無題2-03


雲一つ無い晴れた空を彼は悠々と飛んでいた。


こんな日はどこまでも飛んで行きたくなる。


上へ上へと飛んで行った。


空気が薄くなって息苦しくなるまで飛んでそのまま急降下


何度となく繰り返し飛んでいた


空を自由に飛べる鳥に生まれてよかったと彼は思った。


一生を飛べずに過ごす人間達を憐れな奴らだと思った。


自分の力で自由に飛べる素晴らしさを知らない奴ら。


どんなに偉そうにしていたって奴らは飛べないのだ。



あまりに気分がいいので隣街まで足を伸ばしてみた。


たくさんの鳥が一箇所に群れて飛び回っていた。


何かただ事ではない様子だった。


鴉同士が争っていた。


どうやら、街のほとんどの鴉に囲まれている奴らがいる。


囲まれているのは若鴉達だった。


群れて隣街なんかを飛ぶからだ・・・と彼は思った。


助ける義理は彼には無かったが、かといって


見過ごせるほど薄情にもなりきれなかった。


彼は本能的に息子達がいる事を感じていたのかもしれない。


これだけの数を相手にする気は彼には無かった。


やれてもせいぜい半分までだろう。


仮にそこまでやって後は逃げられたとしても、


今度は隣町との全面的な争いになってしまう。


そんな事は避けたかった。


単なる小競り合いで済ませたかった。


彼は自分にできる限界の速度で群れの中へ突っ込んで行った。


あまりの勢いに隣街の鴉達は道を空けた。


当たればお互いにただでは済まない。


それほどの無茶な飛び方だった。


彼はもちろんそれだけの速度で飛んでいても相手を避ける自信はあったが。


若鴉達のところへたどり着いた。


”あ!助けに来てくれたんですね”


若鴉の一羽がほっとしたように言った。


”馬鹿野郎!!だから群れるなと言ってるんだ。

群れて隣街なんか飛んだらこうなるに決まってるだろう!”


”すみません。あんまり気持ちいい空だったんでつい。。。”


”しょうがない奴らだな。。。”


彼はあきれたが、そんな場合ではないと思い直した。


”いいか。俺が一番後ろを飛ぶから固まって飛べ。

奴らには構うんじゃないぞ。

向って来る奴にはぶつかっていくつもりで飛べ。

ぶつかりそうになったら直前で下によけろ。

一気に行くぞ”


”逃げるんですか?”


”逃げるとか、そういう問題じゃない!

死にたくなければ全力で飛べ。わかったな!”


”わかりました”


”わかったらさっさと行け!!”


若鴉達は自分の街へ向って飛んで行った。


後を飛びながら彼は若鴉達の様子を見ていた。


若鴉達は彼の言った通りに飛んでいた。


ぶつかる直前でよけろという彼の指示にも、


彼の思った以上にうまくやっていた。


そんな若鴉達を彼は頼もしく感じた。


一羽、また一羽と隣街の奴らの群れから抜け出していく。


だが、最初は突然の動きに戸惑っていた隣街の奴らも


こちらの意図に気付いたようだ。


10羽ほどが固まってまだ群れを抜け出せていない


残りの3羽へ向って来た。


こうなると下だろうが横だろうが避けようがない。


様子を見るために抑えて飛んでいた彼は速度を上げ、


残りの3羽に追いついて言った。


”俺の後ろで上に一羽、下に二羽並んで飛べ。俺がどんな飛び方をしても


隊形を崩すんじゃないぞ。しっかりついて来い”


言い終わるより前に彼はこちらへ向って来る10羽へ飛び込んで行った。


先頭の2羽を羽で目をかすり、一瞬で落とした。


次の奴の頭を蹴って飛び越え、3羽しかいない右へ旋回した。


本来なら羽の付け根を突いて落としたいところだが、


若鴉達がついて来れないかもしれないと思うとできなかった。


3羽が彼を避けてそれぞれに若鴉へ向って行った。


”しまった!”


助けに行くには間に合わない。


彼は右へ旋回した事が自分の失敗だと思った。


若鴉達がやられてしまうと思ったその時、若鴉達は


一瞬、下へ飛んだかと思うとすれ違いざまに上へ飛び


相手の羽の付け根を突いて落とした。


”お前達、いつの間に俺の技を。。。”


驚いて言う彼に


”いつも見てますからね。俺達にもできるかなと

思ってやってみたらできましたよ”


若鴉達は喜んだような顔で言った。


彼の技は見たからと言ってすぐにできるようなものではない。


彼らこそが彼の息子達だった。


そんなに簡単に真似ができるものではないと納得のいかない彼だったが


そんな場合ではなかった。


やっと群れを抜け出せたのだ。


”よし。行くぞ。全力で飛べよ”


先に群れを抜け出した若鴉達に追いつきそうな勢いで3羽は飛んで行った。


あいつらは一体。。。


3羽を追いながら彼は思った。



戻る