キガ 理由を探る
【あらすじ】
棒のような手足・浮き出たあばら骨・異様にふくらんだ腹・そんな飢えた子どもたちの映像は、なにを暗示しているのでしょうか。古代ギリシャでは、大きな富が少数の手に集中するのをこばむことを、デモクラシーと呼びました。
そのデモクラシーがいちじるしく欠けているため、貧困が生まれ、キガが作られていくのです。このように見てくると、搾取に結びつく資本主義のしくみを、絶対に先進国は途上国に押し付けてはなりません。
信じたくない現実
飢えた子どもたちの腹は異常にふくらんでいます。それは、カロリーと蛋白質の欠乏によって起こる「クワシオコル」と呼ばれる病気のためです。一方、東京の最新設備の心臓病病棟には胸の痛みを訴える患者が次々と運ばれてきます。しかし、こちらの腹部の出っぱりは食べ過ぎが原因です。
飢えた人の目は、「非常に美しく」かつ「澄んでいる」そうです。
――バックが鼻づらを星に向け、長く声をひいて遠吠えする時、それは、バックといううつしみの犬を通じて、月に吠えるバックの祖先の太古の叫びだった。バックのその泣くような、訴えるような声は、彼らが自分たちのかなしみと、自分たちが感じた静けさや、寒さや、暗さを訴える詩なのであった――(荒野の叫び声より要約)。
この猟犬バックとバックの祖先が負わされているかなしみや、寒さ・暗さと、飢えた人の“美しく澄んだ目”とは底で通じあっているのではないでしょうか。洞くつの中で焚き火に手をかざして暖をとり、自然に身を任せて暗黒と恐怖におびえながら、あらがおうともせず、今日もまた、ただ夜明けを待った太古の人びとのかなしみと、その“美しく澄んだ目”とは、きっと共鳴しているのです。
同様に腹をふくらませた、飢えた人と過食の人を乗せた宇宙船地球号の立派な広間では、餓死者を横目に今日も、夜ごと飽食のパーティーが催されます。そして、手つかずの料理が、おしげもなく今日も捨てられます。
スティーヴンソン著『ジーキル博士とハイド氏』には、高潔な紳士ジーキルが薬によって殺人事件まで引起すハイドに変身する人間の心にひそむ善と悪のたたかいが、書かれています。残念ながらこの二重人格の行いに当たるのが、パーティーに出席しているわれわれ先進国の紳士・淑女たちです。
このパーティーは、「偉大なる者」の目には奇妙で、不思議で、信じられないものに映るでしょう。
キガが生まれる本当の理由
1991年、世界では18.8億トンの穀物(小麦・米・とうもろこし・大麦)が生産されています。1トンの穀物は年間6.7人を養えるとされていますから、理論上では140億以上の人びとを養うことができるほか、果物や野菜・魚類・肉類など穀物に依存しない食物も沢山あります。ですから普通に考えたら、キガが存在するはずはありません。
にもかかわらず、2002年世界食料サミットの演説で、国連のアナン事務総長は「世界で毎日2万4000人がガ死し、8億人の生命がキガにさらされ、そのうち3億人は児童だ」と述べています。さらに世界保健機関(WHO)の報告によれば、現実には12億もの飢えた人びとが存在します。
なぜか、以下にその理由を見ていきましょう。
理由の1は貧困です。4つに細分して示します。
4―@ 米国農務省の推定によると、1998年に米国の全世帯の約12%がキガ、またはキガの瀬戸際、またはキガの不安を抱えている状態にありました。また、 餓死者を多く出しているアフリカ・サハラ地方の国々およびインド・ブラジルも食糧を輸出していますから、キガは食料不足によってではなく貧困を原因にして起こることがわかります。それは世界最大の食糧生産国で最富裕国の1つであるアメリカにも、キガ状態が存在する事実の中にその本質を見ることができます。
4−A 凶作の年は、裕福な農民や商人が食料を買い占め、値段を吊り上げるので食べ物が買えずに貧しい人たちは飢えてしまうのです。
4−B 貧しさが人口増を呼ぶのであって、決してその逆ではありません。「貧乏人の子たくさん」は貧乏の結果です。ですから原因は貧困にあります。
4−C 途上国のほとんどの国で輸出が増加した時も――多数の自国民が、貧困のため食料を買えなかったため――キガは減りませんでした。したがって、自由貿易がキガを救うというのは基本的には誤りです。
キガが生じる理由の2は、社会制度(分配・共生)の中に見られます。
たとえば、1972年の大凶作のとき国連食糧農業機関(FOA)事務局長がインド・サハラ諸国などの最悪の事態を回避するために要請したのは、800万〜1200万トンの小麦でした。小麦1200万トンは世界の総収穫量のわずか1%にもならない量でした。この事例は、適正な分配がなされれば、キガは防げることを示しています。
なお、わが国には縄文時代からめんめんと続く平等社会があって、それが共同体文化を生み、花開いて「共生」の文化を育てました。その延長線上に、現在の生活保護や失業保険などの「社会制度」がつくられました。そのため餓死する人は制度上1人もいません。このように飢えは適正な分配がなされれば、簡単に回避できるのです。
キガが生じる理由の3は、搾取によります。
貧しい人々が食糧と原料を生産し、豊かな国に輸出するという現代の分業的農業の形態は、植民地時代からの名残です。たしかに今日では、この輸出入は合法な契約に基づいてなされています。が、しかし領主と農民あるいは地主と小作人の間には、どうにもならない力の差があり、真の平等は成立しません。その契約の実体は搾取(強い国が、弱い国からその生産品を不当に安く仕入れること)に近いものです。
加えて植民地時代の本国の政策は、分業的農業などすべてが搾取を目的としていましたから、その見えない仕組みの残りかすが、今でも搾取を可能にしているのです。
先進国に属するわれわれの朝・昼・晩の食べもの、下着にシャツにシーツなどすべては、第三世界の住民がわれわれに安く提供してくれたものです。「換金作物」と呼ばれるこれらの産品のために貧しい国は多くの時間と手間をとられ、広大な耕地を当てているのです。
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