[これ以上荒れるとヤバイかも。荒海佐渡の寒クロじゃあ〜]

新潟日報
平成12年1月
 【寒のクロダイ釣り】

 大寒の前夜から久しぶり に雪が降り積もった。近年 は雪が積もる事が少なくな り、平地では昔のようにつ ららも雪かきをする姿もな かなか見る事が出来ず、ど こか寂しい気がする。海は 荒れ模様。海岸には季節風 が波を伴って吹き荒れ、磯 に波の花が見られる季節で ある。
 雪の中、磯や堤防で風を 避けて竿を出している人達 がいる。モノクロームの世 界の中、赤や黄色の防寒着 に身を包み、直立不動。じ っとアタリを待つ姿は、釣 りをしない人から見れば酔 狂な人間に映るに違いない。 狙いの魚はクロダイ。佐渡 で年中同じ魚を追いかける のはクロダイ釣り師くらい だろう。狙い方はウキを使 用するフカセ釣りが主流で、 針の付いた糸(ハリス)は 細く長い。警戒心の強いク ロダイを釣るのに適してい る釣り方であるが、細さゆ えに切られる事もある。繊 細かつ強力なのだ。寒のク [雪にクロダイ、ものすごく合う気がするのは僕だけかしらん?] ロダイ釣りは1日に1尾釣 れれば良く、釣れない日も 多い。時には5尾以上釣れ る日もあるが、これほど効 率の悪い釣りも珍しいだろ う。彼らにとってアジやサ ヨリ、ウミタナゴなどは餌 取りとして邪魔物扱いだ。 その昔、山形の庄内藩主が 武士達の心身鍛練のため奨 励した黒鯛釣り。海中を読 み取り、一尾を狙い澄ます その集中力、その純粋さは 250年を経た現代の黒鯛 師にも共通のものである。
 この季節の黒鯛は低水温 のため身が締まり脂が乗っ て美味しく、磯臭さも無い。 タイ科らしい白身は刺身、 洗い、湯引き等の他、塩焼 き、フライ、お茶漬けと色々 楽しめ、頭やアラの潮汁は 旨さに思わず声が出てしま う。
 白秋や芭蕉に詠まれた 「荒海」の佐渡。釣り人も 少なく思い存分勝負が出来 る黒鯛釣り。ギャラリーが 居ないと寂しいかもしれな いが、雪の中、銀色の野武 士を相手に竿を出せるのは 冬の佐渡ならではの楽しみ である。