無題2-01
街で最も高いビルのさらに高いアンテナ塔から、彼は見下ろしていた。
眼下に見える全ての者を見下しているかのように
彼は見下ろしていた。
群れをなす者の多い中、彼は孤独を愛していた。
薄汚れた都会の街の地面を蟻の如く這い回る生き物がいた。
人間という生き物が。
そんな人間の食った残飯を醜く漁る生き物がいた。
醜い?
それは傲慢な人間の視点で見るからそう思えるだけの事。
彼等にとって、他に食う物の無い薄汚れた街では
大切な生きる糧だった。
生きているから食う。
ただ、それだけの事。
しかし人間を軽蔑し、その残飯など絶対に食わない者がいた。
わずかながら、残飯以外の食い物はあった。
ビルの屋上に作られた菜園やちっぽけな箱庭に作られた野菜。
生きた動物を食いたければ山へ行った。
残飯を食っている動物は彼は食わなかった。
間接的に残飯を食う事になるから。
彼は孤独を愛していたが、その意志とは逆に若い鴉からは慕われていた。
孤独を愛し、それを疎んじる他の鴉が群れをなして
街から追い出そうとしても臆する事無く立ち向かい、
退けるその姿に若い鴉達は尊敬の念を抱いていた。
群れる事の嫌いな彼に近寄る事のできなかった若鴉達は
彼に近づきすぎない程度にいつもつき従っていた。
その数は30羽を越えていたが、それだけの数が一箇所に集まれば
立派な群れとなってしまうため、若鴉達はばらばらに
偶然に集まっても2,3羽程度で行動していた。
彼に対し特に敵対心を持つ者がいた。
一際身体の大きなそいつは、猛鴉と呼ばれていた。
猛鴉は彼が若鴉や雌鴉に非常に人気のある事を妬んでいた。
自分の方が身体も大きく、強いのだ。
あんな奴が何故人気があるのだ。と思っていた。
アンテナ塔で独り街を見下ろしていた彼に向って
猛鴉は10数羽の仲間を従えてやってきた。
”やれ!!”
猛鴉は仲間の鴉をけしかけた。
彼は、初めに向ってきた奴を飛び立ちざまにかわし、
羽で目を軽くかすった。これでしばらくは目が見えないはずだ。
次に向って来たやつが、がむしゃらに嘴で突いて来ようとするところを
彼はわずかに下へ飛んでかわし、すれ違いざまに今度は
上へ飛び、羽の付け根を嘴で突いた。
自由に羽を動かせなくなったそいつは落ちて行った。
さらに2羽を落としたところへ、
若鴉達がやってきた。
”俺たちも手伝いますよ!!”
”怪我をするから引っ込んでろ!”彼は言った。
”いえ。やらせて下さい!”
若鴉達は猛鴉の群れに向って行った。
”くそ!覚えてろよ!!”
使い古されたセリフを吐きながら逃げて行く猛鴉の群れを
若鴉達は笑った。
”お前たち。余計な事をするんじゃない!!”
彼は若鴉達に向って怒鳴った。
”だって、あんなにたくさんで卑怯じゃないですか”
”そう言うお前たちはどうなんだ?奴らの倍以上の数でかかって行って
卑怯じゃないのか?”
”す。。。すみませんでした”
”これからは2度とやるんじゃないぞ。やばくなったら俺だって
逃げるんだから、心配しなくていい”
彼は絶対に逃げないだろうという事を若鴉達は知っていた。
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