「エイジ・オブ・ビックリマン 〜序章〜 」
「デビル、覚悟!」
「うわぁああ〜ッ!!!」
次界における天使と悪魔の宿命の戦いは、悪魔軍ヘッド「スーパーデビル」が、
天使軍ヘッド「アンドロココ」と改心した「ワンダーマリア」の手によって倒れることで決着を見た。
しかし天蓋瀑布の更に奥、久遠エリアでは未だ聖魔の戦いが続いていた。
その戦いをとめるべく、ラファエロココとなったアンドロココは久遠域を目指し飛び立った。
それと時を同じくして、一人の天使が目覚めようとしていた。
それはこの世に生まれ落ちた瞬間からスーパーデビルによって封印されていた存在。
それはサタンマリアと同じ母を持ちながら、歴史の表舞台には登場しなかったもの。
彼女の名は『卑弥太夫』
その少し前、次元潜水艦で過去の時間にオパジュエルを探しに来たマルコやベイギャルズたちは、
アンドロココがラファエロココに神帝の残した理力でパワーアップしたを見て、ここが聖魔和合の時代である事を理解していた。
「あれがラファエロココさま!」
「ヤマトウォーリア様よりもかっこいーじゃん!」
「でちゅぴー!」
オズやベイギャルズが声を上げる。
伝説の英雄をその目で見ることが出来て感動しているのだ。
「・・・あれ? オイ、マルコの奴どこ行った?」
コッキーの言葉にみんなが回りを見渡すと、一緒に次元潜水艦に乗っていたはずのマルコの姿が消えていた
共に久遠域へ行き、聖魔の争いをやめさせようと言うロココの言葉を断り、
天蓋瀑布に残ったワンダーマリアは一人で天蓋瀑布の河辺にいた。
虹層球より溢れた水で出来たその河はワンダーマリアに自分自身の姿を映し出していた。
サタンマリアとして老天使より六聖球を奪った事… 六聖球ソードを振りかざし天使達を苦しめてきた事…
そして同じ悪魔であるスーパーデビルを裏切り倒した事… 戦いの末、神帝たちが死んでしまった事…
その一つ一つが、今はワンダーマリアを苦しめていた。
「今まで悪魔として多くの天使達を苦しめてきた私が、いまさら平和の為に呼びかけるなど……」
そう自虐的に呟くと、ワンダーマリアは聖球が一つだけとなった六聖球ソードを水面に投げつけた。
「こんなもの!」
チャキン!
「ん?」
河に突き刺さったソード。
そのソードに流れてきた『何か』がちょうど引っかかったのを見て、
ワンダーマリアは目を細めた。
そしてその直後、河に飛びこんだ。
引っかかっていたのがお守りらしき少年だったからだ。
「あれ?オイラ…」
マルコが気がつくと、そこは地面の上だった。
次元潜水艦が揺れたはずみで河に落ちた後の記憶がない。
「気がついたか?」
マルコが体を起こすと、紫色の髪の女性が声をかけた。
「おばちゃんだれだ?」
「おば…っ わたしはワンダーマリアだ!」
「わんだーまりあ??」
「オマエ… 知らんのか!? 悪魔の中の悪魔と言われたこのワンダーマリアを!」
そんなこと言われても、平和な次界出身のマルコには何の事やらわからない。
歴史に興味のあるオズやヤマトウォーリアなら解ったかもしれないが、
自分以外の事にはあまり興味のないマルコには昔の人間の名前などはどうでもいい事だったのだ。
「まあいい。ところでオマエどうしてこんなところ… はっ!」
本気で悩んでいるマルコに飽きれたワンダーマリアが別の会話を切り出そうとしたその時である。
炎の鞭が、たった今までマルコがいた場所を焼き焦がしたのだ。
「ケッ!あのワンダーマリアがガキの子守りとはな!」
「天使に寝返ったってのは本当だったみたいだな!」
炎の鞭はしゅるしゅると巻き戻り、空に浮かぶ隻腕の悪魔の手に戻った。
そして一緒にいるのは狼のような外見を持つ悪魔である。
どちらもヘッドクラスの悪魔らしく、全身から魔力を漲らせていた。
「オマエたちは・・・!?」
「俺は魔スタリオス! 元は魔スターPだったと言えばわかってもらえるかなァ?」
「そして俺は魔君ポセイドスからパワーアップしたフュジョンキッドスだ!」
「クッ… パワーアップしていたのか…」
「裏切り者には死、あるのみだ!」
「覚悟しろワンダーマリア!」
「待て!私はもう戦いはやめたんだ!!」
制止しようとするワンダーマリアに襲いかかる二大悪魔!
