無題2-07
一時の休息を彼等は取っていた。
特に彼は先日の猛鴉との戦いの傷がまだ癒えていなかった。
これ以上は飛ぶ事も難しい状態だった。
若鴉達にしても状況は似たり寄ったりだった。
彼ほどではないにせよ、このところ戦い続けてきた。
”この街はもうだめだ。お前達は仲間を連れて山へ行け”
彼は若鴉達に言った。
”街を捨てるんですか?”
”ああ。そうだ。瑠璃鴉が山の場所を知っている。あいつに聞け”
”あなたは行かないんですか?”
”俺か?俺は後から行くよ。疲れちまってしばらくは遠出できそうもない”
瑠璃鴉がやって来た。
”お前達は早く仲間を集めに行け!”
若鴉達は素直に従った。
”心配で来てみたのよ。大丈夫?”
”ああ。この通り”
と彼は飛んで見せようとしたがうまくいかなかった。
”全然大丈夫じゃないじゃない。こんなに疲れきってしまって。。。”
”まあ。なんとかなるさ。それより若鴉と他の仲間を山に連れて行って
やってくれ”
”山に?”
”ああ。この街はもうだめだ。山ならみんなの暮らす場所はいくらでもある”
”あなたはどうするの?”
”俺はしばらく休んでから後を追うよ。今はちょっと休みたい”
”そう。。。わかったわ”
”卵を置いていくなよ”
”知ってたの?”
”そりゃあ。知ってるさお前が卵を抱いてた事くらい。俺の子だよな?”
”当然じゃない!何言ってるのよ。あなた以外としてないわよ。”
”はは。。。大事に持って行ってくれよ
!!!!”
彼は突然、瑠璃鴉を突き飛ばすと飛び上がった。
同時に彼等の今いたところへ銃弾が飛んで来た。
”隠れてろ!!”
瑠璃鴉に言うと彼はビルの屋上のドアの側にいた人間に向って行った。
ドアを背にした人間の後ろをとる事はできないと知りながら。
向って行く彼に対して人間は銃を連射した。
2発、3発、4発。。。
彼は奇跡的ににも銃弾に当たらずに済んでいた。
あと二発だ。彼は思った。
先ほどの戦いで銃は6発しか撃てない事を彼は知っていた。
もう少しで人間のところへ着ける。。。
5発目をかわして彼が人間の喉を突いた時、
6発目の銃声が響いた。。。
正面から向っていけば、どんなに銃の下手な奴でも
この至近距離から外す事はなかった。
彼は後ろ向きに倒れる人間と共に地面に落ちた。
”いやあああああああ”
瑠璃鴉の絶叫が響いた。
瑠璃鴉は彼のところへ飛んでいった。
”いや・・いや・・死なないで”
彼の側で泣きつづける瑠璃鴉に彼は言った。
”山へ・・行くんだ・・・。お前は・・・生きろ。”
”あなたなしで生きれないわよおお”
”心配ない・・・俺の子供たちが・・・お前を守ってくれる・・。
ほら・・・来たよ。”
若鴉達が銃声を聞いて飛んで来た。
”お前達・・・俺の子供を・・・お前達の弟か妹を守ってくれ。瑠璃鴉と一緒に”
”知っていたんですか。お父さん”
”ああ・・わかるさ・・俺の子以外にあんな真似はできないよ。頼むぞ”
”わかりました。お父さん”
”いいもんだな。。お父さんってのも。。
瑠璃鴉。愛してたよ”
”過去形で言われたって嬉しくないわよお”
彼女はさらに泣いた。
”ごめんな。。そろそろ眠らせてくれ。。生きろよ。。瑠璃鴉”
”いやああああああ”
彼はそれきり口を開く事はなかった。
”さあ。瑠璃鴉さん。行きましょう。ここは危ないですよ”
”あんたたち、お父さんが死んだばかりなのによくそんな事が言えるわね!”
”お父さんの遺志です。俺たちは生きるんです。”
”そう。。。ね。。。卵を運ぶのを手伝ってくれる?”
”ええ。俺たちの最後の兄弟ですからね”
彼等は山へ向って飛び立って行った。
もう2度と人間の街へ彼等が来る事はないだろう。
彼等は人間を見捨てたのだ。
いつの日にか、全ての動物たちに人間が見捨てられる日が来るかもしれない。
自然の動物が全くいない街。。。
ぞっとしないか?
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