無題2-04



彼は、山へ向ってゆっくりと飛んでいた。


そろそろ山の食い物が食いたくなったのもあるが、


いろいろな事がここ最近短期間の間に起きた。


誰もいない場所で何にも邪魔されずにのんびりと考えたかった。


最近熱くなる傾向の自分の感情を元のように冷やそうと思っていた。


眼下の風景は次第に人家がまばらになっていった。


彼の向う山は、余程根性のある登山者でもなければ入って来れない。


奥深い山その山は彼は知らなかったが日本の屋根とも呼ばれる山脈の一端だった。


空から見れば、どこまでも果てしなく森が続いている。


一体この狭い島国のどこにこんな森があったのだろうと思うほどに


数100キロも森が続く場所だった。


もちろん、幅はそれほどには長くはなかったが。


彼は人間の全く入って来ない、全く無名の山の頂上にねぐらを持っていた。


この山にだって鴉はいたが、街の鴉のようにうるさい事は言わない。


山鴉達の領域はおそろしく広いのだ。


街鴉の彼がたまにやって来て息抜きをするくらい、気にもかけなかった。


彼は久しぶりの山の味を堪能した。


木の実や果実を、食ってまわった。


狩りをやった。


街のどぶねずみとは違って、薄汚れたごみや残飯を食っていない


小動物達の肉はうまかった。


ひとしきり食った後、ねぐらで彼は休んでいた。


彼は瑠璃鴉の事を考えていた。


これまでの彼は雌鴉の事など考えた事はなかった。


やりたい時に側にいる雌鴉はいつも彼の自由になった。


そんな彼の自由にならない雌鴉がいる。


それだけで、彼にとっては気になる雌鴉となっていた。


気がつくと瑠璃鴉の事をいつも考えていた。


他の雌鴉とやっているところを瑠璃鴉に見られたくないと思った。


彼はあれ以来他の雌鴉とやってはいなかった。


考える事に集中していたので、


彼はすぐそばに何かが来るまで気がつかなかった。


瑠璃鴉がそこにいた。


彼は内心の動揺を隠しながら言った。


”なんだ?どうしてお前がここにいるんだ?”


”どこに行くのかなあと思って。後つけてきちゃった♪”


”お前意外と体力あるんだな。俺に付いて来れるなんて”


”まあねー。それでなきゃあんたに付いてこうなんて思わないよ”


”俺にずっと付いて来る気はないか?”


彼はしまったと思った。


つい、口を滑らせてしまった。


この間あれほどはっきりと断られたのに。。。


”あたしだけを見てくれる気になった?”


瑠璃鴉のあのセリフは断る口実じゃなかったのか?


”ああ。もちろんお前だけを見るよ。これからは。

あれ以来、他の雌ともやってないだろ?俺。”


”そうね。信じてあげる”


彼は瑠璃鴉の中へ入れた。


姚鴉のようなけたたましい声は瑠璃鴉はあげなかった。


抑えようとしているが、たまらずに出てくるといった声で、


”くう。くう”とだけ啼いた。


大きな声ではなかったが、雑音など何もない山の中で、


その声はこだましていた。



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