無題1-04


和樹は高速道路を車で走っていた。

もう秋は始まりかけていて、空に見える雲も高い位置に

まばらに見える、快晴と行っていい日の午後まだ早い時間だった。

裕子との待ち合わせの時間までにはまだ充分に余裕があった。

普段はもう少し速度を上げて走る和樹だったが、

今日はゆっくりと走りたい気分で、法定速度の通りに走っていた。

和樹の乗る車は速く走れるようには見えない4WD車だったが、

その気になれば大抵の車を追い抜けてしまう実力はあった。

外見で判断して気軽に追い越していく車を抜き返したり、

後ろからあおってくる車を置き去りにしてしまうのが

和樹の楽しみの一つだった。

今日はかなり余裕を持って走っているので抜かれても

抜き返す事もなく、和樹は静かに走り続けた。


裕子の住む街の駅のロータリーで待ち合わせだった。

時間ちょうどに着いた和樹は車を停めて待っていると

駅の係員が来て和樹に向けて何かを言っていた。

窓を開けると、係員が

「ここはタクシー乗り場なんだから、だめだよ。移動して!”」

”どうしようかな。こいつうるさそうだしな。一回外に出て戻ってくるか”

車を出そうと後ろを確認していると、窓を叩く音がした。

”うるせーな。今出るよ”

と思いながら窓を見ると裕子が立っていた。

車に乗りながら、裕子は

「ごめんね。遅れちゃって。怒ってるの?」

「いや。全然怒ってないよ。せいぜい2,3分なんだし。」

「でも、すごく怖い顔してたわよ。和樹。」

「あ。ごめん。今あいつの邪魔だから出ろって言われてさ。」

「ここタクシー乗り場だもんね。ごめんね。こんなとこにして。」

「いいさ。俺もこの街はまだよくわからないし。」

「じゃあ。今度待ち合わせる場所は明日下見しておこうよ。」

「ああ。いいけど、俺が忘れちゃったらどうする?」

「忘れる程会わないつもり?」

「いや。すぐ会う」

言いながら二人は笑った。

「さて、晩飯はどうする?」

「うーん。あ。そうだ!私牛丼食べたい♪」

「はあ?そんなもんでいいの?」

「うん♪だって和樹前に言ってたじゃない。」

「何か言ったかな?」

「”俺はああいう店で食べてるカップルを見るといいなあって思うんだよ。
ああいう店で平気で食べれるって事はさ。二人の間には何も飾るものがないって
事だしね。飾らずに全てさらけだしてるって思える。”って。」

「そう言えば言ったね。そんな事。」

「私たちってまだ、会うのは4回目だけど、もうずいぶん長い間話してるし、

和樹の前では飾りたくないんだ。私。」

「そっか。わかった。じゃあ行くか!」

「うん♪いこー!」

二人はまた笑いあった。





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