格差社会 日本文化の崩壊、
【あらすじ】
長い間、日本は平等社会・平和な社会といわれてきたし、事実そうでした。それが特に、小泉内閣になってから所得格差が広がり、勝ち組・負け組のある二極社会になったようです。その悪影響は、ニート・自殺・犯罪の増加、少子化など深刻です。
いまあわてて、銃・犯罪・格差のある社会のマネをしてはいけません。そのようなアメリカ社会は、文明の進歩に逆らっているのですから。
日本のすばらしい文化を守り育てつつ、ゆるやかに改革は進めていくべきです。
平等神話の崩壊
2000年の『世界価値観調査』によると、「自分が幸せと思う人」比率で日本は29位、ベトナムやフィリピンより下位でした。また、その国の平均的な 所得の半分以下しか稼いでいない人の割合を示す「貧困率」も経済協力機構(OECD )の2000年調査で日本は、15.3%と先進国中3番目の高さ(悪さ)でした。これは、5%前後にとどまるデンマークやスウェーデンなど北欧諸国の実に3倍に上る数字です。
政府は「所得格差の拡大は、見かけに過ぎない」とする見解を公表しました。そのような見方が正しいかどうかを見ていきましょう。
所得格差を示すモノサシに「ジニ係数」があり、格差は1に近いほど大きく、0に近いほど小さいことを意味します。72年には0.353だったのが02年には0.498に広がり悪くなっています。
いま、日本の上位4分の1の富裕層の所得とその他4分の3の世帯の所得はほぼ等しい。さらに個人金融資産1400兆円の半分が上位10分の1の富裕世帯に集中し、残り半分を10分の9の世帯が分け合っています。
『大学の学費に関する民間調査』によると、「家庭の経済力によって、高等教育を受けられる格差が広がっている」と考える高校は、「とてもそう思う」が37.3%、「ややそう思う」が46.1%と8割を超えました。
朝日新聞世論調査(06・2・21)に格差は広がっていると国民の多数71%は答えました。
小泉内閣発足時と現在(04)のと数字の変化を掲げておきます。@パートアルバイトなどの発足時比率47.7−04年の比率52.6、A自由に使える所得月額42万円―40万円、Bニートの数49万人―64万人、C生活保護世帯数77万世帯―1032万世帯数、D過労死等の認定143件−294件、E自殺者数3万1042人―3万3325人、F凶悪犯認知件数1万1967人―1万3064人でした。
以上で明らかにされたように、小泉首相がどういいつくろうと、わが国は格差社会でした。
1983年には75%だった所得税の最高税率は、順次引き下げられて現在では37%になっていますが、原因の一部はこの点にあります。いま消費税の増税や環境税の創設が検討されていますが、これらの税は逆進性(低所得者に負担が重い)があるので、格差はさらに広がっていくものと思われます。
日本は縄文時代以来、平等社会・貧富の差の少ない社会、そして平和な社会といわれてきました。だが今では、むしろ格差のある社会、足の引っ張り合いをする社会になっていくようです。
フリーターとニートのある社会
内閣府によると15〜34歳のフリーター(パートやアルバイト、契約社員など正規社員でない層)人口は2001年に417万人。10年間で2倍に増えています。学生や主婦を除くと世代人口の5人に1人がフリーターです。
2005年4月、「日本のこれから『どう思いますか格差社会』」が特報番組としてNHK から放映されました(以下NHK特報)。それによると、同一業務に就いていても、フリーターの賃金は正社員の4分の1、年収は100万〜200万円です。また彼らの多くは、正社員を望みながら叶えられず、そのため2021年には、中高年フリーターが200万人になると予測されています。このように格差は固定化し、この傾向はさらに強まっていくものと考えられています。
『希望格差社会』の著者山田昌弘は、この理由をおよそ次のように考えています。――近代社会が発展すればするほど、「リスク化」、つまり社会の不確実性が増し、生活がリスクに満ちたものになり、「二極化」、つまり成功者の蔭で弱者が社会からはじかれる――。 この不安意識が一気に表面化したのが1998年だと山田昌弘は見ています。この年は、中高年男性の自殺率が一気に増えたのと同時に、青少年犯罪や引きこもり・不登校が増え、家でまったく勉強しない中高生が急増した年でした。
このような背景を考えれば、フリーター現象が不況によって生じたという説は誤りであって、リスク化と二極化によってもたらされたのです。また、若者が企業にしばられるのをきらい、自分のやりたいことをやるためにフリーターになるという説も誤りです。不安定な職を選ばざるを得ない状態に追い込まれた結果生じたのがフリーター現象であって、その逆ではありません。
内閣府は05年3月職探しも進学も職業訓練もしないニートが全国で約85万人に達するとの推計を発表しました。また、職探しをしているものの、職に就けない若年求職者は現時点で約120万人でした。
正社員を望みながらかなえられない状況、つまり「希望の喪失」、「希望格差」は経済格差より深刻です。人の幸福は「必要とされている」とか、将来に「希望」があるとかにあるからです。希望を失い、将来に絶望した人がおちいる最終形態はやけくそのになっておこす犯罪であり、その中には犯罪を引き起こすだけの犯罪もあります。
この世で努力しても報われないという絶望感におちいると、他人の幸福がうらやましくなります。このような動機によって引き起こされる犯罪は、「不幸の道連れ」だといわれています。
フリーター、つまり「負け組み」が多数を占めるアメリカ型社会に移行した場合の、マイナス面がこのNHK特集で語られました。マイナスの1つは、ニートへの移行。2つは自殺者の増加、3つは犯罪の激増でした。その他にも、結婚ができない。結婚しても子供を作らない。年金制度の崩壊という問題点もありました。
ニートには他人依存の甘えが、フリーターの多くには努力不足があります。しかし一方、ニートやフリーターは社会が作った面もたぶんにもあります。いずれにしろ彼らのなやみ・困惑・苦しみの深さは深刻です。と同時に、彼らの能力を十分生かせない国家の経済的損失も多大です。
それらに加えて少子化や犯罪の増加などは亡国の兆し。国がこわれていくのではないかと私は思いました。
文明が生んだ「会社」
さて、NHK特集ではいろいろな意見が戦わされました。その中で「企業はもうけるために低賃金のフリーターを使っている」というのがあり、それはそれで正しいのです。が、この論者をはじめほとんど参加者が、企業性悪説(会社を悪いものと考える考え方)に立っているように思えたことと、重要なことなのでそのことを考えていきます。
たとえば会社が倒産したらどうなるか考えてみましょう。従業員は職を失い失業します。その会社に品物を納めていた会社は売上金が入ってこなくなり、場合によっては倒産します。政府や県や市町村は税金が入らなくなるなど、その倒産が及ぼす悪影響ははかり知れません。アメリカの経済学者ガルブレイスは「不埒な会社より悪いのは無能な会社だ」(会社をつぶすのが一番悪い)といっています。
会社は常に生き残りをかけた猛烈な競争をしており、フリーターを使うのは生き残りのためにやむをえない時代の流れなのです。その中で1社のみが全てを正社員にしたら、多分倒産し「無能」の烙印を押されるでしょう。
評論家の中には会社を批判することにかたよりすぎて、会社が果たしているたとえば雇用など重要な役割を忘れている人がいます。フリーターを使っているという現象のみでなく、フリーターを使わざるを得ない現実にも目を向けないと、意味のある論議にはなりえません。
もとより不埒な会社は責められるべきですが、そうではない正常な会社を生んだ文明にこそ批判の目を向けるべきです。