初歩の初歩
〜セットアップ・前編〜

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今のような二胡ブームになる前は、日本では二胡を扱うお店も二胡を教える教室も限られており、初心者は自分の二胡を専門店で店頭購入するか、自分の教室で先生にあつらえてもらうのが主流でした。
専門家からの直接購入だったわけですから、購入の際に新しい弓の下ろし方やお手入れなど、簡単なアドバイスを受けることができたのです。

現在は、ブームのおかげで二胡を欲しがる独学初心者が増え、そのため専門店以外でも二胡を扱うお店が増えました。また専門店でも通信販売で売買するケースが多くなりました。
より気軽に二胡を購入できるようになったわけですが、でもその反面、専門家から二胡の取り扱いに関する手ほどきを受けないまま、いきなり二胡を手にする人が激増したように思います。
私のところにも、「通販で届いた二胡の梱包を開けたはいいが、次にどうしていいか分からない」という初心者さんからの相談がちらほら届くようになりました。

そこで、近くに教室も専門店もなく、やむなく一般店や通販での購入を検討している初心者さん向けの、二胡の取り扱い超初心者ステップをまとめてみたいと思います。
ただしかなり私見も交えていますので、一つの参考例としてお読みください。

<注意>
将来的に教室入門を考えている人は、まずは入門し、先生に購入の相談をしてください。専門家に直接相談するのが一番確実なのは言うまでもありません。





二胡選び



【初心者向け価格帯?】

「初心者ですが、どれくらいの価格帯を買えばいいのか教えてください」という相談が非常に多いです。
でもこれは、一番回答しにくい質問でもあります。
理由はいくつかありますが、一番の理由は、二胡はほとんどが中国からの輸入品であり、同じ材料・同じ品質でも輸入時期・輸入ルートによって価格が激しく変動するため、○○円程度なら初心者向け、とは一概に言えないからです。
言い換えれば、○○円の二胡と言っても、どのルートで購入したか、どの店でいつ買ったのかによって、品質に大きな差があるということです。

日本のお店で二胡を買う場合、お店による価格差に驚くことがあります。
悲しいことにぼったくるお店もありますけど、でも良心的なお店の中にも比較的高い価格で販売しているところもあります。それは優良製作工房と特約契約を結んでいたり、購入後のアフターケアに力を入れていたりするからです。
結局のところ、日本において二胡には相場は有って無きようなもの。敢えて言うなら、試し弾きして音色と弾き心地を体感し、この二胡ならこの金額を払っても惜しくない、と自分が思える価格が相場ということになります。
初心者はこの見極めが非常に難しく、ましてや通販だと音色や弾き心地の確認もできないわけで、身近に相談者がいない場合は財布と相談しながらある程度のラインで割り切るしかありません。



【初心者向けランク?】

上と似たような相談で、「初心者ですが、どれくらいの品質のものを買えばいいのか教えてください」というのがあります。
これも回答しにくい質問です。なぜなら質問者の二胡に対する熱意、というか取り組み方が、私には分からないからです。初心者といっても人それぞれですから。
私の場合、「過去に楽器経験がある」「二胡に対する並々ならぬ執着がある」という人には少し値の張る上のランクのものを、「ちょっと経験してみたい」「続くかどうか分からない」という好奇心先行型の人には人工蛇皮も含めた低価格帯のものをお薦めしていますが。

「少し値の張る上のランク」とは具体的には、
・音色がいい(当然ですが)
・本蛇皮(うろこが大きく整ったもの)
・木製部分が塗装(ニス)仕上げでないもの
  (高級木材なら通常塗装不要。ただし南方高級二胡に多い
   スンチー塗り(春慶塗)と呼ばれる透明の漆塗りはのぞく。)

です。
これ以外の判断部分ももちろんありますが。
でも、産地や木材の種類、金属製弦軸や装飾(竜頭や彫り物)などは、ランクというより好みの問題が大きいです。
自分の好みの音色で自分が弾きやすいものが一番です。

通販で買う場合、音色が聞けないのは当然のこと、その他にも事前に細かい確認ができないため、高いお金を出しても自分の好みに合わなかったという場合もあります。
一般店も、店員が詳しくないため、質問しても答えてくれないことがあります。
こういう冒険をしたくないなら低価格帯のものにしておいた方が無難でしょう。塗装仕上げであっても初心者のうちは当面は困りません。
むしろ1本目の二胡は低価格のものにしておき、二胡の取り扱いに慣れ、自分の好みの音色・好みの素材がはっきりし、いろんなお店をリサーチして自分なりの目利きができるようになってから、自分の理想に近い上級二胡にランクアップするほうが、失敗も少ないのではないでしょうか。





最低限必要なもの


日本国内の店で新品を購入する場合、必要なものはとりあえず全部セットになっていると思います。
しかし、中古品や個人売買の場合必要付属品が欠けていたり、中国での購入は小物類が別売になってたりしますので、注意が必要です。