魔スタリオスの炎の蛇を、そしてキッドスの猛攻を体を捻りなんとかかわすワンダーマリア。
しかしマルコを庇いながらではどうしても動きに制限がある。
「ガキが足手まといのようだな!軽くしてやろう!」
「やめろ!この子は関係ない!」
「もらった!」
「しまった!!」
ワンダーマリアが死を覚悟したその時である。
眩しい光線が悪魔たちを貫いた。
「な…っ」
二人を討ったのは卑弥太夫であった。
手にした、聖球によく似たアイテムから放たれた光線が、
悪魔たちを気絶させると卑弥太夫はワンダーマリアの側に降りてきた。
「だいじょうぶですか?マリア。」
「オマエは・・・」
「もう、恐れる事はありません。このような事は二度と起こさせませんから」
「なに?それはどういう意味だ?」
「全てをやり直すのです」
そう言い残すと、卑弥太夫は久遠域めざして飛び立った。
一方その久遠域では、ラファエロココにより平和への懸命の呼びかけが続いていたが、
天使と悪魔の睨み合いはピークに達しようとしていた。
「歴史では、スーパーデビルが倒れてすぐ聖魔和合が成立しているのにそうなっていないという事は…
きっと歴史を司るオパジュエルが関係しているに違いない!」
コカパンの説明に、オパジュエルを見つけるべくレーダーにかじりつく次元潜水艦の面々。
「おい・・・オパジュエルがこっちに向かってくるぞ」
「ホントだわさ!すごいスピードだわさ!」
「なんじゃと!?」
そしてそのオパジュエルの現在の持ち主…卑弥太夫が久遠域に到着した。
「天使と悪魔の長い長い戦い… それもいまここで終わる!憎しみの悪循環もここまでだ!」
「アナタは…」
驚きを隠せないラファエロココの目の前で、自らを巨大な光の球のバリアで囲む卑弥太夫。
そしてその光球から耐え切れないほどまぶしい光がほとばしる!
光はやがて渦を巻き、久遠域全体を包みこんでいく。
光の渦の力によって天使や悪魔たちが次々と空中に浮かび上がっていく。
「なんだ!?なにがおこっているんだ!?」
「こんな、こんな出来事は歴史に記録されていない!あの天使、あの天使を止めるんじゃみんな!
このままでは歴史がくるって大変なことになってしまうゾイ!」
「なんだってぇ〜!?」
「冗談どっこいしょだわさ!」
「えーん!歴史がわたし達どうなっちゃうんでちゅピ〜!」
「泣いてるヒマはないでございます!」
「そういう事じゃん!」
「いくぞみんな!」
『おう!』
卑弥太夫がオパジュエルをもっている事を知ったオズ。
いま居るメンバーの中でオズこそが歴史が変える事の恐ろしさを最もよく知っていた。
だからこそ彼はもっとも果敢に卑弥太夫に挑み、
「うわぁ!」
無謀の代償を支払った。
「騎士よ、わたしを止めるな。褒め称えよ。」
オズに続き、ベイギャルズたちも攻撃を仕掛けるが、卑弥太夫を覆う光の球には
波紋一つ立てることは出来なかった。
その頃、卑弥太夫を追ってきたマルコとワンダーマリアも久遠域に到着した。
久遠域を覆っていた光の渦はその範囲をどんどん拡大しつつあった。
同時に渦の速度もドンドン加速し、中に囚われた幾百幾千の聖魔を飲みこみつつあった。
「くそ!まるで水洗便所に飲み込まれてるみてーだぜ!」
「お。おい…なにかおかしいぞ…」
「え?あ、なんだ?カラダが…」
「これは…!?」
最初にその兆候が現れたのはラファエロココだった。
ラファエロココの体が眩しく輝いたと想った次の瞬間、ボロボロと鎧や剣が崩れ始めたのだ!
いまは亡き神帝隊が残したアイテムが次々と消滅し、ロココはアンドロココにパワーダウンしてしまったのである!
いや、異変はそれだけにおさまらなかった。今度はアンドロココの髪が異様な速度でグングン伸び始め、
瞬く間に長髪になったロココの額から鳥のクチバシのような物が伸び出したのだ!
