかい)自由(じゆう)の原則」に立って、人類はこれまで海を自由に使用してきました。さらに「すべての広大な海洋漁場は枯渇(こかつ)することはない」という考えが、当時は支配的でした。

国連は1998年を、「海洋(かいよう)(ねん)」と定めました。海洋年の検討会には、世界中の1600人以上の海洋科学者、海洋保全活動家などが集まり、「荒らされる海」と題する共同声明を発表しました。そして人間活動に起因する乱獲や生息地の劣化、汚染・外来(がいらい)(しゅ)の移入・気候変動などが、切迫(せっぱく)した悪化の原因であるという点で、彼らの見解は一致しました。

海の汚染は自然システムの破壊にとどまらず、人類存亡のカギを(にぎ)っているとさえいわれています。放射性(ほうしゃせい)物質(ぶっしつ)による汚染を含めて汚染は、5つに分けられます。

このうち()栄養化(えいようか)による汚染を見てみましょう。工場や家庭・農地からの排水には多量の有機物(ゆうきぶつ)窒素(ちっそ)(りん)が含まれています。すると、植物プランクトンや水中植物が活発に増殖して次のような変化をもたらします。@ プランクトンの急増殖による赤潮・青潮の発生、A 特定藻類の急増殖、B プランクトンの死骸による魚介類の酸欠死(さんけつし)、C 結果起こる水質汚濁(おだく)悪臭(あくしゅう)の発生などです。

最近は新種のプランクトンが、世界各地で発生しています。その影響で海の生態(せいたい)(けい)が狂いだすのではと、心配する学者もいます。

油類による汚染については、1997年に起きたロシアのタンカー・ナホトカ号の島根沖での座礁(ざしょう)が記憶に新しく、大量の石油が流れ約1300羽の海鳥が被害を受けました。

廃棄物の投棄について、日本は毎年産業廃棄物を約400トン、一般廃棄物を300トン海に捨てていると、桐生広人は書いています。国際海事機関の92年統計によると、日本の投棄物は世界投棄量の25%に達していて、「ゴミの海洋投棄大国」です。

 

以下では、汚染のうちの一つ「有害化学物質による汚染」について、そのわずか数例のみを見ていきます。

 みなまた病 1953年ごろ熊本県みなまた市周辺で原因不明の奇病(きびょう)が発生したが、原因は有機(ゆうき)水銀(すいぎん)中毒でした。まず、魚が有機水銀を体内に取り入れ、その魚を人間が食べ、有機水銀が体内にたまっていきます。この過程を経て発病したのです。患者(かんじゃ)、特に子どもたちの、もがき苦しみ、のた打ち回るようすはとうてい見るにたえないものでした。みなまた病はその悲惨(ひさん)さもあって、世界的にも有名です。

アザラシの大量死 北海海域に異常(いじょう)現象(げんしょう)が目につき出したのは1988年のことだった。412日デンマークの大学生二人が、小さな白い物体がころころ動いているのを見つけます。アザラシの胎児(たいじ)でした。それから3週間ほどの間に、40頭ものアザラシの胎児や子どもの死体が流れ着きます。結局、大量死の収まった8810月末までに、この一帯の沿岸各地で死体として回収されたアザラシは、17936頭を数えた。原因はジステンバー・ウイルスによる病死で、原因を作ったのは北海に流入したPCBほか、水銀・カドミウム・鉛など化学物質が体内にたまったためでした。西ドイツでアザラシの子どもをかいぼうしたところ、内臓から高濃度の水銀のほか、カドミウム・鉛・PCBなど少なくとも150種の有害(ゆうがい)物質が検出され、さらにメスの90%に生殖(せいしょく)不能(ふのう)が起きていることが分かりました。

 船底塗料、魚網防腐剤 TPT・TBTなど有機スズ化合物が、この塗料には使用されている。いずれも神経障害を引き起こす猛毒(もうどく)物質で、魚や鳥が被害を受けています。また最近、この物質が生殖(せいしょく)に異変を起こさせることがわかった。国立環境研究所の堀口敏宏主任研究員は立ちつくしました。バイガイのメスにペニスが生えていたからです。メスにオスの生殖器ができる症状はインポセックスと呼ばれていますが、主犯は船底塗料・有機スズ化合物TBTであるといわれています。

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