注文する前に「二胡の用具」のページを見て、二胡関係の用具についてまずは勉強してください。
「二胡本体」「必要消耗品」に属するものだけで構いません。

二胡関係の用具は、「二胡本体」「必要消耗品」「便利グッズ」の3種類に分類できます。
最初から絶対に必要なものは「二胡本体」「必要消耗品」に属するものです。
具体的には下の7点です。これがなければ音が出ません。(=楽器として成り立ちません。)

1.二胡本体 2.弦 3.千斤 
4.琴馬 5.控制綿 6.弓 7.松脂

この中で、2〜7は「必要消耗品」です。
松脂以外の必要消耗品は二胡にすでに取り付けられている場合が多いのですが、取り付けられていない場合は、セットの中に含まれているか必ず確認してください。別売だったら一緒に購入するか、二胡が手元に届いて実際に弾いてみるまでに必ず買い揃えてください。
上の7点以外のもの(「便利グッズ」に属するもの)は、必要に応じて買い足せばいいでしょう。





購入したら


家に二胡が届き、初めて梱包を開けるときは、とってもどきどきわくわくすることと思います。
でもまずは落ち着いて。


<箱を開ける前に知っておきたいこと>

【1】 弓に張ってある毛を素手で触ってはいけない。
1本2本とか、軽く触れる程度ならいいのですが、日常的に毛束を鷲掴みにするのは絶対に止めて下さい。
弓毛に汗や皮脂がつくと、その部分に松脂の粉がつかなくなって、弦を擦っても摩擦が起こらず音が出なくなります。ひどい場合は弓毛を洗濯して、汚れを一度落としてやらなければなりません。
そうなってしまうと初心者には非常にやっかいですので、とにかく弓毛を素手では触らない、弓毛に油分をつけてはいけないということを、最初に肝に銘じておいて下さい。

【2】 千斤も二胡の構成部品である。
初心者が箱を開けたときに起こる一番多いトラブルは、紐千斤を梱包用のひもと勘違いして切ってしまうことです。
千斤も二胡の大切な構成部品です。「やっちゃった〜」とあとで慌てることがないよう、千斤について先に理解を深めておきましょう。

【3】 琴杆の先を持ってはいけない。
琴杆(棹)の先とは、二胡の頭の湾曲している部分です(写真右)。竜頭などの飾り彫りがある二胡もあります。
この部分は接着剤で他の木材を継いでいる部分であり、二胡本体の中で一番強度が弱いところです。軽い振動だけでもぽろっと取れてしまうことがあります。
以上のことから、二胡を持ち上げたり支えたりするときには、頭の部分は絶対に持たないでください。
頭を持って二胡を持ち上げたり持ち歩いたりすると、接着部分から下が落下して二胡が壊れてしまうことがあります。
(二胡の頭は装飾であり、音色には全く関係ない部分です。演奏中やケースに収納する際にぽろっと取れてしまっても、木工ボンドでくっつければOK。)

【4】 弓毛は弦と弦の間に挟まっているものである。
二胡のことをまだよく知らない初心者の中には、弓毛が弦と弦との間に挟まっているのを見てびっくりし、あわてて弓を弦から外そうとする人もいるようです。
無理に弓を外そうとして、弓を根元から分解し、壊してしまったケースもありました。
どうしても二胡本体から弓を外したい場合は、このページの後半部分 【弓の装着】 の項をご覧ください。

【5】 松脂は固まっているものである。
「松脂を塗る」という慣用句から、松脂は液状または粉状のものを想像している初心者が意外に多いようです。
中には、かたい松脂をなんとか溶かそうと、火にあぶったり砕いたりしている初心者さんもいるようです。
ですが、後編 【松脂を塗る】 の項で松脂の塗り方を載せていますので、まずはそちらをご覧ください。
(新品の弓毛をおろす方法の一つに細かく砕いた松脂をまぶす方法もありますが、一般的ではありません。)


いよいよ箱を開けたら、最初に前項7点の品が揃っていることを確認して下さい。
そして、弦、千斤、琴馬、弓、控制綿が二胡本体にすでに取り付けられているか確認しましょう。





付属品の装着


もし二胡本体に弦、千斤、琴馬、弓、控制綿が装着されていなかったら、自分で取り付けるしかありません。がんばりましょう。
このあたりに関しては、『賈鵬芳の二胡教本 入門から極意まで』(「日本語教材・楽譜」のページ参照)が、03/07現在一般市販されている教本の中で一番分かりやすく解説しています。
身近に相談できる専門家がなく、今後は独学で練習していくつもりの人は、この手の教材を何種類か購入し、読み比べて研究することをぜひともお薦めします。



【弦の装着】
機械式弦軸(調弦用のネジが仕込んである金属製弦軸)の弦の張り方は私は知りません。機械式弦軸の人は、上記『賈鵬芳の二胡教本 入門から極意まで』に詳しい弦の張り方が載っていますのでこれを参照して下さい。
以下、木製弦軸の場合の弦の張り方です。

