Gallery――雨の画廊で


人の疎らな 最上階の画廊
ガラスの都会に 銀の雨
色とりどりの傘の花が
散って行くスクランブルクロス
信号の点滅(またたき)を見下ろしてる

懐かしいサインに 思わず足を止めた

時の流れは 残酷だと
絵の中の少女が すまし顔で笑ってる
瞳を伏せずに見つめかえす

秒刻みの忙しさに 全てを投げ出すのは
莫迦げたことだと あなたは言うわ
瞬間の輝きに 何かを見つけたい
ただ過去を 懐かしむだけでなく
過ぎてゆく今を 大切にしたい

もう逢えない画家が 愛したものが
壁に掛かったキャンバスに
閉じ込めきれずに 呼びかけてくる
ただ無口に 微笑んでいる

都会での生活は 心までも枯れてゆくと
久しぶりにあった 幼友達が呟く
思い出話は嫌いじゃないけれど
失くしたものたちを 捜したくない
今の自分を 大切にしたい

忙しさを言い訳にして
辛い恋を重ねた

忘れたい想いだけ
傷になって痛む
去って行くものを
引き止められずに
砂粒のように
手からすりぬけてゆく
嫌いになれたら
楽になれるの?

ギャラリーの誰かが
私に気づいて
不思議顔をしても
絵の中の私に
大丈夫と笑える
空の彼方の あなたに微笑む
もう逢えない あなたに微笑む


98'5