無題1-09
和樹は海沿いの国道をバイクで走っていた。
裕子と会う予定にしていたのは明日だったが、
バイクで長距離を走ってみたくなった和樹は休暇を取り、
午前中の遅い時間に部屋を出た。
和樹の住む街を通り抜ける国道から
海沿いの国道が分岐していた。
分岐する側の国道は、ここから始まっているようにも見えるが、
東京を基点とした上り、下りの観点で見るならここは終点だった。
和樹は終点から逆に海沿いの国道を走っていった。
往復2車線の国道はこれまで走っていた道と違い、
沿道の店も極端の減って寂しいものとなっていた。
和樹は小さな港町の標識を見て、左のターンシグナルを点灯させた。
今は小さな漁船が数隻もやってあるだけの本当に小さな漁港だった。
漁港から遠くに見えるフェリーがゆっくりと動いていくのを和樹は見ていた。
別に興味があったわけではなかった。
明日会う事になっている裕子と近い将来暮らす事になる事について
ぼんやりと考えていた。
和樹も裕子も一緒に暮らす事は話し合っていたが
その先の事は考えていなかった。
和樹の場合には、まだその先を考えたくなかった。
一度失敗してしまった事が、和樹を臆病にしていた。
漁港近くの食堂へ入った。
普段は焼き魚でしか食べられない魚の刺身があった。
焼き魚定食に加えて、刺身を単品で頼んだ。
脂ののっているその刺身は、生姜醤油で食べると非常においしいものだった。
裕子の街へ今日着くつもりはなかった和樹は
途中で泊まるつもりでいる街へ向った。
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