そして同様の変化は天使や悪魔たちにも起こっていた。
クロススターや金太ボットの乗っていた聖ボットはいきなりネジ単位でバラバラになり、
ダデビブは車輪に変えたはずの四肢が再びにょっきりと生え、悪Qどらは乗ったまま地中に埋まっていった。
スパルタックには何処からともなく出現した肉片が顔面に張りつき、呼吸困難に陥らせ、
デビリン族や聖ウォーマンはいきなり合身が解けタッグ戦から団体戦に変わった!
ロックボット、イージーボット、トンガラなどは突然バックで走り始め、
ワンダーマリアには天蓋瀑布の方角から飛来した聖球が、途中で合流した六聖球ソードに次々とハマったかと
思いきや強烈な勢いでワンダーマリアの額めがけて飛来した!
「六聖球ソードがわたしを!?ええい、一体何が起こっている!?」
「おばちゃん!おばちゃんの格好が!」
間一髪で六聖球ソードが頭に突き刺さるのを押さえたワンダーマリア!
しかしその紫色の髪はいつしか炎の様に真っ赤に変わり、どこからか出現した鋼鉄製の鎧が全身をおおっていく!!
ビュンビュンビュンググンッッ!!
ゴッ!!
加速しつづける『渦』の影響はいまや表層界全土に及んでいた。
「あらまぁー!スーパーゼウスさまのおひげがぁー!」
「ワ、ワシのヒゲがどうしたんじゃ!?」
天聖界ではスーパーゼウスのヒゲがすべて抜け落ち…
「今度は髪までー!」
「だからワシの髪がどうしたんぢゃーーーー!?」
「あらあらあら…いやーん。ヴィーナス白雪こまっちゃう〜?」
「はい?」
その跡から黒々とした毛髪が生えてきていた!
聖フラダイスでは魔スタリオスが謎の紐にグルグル巻きにされたかと思えば、
フュジョンキッドスめがけて巨大な聖鏡盤が飛来し、キッドスを叩き潰した!
智道では魔統ゴモランジェロが、
「おかしい… 掘っても掘っても前に進まない… どう考えてもここはさっき掘った筈なのに…」
悩んでいた!
ネブラで、天地球で、天魔界で、つまりありとあらゆる世界で異変が巻き起こっていたのだ!
「マリア!ワンダー… サタンマリア!」
「ロココ… せ、聖フェニックスか!?」
いまや聖フェニックスにまでパワーダウンしたロココが、
渦の中でサタンマリアを見つけた。
「これは一体なにごとですか?彼女は一体!?」
「わからない…アイツは『すべてをやりなおす』とか言っていたが…」
ビュンッ!!
「おじちゃん、おばちゃん、あぶないッ!」
「なっ!?」
マルコはサタンマリアを突き飛ばすと、突然『上』から落ちてきた巨大な『足』をハリ手で弾き飛ばした!
「こ、これは!」
「ひさしぶりだなァァアア〜!聖フェニックスゥゥゥウウウ!!」
「オマエは…魔肖ネロ!!!」
「恨みを晴らしてやるぅぅぅううウウウ!!!魔性!般若パワー!!!!」
ビュンビュンビュンッッ!!
「あぶない!聖フェニックスさま!」
襲いかかる魔性般若パワーから聖フェニックスを間一髪救ったのはヤマト王子だった!
そして他の若神子も次々と魔肖ネロに挑んで行く!
「みんないくぞ!」
「おう!」
ビュビュビュビュングググンンッ!!!
「バカな… こんなバカな!」
次元潜水艦の中で一人、計器にかじりついていたコカパンもまた混乱していた。
時間メーターの一つが、もう目では追えないほどの速度でカウントを刻んでいたからだ!
「『現在時刻』がどんどん遡って行く!! そしてこの現象…まさか…まさか時が…『逆行』しているのか!!!」
そして!