左が内弦用
右が外弦用

琴托の裏側にピンが立っているので(写真右)、このピンに弦の輪を引っ掛けます。
そして、内弦は上の弦軸に、外弦は下の弦軸の穴にもう一方の弦の先を差し込み、弦軸を巻き上げてください。
先に少し弦軸を巻き上げておき、途中で琴托のピンに弦の輪を引っ掛けると、やりやすいです。

弦軸はそれぞれ巻き上げる方向が決まっているので、下の写真を参考に間違えないようにしてください。
また、弦の先が弦軸の穴から飛び出ると危ないので、先端を穴の中に入れたまま巻き込みましょう。
弦軸上に巻かれていく弦の幅が広がらないように、一巻き一巻き横に揃えながら丁寧に巻き上げていきましょう。
調弦は後で行うので、弦軸が緩んでこない程度に適当に巻き上げればOKです。ただし真新しい弦はすぐにほどけやすいので気をつけて。
なお、弦の巻き上げ方には何通りかの方法があり、これは一般的な巻き方の一例に過ぎません。身近に専門家がいる場合は専門家に教わってください。
ちなみに私は二通り習いましたが、もう一方は忘れてしまいました。


 内弦軸

 外弦軸




【千斤の装着】
すいません、私は自分で千斤を巻いたことがないため、紐千斤の巻き方が分かりません。教本等で研究してください。(これも何通りか方法があると聞きました。でも聞くところによると結構適当でも大丈夫みたいです。)
日本人向け教本の中では、『巫 謝慧(ウェイウェイ・ウー)の二胡をはじめよう』が、04/11現在一番詳しく解説していると思います。(「日本語教材・楽譜」のページ参照)

右の写真は私の二胡の千斤です。
まず琴杆に3回巻き、次に弦と琴杆を交互に巻き、最後にまた琴杆に3回巻いて終了、と一見見えます。でも糸の流れを見るともうちょっと複雑みたい。
一番上と一番下、そして中央は、糸を弦に引っかけたあと、今度は琴杆に逆向きに巻かれています。特に一番下の2回は、内弦と外弦1本ずつに糸が引っかけられています(写真右下。分かりやすいように糸を少しずらして撮影。)
最終的には弦に8回巻かれていますが、複雑な巻き方はたぶん、演奏中激しい揉弦をかけても糸がずれないようにという配慮なのではないでしょうか。

紐千斤以外に、金属千斤や樹脂千斤がありますが、これらは形状によって取り付け方が違うので、発売元に問い合わせてください。

なお、紐千斤は装着後も簡単に動かせますが、金属(樹脂)千斤は形状によってはなかなか動かすことが出来ません。つまり金属(樹脂)千斤の場合は、装着時に自分の体格に合う位置にただしく取り付けないとならないということです。
初心者には装着位置の見極めは難しく、また初心者は今後の訓練次第で左手の指間隔が広がってきますので、千斤の位置も変わってきます。ですので最初は、紐千斤か、金属(樹脂)千斤の中でも装着の簡単なものにしておいた方が無難だと思います。



【琴馬の装着】

黒いのが琴馬 
白いのが控制綿
弦をぐいっと指で持ち上げ、蛇皮の中央に琴馬を置き、そして琴馬の溝の上に弦をおいてやりましょう。
弦が固くてなかなか琴馬が差し込めない場合は、少し弦をゆるめてやればいいでしょう。
最初は蛇皮が破れそうで怖いと思いますが、蛇皮はかなり強く、慣れると平気です。
ただし無理矢理差し込んでウロコを痛めないように。



【弓の装着】
二胡は、弓の毛を2本の弦の間に挟み込んで、内弦と外弦を別々にこすって音を出す楽器です。
もし弓が二胡本体から外されていれば、自分で装着しましょう。
弓の付け根の金具がネジになっているので、ここを回せば弓の竹棹から弓毛が外れます。(写真左)
弦と弦の間を指でぐいっと広げ、そこに弓毛を通し(写真中央)、再び弓毛を弓の竹棹にはめて、金具のネジを締めます。
ネジを締め付けると弓毛が張ってきますので、お好みの張り具合でネジを止めてください。

なお、北京製の弓の場合、ネジを緩めなくても、竹棹を曲げれば竹棹の付け根のフックから弓毛が簡単に外せます。慣れるととっても簡単です。(写真右)
フックに再度弓毛を取り付けるときは、毛の流れに注意して、弓毛をねじらないように装着しましょう。




【控制綿の装着】
なくても二胡は演奏できるのですが、雑音を低減するためにあったほうがいい小物です。
最初からセットの中に入っていることが多いですが、入ってなければ手近にある厚手の布(コートの切れ端やフェルト)かゴム製スポンジで代用します。
装着方法は琴馬と同じく、弦をぐいっと指で持ち上げて、琴馬の下に差し込んでください。
弦が固い場合は少し弦をゆるめてから差し込んでください。
写真は上記 【琴馬の装着】 の項を見て下さい。



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