きれいな思い出
(5)
(まじ話です。ノンフィクションですが、登場人物は全て仮名です。)



21歳 12月

俺は、就職して、東京へ行った。

ゆみの住む東京へ。

会社の寮のある路線の終点には、

ゆみの住む吉祥寺があった。



24歳 12月

アパートへ引っ越した。

同じ沿線の久我山へ。

住み慣れていたし、この沿線に住んでいたい気もしたから。



25歳 1月

気が向いて、ゆみへ年賀状を出してみた。

返事はなかった。



26歳 1月

ゆみから年賀状が来た。

2度ほど、吉祥寺で俺に似た人を見たらしい。

多分俺かな。

かつてバイトした喫茶店に似た雰囲気を持っている

気に入った店に毎週の様に行っていたから。

俺もゆみに似た人を見かけた事があったし。

まさかな。と思って、互いに視線があっても通り過ぎた。



27歳 1月

互いに年賀状を出し合った。



28歳 1月

会社を辞めて、実家に帰る準備をしていた俺は、

年賀状に、その事を書いた。


ゆみから、電話が来た。


”かえっちゃうんですか?”


”会いましょうよ”



翌日、会う事にした。


”久我山まで行きますよ”


”何もないよ。久我山は。”


”何もなくていいですよ”



プラトニックな10年前の先輩、後輩の

関係を望んでいるんだろうと俺は思った。



翌日、駅で待ち合わせた。

ゆみは既に来ていた。


10年ぶりだというのに、互いに一目で相手がわかった。



”どこへ行こうか?ほんとに何もないよ(笑)”


”アパートはどうですか?”


”今、引越し準備ですごい状態だから無理かなあ(^_^;)”


意外な提案に俺はとまどっていた。


”じゃあ。とりあえず歩きましょう。どっち行きます?”


”こっちは俺のアパートあるからあっちに行こう”



俺のアパートとは逆方向へ歩き出した。



玉川上水沿いの道を見つけたゆみは、


”ここを吉祥寺まで、歩きませんか?”



せまい川沿いの道を2時間以上かけて歩いた。


”太宰ってここで自殺しようとしたんですよ”


”ここで?すげーせまいのに。あ。でもかなり深いから、

増水してればやばいかもね”




なんてとりとめもない話しをしながら。


彼女は10年前の彼女と変らないでいた。


頭のよい彼女は相手が何を考えているか、常に察してくれた。


”映画のオーディション受けたんですよ。1次は受かったんです。”


”映画のためにバイクの免許取らせてくれるんですよ”



”マイナーな映画だから○○ではやらないかも”


”やってる映画館を教えてくれれば見にいくよ”


化粧が嫌いだという彼女は、化粧が義務である普通の会社には

行けず、選択肢が狭いらしい。



俺にとって、その時の彼女は、恋人でもない、妹でもない、


自然に空気のように会話を楽しむ事ができた。


互いに恋愛感情はなくても、好意を持っているのが

判りきっているからかもしれない。



”あそこの喫茶店へ入りませんか?”


俺たちは店へ入った。


彼女は手がとても冷たいと言った。


触れると本当に冷たかった。


”久我山まで送ります”


一緒に電車で久我山まで乗った。



互いに、別れがたい気持ちは同じだった。



おそらく、もう2度と会うことがないのがわかっているから。



”今度は俺が吉祥寺まで送る?(笑)”


”ずうっと電車乗ってたりして(笑)”



俺が先に帰る事にして、ずっと見送る彼女を置いて、帰った。





ひょっとして、彼女は・・・・ とも思った。



だけど、彼女がかつて言った、


「好きな人の一人として思っていたい」



それを崩す気にはなれなかった。



何より俺自身、「きれいな思い出」を、


汚す気にはなれなかった。




戻る