「ホギャー!ホギャー!」
「おー、よちよち…どうしたんでちゅかぁー?」
「ホギャー!!!」
「うわっとと!?なんだ、何が気に入らないんだ!?」
ある建物の中で、一人の男が赤ちゃんのオムツを変えている。
その男は赤ん坊の扱いにはあきらかには不慣れなようで、
おっかなびっくりなんとかなだめようとするが、赤ん坊は泣き喚くばかりだった。
「うふふ。ヘッドも形無しですわね、ジュラ様。」
その様子に苦笑しながら一人の少女が入ってくる。
和風の服装で、さながら公家の娘といった印象だ。
「おう!こんな強敵は始めてだ!もう白旗を上げたいくらいだ!」
「まあ、泣き言だなんてジュラ様らしくもない。」
「泣き言も言いたくなる!コイツラ、なにを聞いても泣くばかりなんだぞ!」
「赤ん坊なんだからな泣くのが当たり前だろ?ジュラ」
少女の後から、始祖ジュラと同じように赤ん坊を抱いた青年が入ってくる。
「ああシャーマンカーン… やっぱりオレには、子育てなんて向いていないと思うんだが…」
「まだそんなことを言っているのか?いいかぁ?オマエは聖神さまに選ばれたんだ。もっと自信を持てよ!」
その青年…若き日のシャーマンカーンは、のちの歴史で「魔祖王」と呼ばれる事になる男…始祖ジュラを励ました。
「ほぎゃー!ほぎゃー!・・・すやすやすや」
「おーよちよち。いい子でちゅねーv」
泣き喚いていた赤ん坊は、ノアフォームに抱かれると途端に泣き止み、すやすやと寝息を立て始める。
「おいシャーマンカーン!コイツ女好きだぞ!大人になったら相当なスケベになる!間違いない!」
そう言って始祖ジュラはその赤ん坊…スーパーゼウスを指差した。
魔紀元の時代、聖神ナディアは古代表層界の住人達に二人の指導者になるべき双子を授けた。
その双子、スーパーゼウスとブラックゼウスの兄弟はシャーマンカーンと始祖ジュラによって育てられる事になった。
カーンとジュラのそばには、常にノアフォームという名の少女がいた。
彼女は若いが強い魔力と天使のようにやさしい心を持っていたので誰からも好かれていた。
表層界はシャーマンカーンの理力と始祖ジュラの魔力によって長い平和の時代を謳歌していたのである。
深夜。二人のゼウスをノアに任せたカーンとジュラは酒場で酒を酌み交わしていた。
「なぁ、だからいってるだろシャーマン…好きなら告白しちまえって。」
「正直…私にそんな資格があるとは思えないよジュラ…」
「オマエらしくもない…バシっとかましちまえよ!」
「それが出来たら苦労はしないんだよ。それに…」
「なんだよ?」
「キミはいいのかい?」
「オレ?オレがなんだっていうんだよ」
「キミだってノアの事を……」
「はぁ?バカいってんじゃねーよ!オレはあんなションベンクセえ小娘なんて全然タイプじゃねーんだよ!
いや、好きだけどそういう好きじゃねえんだ。いや、なんだ。とにかく、オマエはさっさと告白しろってこった!」
「ありがとう、ジュラ。」
「気にすんな。この借りはいつか返してもらうからよ。」
しばらくして酒場を出、カーンと別れたジュラは夜道を歩いていた。
「気にすんな…か。そうとも、カーンはいい奴だ。オレが安心して任せられるほどな…」
アイツラならお似合いだぜ…。オレはこの表層界が平和であればそれでいい」
「はたして本当にそうかな?」
「だれだ!?」
ジュラが辺りをみわたすが、声の主の姿は見えない。
月がちょうど雲に隠れ、周囲は完全な暗闇に変わる。
「ワシの事はだれでも良い。それよりもお主は自分自身を偽ってはおらんか」
「なんだと?」
「本当はお主はこの表層界を支配したい、ノアもカーンも何もかも手にいれてな。」
「バカな… 表層界はみんなのものだ!」
「だが出来るなら自分のものにしたい…そうじゃろ?」
「バカな… オレはそんな事は思ったことも…」
「無いと言い切れるかな?」
「あたりまえだっ!!」
ジュラが叫ぶと同時に月が姿を現し、周囲を照らす。
しかしやはり周りには何の影も無かった。
「いまのは……」
「ひとりごとか?始祖ジュラ」
空中より始祖ジュラに問いかける人影。始祖ジュラは目を細める。
先ほどの声はコイツか?いや、ちがう。
「なんだオマエは」
「世界を悲しみから救う者だ」
「なんだと?」
「未来の為に・・・死ね!始祖ジュラ!!!」
その人影、卑弥太夫はその力で手のひらから長剣を生み出すと始祖ジュラめがけて斬りかかった!
