生態系と農耕地 自然の力
キリスト教の神は、人間を万物の霊長に指名して、自然を征服し、これを加工して、利用することを命じています。動植物は人間に奉仕するためにあるのだから、煮て食おうが、焼いて食おうがかまわないというのです。
土壌がつくられたときから、ずっと土壌微生物は自分の仕事を一生懸命やってきました。それは植物に栄養を与え、植物が枯れると土に返す働きです。土と土壌微生物とのこの絶妙な交わりには、科学は踏み込めません。人間の浅知恵ではどうにもならない「宇宙のきまり」が働いているからです。
キリスト教の考えが色濃く残っている西洋文明(現文明)は、しばしばその「きまり」を破ります。そこでその「きまり」を破った近代農法の弱点と、生態系を生かした農業の力を見ていきます。
生態系とはなにか
ある一定の地域における生物種と生物量(個体数)をその地域の生物相といいます。これらの生物種はそれぞれが独立して存在しているのではありません。食うか食われるかの関係にあるなどお互い協力し、影響しあって存在しているのです。このような生物種間あるいは生物個体間の関係を、外的環境(温度・湿度・空気・太陽光など)を含めて統一的なシステム(系)とみなしたものを生態系(ある地域に住むすべての生物群集と、それを取り巻く環境とを一体と見たもの)といいます。
生態系の上位にある大魚が中魚を捕食し、中魚が小魚を食べ、小魚がプランクトンを食するという、つながりかたの基本的なものを食物連鎖といいます。しかし、こん虫類のような小動物では食物連鎖は一様ではありません。したがって、生態系にはさまざまな食物連鎖があり、それが入り交ざって網の目のような形を作っており、これを特に「食物網」と呼ぶことがあります。
生態系の構成者とその役割を見ていきましょう。
★ 生産者 植物は太陽エネルギーを吸収して光合成を行い、無機物から有機物(生き物)を作ります。この過程で、二酸化炭素を大気から吸収し、酸素を排出します。
★ 消費者 生産者の作った有機物を食べてこれを消費します。消費者は草食動物のように植物を直接食べる「第1次消費者」、草食動物を食べる肉食動物を「第2次消費者」、第2次消費者を食べる「第3次消費者」に分けられます。
★ 分解者 微生物(細菌・細菌類)は枯死した植物ならびに動物の排泄物や屍骸を分解して無機物に還元します。分解者によって分解された無機物は、再び生産者に利用されます。したがって、物質は無機物から有機物へ、有機物から無機物へ交代します。この作用を物質交代と呼びます。
生態系は、簡単に壊れてしまいます。たとえば、温暖化の影響でヒナのエサとなる昆虫が早く育つと、エサにありつけないツバメのヒナは飢え死にしてしまいます。また2004年秋、日本海側でクマの出没が多くみられましたが、これは温暖化が台風を呼び、落ちたドングリを小動物たちが食べたため、食べ物を求めてクマが人里に出てきたからでした。
生態系の危機
「土は、生物がつくったのだと言えなくもない」と、農薬の害から人類を救った救済者レイチェル・カーソンは書いています。土壌の中には、土や落葉をエサにしている生物がたくさんおり、巣穴を掘ったりして、土壌中を活動することで土を耕して団粒をつくります。フンは植物の栄養になります。その恩恵で植物が育つと、たくさんの落葉ができ、このサイクルが、土壌をさらに良くしていくことになります。
小さじ1杯の健康な土壌の中には、1万を超える種が10億個生きているといわれています。すでに述べたように、これら無数の微生物(分解者)がそれぞれ働きをやめてしまえば、この惑星の生命は存続できなくなります。
細菌は、信じられないほど、形も大きさも性質もさまざまです。たとえば、土壌の中に住む細菌はべたべたした粘液を出して、土壌の粒子と粒子をくっつけています。この細菌の働きがなければ、土壌の細かい粒子はでききません。細菌はまた、牛フンを科学的に分解して土壌に還し、植物の養分にするという重要な役目も果たしています。ほかにも重要な微生物として、菌類がありますが、これらさまざまな種類の菌類や細菌がみんなそろっているおかげで、植物はバランスの取れた食事を腹いっぱいたべることができるのです。
この不思議にみちた地下の王国では、いたるところでこうした無数の微生物の驚異に満ちた営みが繰り広げられていて、その物語はどこまでいっても終わりがありません。ところで、それら無数の微生物の中の、たった1つの種がいなくなるだけで、土壌は健康を失うと考えられています。
農耕地
化学肥料で栽培すると、土が固くなって根が伸びなくなるので、野菜は栄養分を十分に吸収できません。そのためひ弱になり、病原菌に犯されやすくなって、農薬に頼らざるを得なくなります。殺菌剤は病原菌を殺しますが、同時にあの働き者の微生物も殺してしまいます。1950年から1990年にかけて世界の穀物収穫量は、約2倍にも伸びましたが、その後は化学肥料などの増加があったにもかかわらず、横ばいになっています。
それは、化学肥料の使用―野菜の虚弱化―病原菌の増殖―殺菌剤の撒布―土中微生物の劣化―収穫量の低下―強い化学肥料の多肥という悪循環によってもたらされたと考えられます。つまり、化学肥料は人間に直接には悪さをしないが、土壌を殺してしまうという悪さをします。
それに反して、有機肥料を使えば、土中微生物が増えるばかりか、彼らは土の中を動き回って、微小な間隔をつくるので、空気と水が保たれるようになります。すると微生物はますます元気に動き、根は柔らかくなった土の中で育ち、伸びていきます。
この微生物を含む土壌に毒の化学薬品をばらまいたらどうなるでしょうか。イギリスでの実験によると、ある値を超える合成化学物質を定期的に散布したら相当数の土壌微生物が死に絶え、土壌中の有機物が乏しくなりました。化学薬品をまかない区画にいる微生物を10とすれば、撒いた方は1でした。
ちなみに、化学肥料をまくのは、生物学者の間では土地を「侮辱する」行為と呼ばれています。微生物がいなくなった土壌は、工場の電源を切ったのと同じ状態。加えて、農薬は残留して直接身体に害を与えるほか、環境ホルモンとして作用し、子どもの知能障害などを引き起こします。
近代農法の弱点
土地は生きている≠アとを前提にして福岡正信は、自然農法を生み出しました。その方法の1は【土地を耕さない】ことです。2は【化学肥料・堆肥を使わない】ことです。3は【中耕や除草剤で雑草を取り除かない】ことです。4は【農薬に依存しない】ことです。
福岡の田んぼでは平均の3倍近い300を超える粒がつきます。
自然農法に対する福岡の哲学をまとめてみると、近代農法は、@農業生産の過程で生態系のしくみを無視し、自然を破壊している。Aそのため収穫量が低くなる。Bそれを補うためにあらゆる方法をほどこす。Cするとかえって自然破壊が進み、破滅に向かう------。
琉球大学教授比嘉照夫は、土地を生き返らせる「有用微生物物群」(EM)を発見しました。これを使えば農薬や肥料を必要としないばかりか、土壌はどんどんよくなっていきます。
進化の原則に反しているので、バイオテクノロジー農法には、いずれ避けて通れない弱点が出てくると教授は考えています。