いきなり斬りかかってきた卑弥太夫に、反射的に剣を抜いた始祖ジュラはすかさず応戦する。
「なんだ、何を言っている!」
卑弥太夫の剣を蛇剣で受けとめながらジュラは問いかける。
「世界に平和をもたらすのだ!」
虚実断剣をふりかざし、いまだ躊躇う始祖ジュラに容赦なく叩きつける卑弥太夫。
それを剣の角度を変えることでそらすジュラ。
「オレを殺すと言ったな!オレを殺せば世界に平和がもたらされるとでも言うのか!」
何度目かの卑弥太夫の打ち込みを始祖ジュラは力任せに打ち払うと、
そのまま左手で卑弥太夫の喉元を掴み、動きを封じる。
「そうとも…今のお前は悪人じゃない…」
伸張したジュラのスネークタスクに喉を締め付けられ、苦しそうに喋る卑弥太夫。
しかしその目は憎しみで満ちていた。
「だが、私はこれからどうなるか知っているんだ。全てがねじれ、狂ってしまう。
おまえが天使を裏切る前に、なんとしても止めてやる…その為にお前の命を奪う必要があるとしてもな!!」
「なに?ぐわっ!」
卑弥太夫が右手にもった古来時球が光線を発し、始祖ジュラを弾き飛ばす。
自由になった卑弥太夫は再び宙に舞うと続け様に光線を見舞う。
「私にはその為の力もあるんだ!この宝石が私の元に現れた瞬間、私はすべてを理解した!
そして魔祖王!お前はまだ若く、次神子を飲み込む前でまだ魔力も弱い!」
「森が・・・!」
ジュラをを狙った光線はいくつかは始祖ジュラを打ち、逸れたいくつかは表層界の森を薙ぎ払った。
森の住人達が慌てて火を消そうと家から飛び出してくる。
それを見た始祖ジュラは、自分も飛び上がり空中戦に切り換える。
その頃、自宅に戻っていたシャーマンカーンらも上空で繰り広げられる戦いに気がつき、現場に急行していた。
「みんな、燃えている木の周りの木を切り倒すんだ!」
カーンは表層界の住人達に素早く指示を出すと上空を見上げる。
「あの始祖ジュラと互角に戦うとは・・・何者だ?
魔鬼予知シグナルが反応してないという事はアレは天使なのか?」
「シャーマンカーンさま!」
「ノアフォーム!」
振りかえったカーンは、着物の裾を翻し駆けてくるノアフォームの姿を見つけた。
「ここは危険だ!はやく城に戻れ!」
「でも私、何か胸騒ぎがするんです!とても、とてもイヤな感じが!このままじゃ!」
ノアフォ−ムの不思議な力を知っているカーンは彼女が何かを感じ取っている事を理解した。
「解った。じゃあ決して」
シャーマンカーンは自分の腕輪を拡大させ半円型のバリアを創り出すとノアをその中に入れた。
「ここから出ないと約束してくれ」
「はい!」
「ジュラのことはわたしにまかせるんだ!」
空中ではなおも激しい戦いが続いていた。
「一体なんの話だ?なぜ俺を魔祖王と呼ぶ?」
卑弥太夫の左手から放たれた数本の布が、始祖ジュラを絡めとらんと鎌首を持ち上げて接近してくるのを
スネークタスクを回転させて切り裂いた始祖ジュラは、口から火球を吐きだし卑弥太夫に見舞う。
「私に解ったのだからオマエにも解るはずだ!始祖ジュラ!
出来る限りの方法を考えたが…これ以外に方法はないのだ!」
燃え盛る火球を舞うような動作で四散させた卑弥太夫は、それを煙幕代わりにし、
始祖ジュラの背後を取ったかと思いきや再び布を放つ!
「しまっ・・・スネークタスク!」
再びスネークタスクを伸張させ、布を切り裂こうとした始祖ジュラだったが、
次の瞬間、腕輪を卑弥太夫に砕かれてしまう!
「オマエが天使を裏切り、悪魔たちを煽動しなければハ−モピースは続いていたはずなんだ…
オマエを殺せば、その通りになる…だが私の時代ではもうダメだ。聖魔の争いはもう取り返しのつかない状態だったからな!
何人もの天使達の命が失われ、何人もの悪魔達の魂が散った!」
始祖ジュラの全身を強固な布で絡めとリ、顔を出したミイラに変えた卑弥太夫は、
そのまま始祖ジュラを凄まじい勢いで空中から大地に叩きつけた。何度も。
「グ……」
さすがに堪えたらしく、ピクリともしない始祖ジュラ。
何本か骨も折れたのかもしれない。
「だから『いま』、『ここ』で、オマエを殺す!その為に私は未来から来たんだ!」
「グハァア!」
言葉と同時に今度は見えない衝撃波が卑弥太夫から放たれ、始祖ジュラ、
そして彼を救うべく近づいてきたシャーマンカーンもダメージを受けた。
「オ、オマエは・・・オレがまだ犯してもいない罪で・・・オレを裁く・・・つもりか・・・」
それが・・・オマエにとっての善・・・・それがオマエの正義なのか・・・?」
「そうとも…お前の心に何が潜んでいるか知ってるぞ!この先どんな悪魔になるのかもな!
天使を裏切り、ハーモピースを破壊する最初の悪魔!悪魔の始祖になるんだ!」
言葉が発せられるたびに衝撃波が周囲を走り、付近の大地を薙ぎ払う。
倒れている始祖ジュラはともかく、ようやく立ち上がろうとしていたカーンは吹き飛ばされる。
「や、やめろ…罪のない命を奪ってまで得る平和にどんな意味があるって言うんだ!」
這いずるようにして前に進もうとするシャーマンカーン。
理屈はわからないが、理力も上手く働かない。
一方、卑弥太夫はもはや身動き一つ出来ない始祖ジュラに近づくと、布をほどいた。
「グッ…どこに…そんな確証がある…?おまえの…介入で…全てが変わったんだぞ…
俺はお前の言うような化け物…にならんかもしれん…」
虚実断剣を始祖ジュラの喉元に付きつける卑弥太夫。
「ああ…信じたいよ。その言葉をどれほど信じたい事か…だがどうして信じられる?
私のいた時代は悲惨な時代だ。その全ての原因は貴様にあるんだ!
聖魔の争いが始まったせいで母上は私を救えなかった、天使を救えなかった、悪魔を救えなかった!
だがそれを私が変えてやる・・・魔祖王始祖ジュラ・・・貴様が死ねばきっと未来も変わるはずだ。
とにかくこれ以上悪くなりはしないさ…天使と悪魔とお守り、誰もが平和に暮らせる世界、
永遠の平和と繁栄がもたらされた『約束の地』ハーモピースがよみがえるんだ!」
大きく振りかぶる卑弥太夫。
「さらばだ始祖ジュラ…新しい『歴史』にオマエは連れていかない。
世界からも未来からも時間も!消滅せよ、魔祖王ッ!!」
「うわぁぁああああーーーー!!!」
放たれた『未来』からの凶刃。
しかしそれを受けたのは始祖ジュラではなく、彼をかばった…シャーマンカーンだった!
「シャーマンカーン!」
「シャーマンカーンさま!」
「…そんなどうして?」
「こんな馬鹿な!死ぬはずがない!」
「だって…」
『未来からの闖入者』は取り乱していた。
そう…天使達の指導者であったシャーマンカーンを殺したら…。
始祖ジュラを倒すべきヘッド、スーパーゼウスを強く育てたものもいなくなり、
悪魔達の攻撃に立ち向かうものもいなかった。
「バカな、シャーマンカーンが死んだら… 世界は… 表層界は…」
思わずよろよろと後ずさりする卑弥太夫。だが突然尻餅をついた。
何故ならその体が、足元から急速に消え始めていたからだ。
『シャーマンカーンが死ぬ』という修復不可能な傷を受けた『時間』が、歴史の改変を始めたのだ。
「ダ、ダメだ、このまま消えるわけには…!こんな事があっていいはずがない…こんな… こんな…!うわああっ!」
・・・卑弥太夫の願い通り、ビックリマンワールドの歴史は変わった。
ただし『シャーマンカーンの居ない世界』として・・・・
「カーン…!シャーマンカーン…!俺を助けて死んだのか…!なんてことだ……!」
カーンの亡骸を抱きしめ号泣する始祖ジュラ。
その腕の中でカーンの肉体が光に変わり、消滅する。
これより先・・・世界はその姿を変える・・・・
・・・すべての世界が・・・・その・・・・姿を・・・・・
『エイジ・オブ・ビックリマン 〜序章〜』(完)