初歩の初歩
〜セットアップ・後編〜

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<注意>
将来的に教室入門を考えている人は、まずは入門し、先生に直接相談してください。専門家のアドバイスにしたがうのが一番確実なのは言うまでもありません。





松脂を塗る


二胡は弓毛が弦をこすって音を出す楽器ですが、このとき毛と弦の間に摩擦を作り音を鳴らす役割を果たすのが松脂です。
新品の二胡を購入した初心者が「音が出ない」という原因のほとんどは、松脂の塗りが足りないせいです。

「松脂を塗る」とは、一般的には松脂のかたまりを弓毛にこすりつけることを言います。弓毛全体の表面・裏面を、松脂のかたまりでごしごしこすります。(写真右)
松脂を毛にこすりつけると、松脂の表面が粉状になって、(目にははっきり見えませんが)弓毛の1本1本にその粉が絡まっていきます。これが「松脂が塗れた」状態です。
松脂も新品の場合、サンドペーパーやカッターナイフで乾燥した表面を少し削り、ざらざらにしてやると、塗りやすくなります。

真新しい弓は弓毛に松脂が馴染んでおらず、かなり力を入れてこすり付けないと、なかなか毛に絡んでくれません。また、絡んでもすぐに落ちやすいです。
ですので、最初だけはしつこいくらい時間をかけ、力を入れてごしごし松脂を塗ってください。弓毛の端からちょっとずつ、ごしごしごしごし、弓毛の表面裏面両方塗りつけて下さい。最初は塗り終えるのに片面5〜10分くらいかけるつもりで。
力を入れにくければ、弓を二胡本体から外してもいいでしょう。外し方は、前編 【弓の装着】 の項を参照してください。

塗り終えた後、弓全体で弦を弾き込んでいけば、次第に弓毛全体に松脂が馴染み、余分な粉は落ちていきます。
2度目以降は軽く塗れば大丈夫です。





調弦(チューニング)


音が出るようになれば、いよいよ調弦です。
演奏と同じ姿勢で二胡を構え、弓で弦をこすり、耳で音の変化を確認しながら、左手で弦軸を回して調弦します。
最初に外弦をA音に合わせ、次に内弦を五度低いD音に合わせます。何回か外弦内弦交互に音を確認し、その都度微調整。音程が安定すれば終了。
調弦後、弦を上から下まで軽く手で揉んでやると、弦の張りが均一になって音が安定しやすくなります。ただし力を入れて揉むと音が狂ってしまうので気を付けて。揉んだ後は再度調音を確認して下さい。

電子チューナー

真新しい二胡は、弦軸が琴杆の穴と馴染んでおらず、弦も張力に慣れておらず、調弦が狂いやすいです。毎回念入りに調弦して下さい。
音叉、調子笛、チューナーなどの調音器で、正確に調弦しましょう。
耳だけで判断するのは難しい初心者は、ランプや針の揺れなど目で見て確認できる電子チューナーが便利です。電子チューナーはだいたい440〜442Hz付近に合わせますが、これは自分の好みと自分の演奏状況によって変わります。
調音器がなければピアノ等手近な楽器の音に合わせても構いません。調音器が見あたらないとき私は、パソコンの作曲支援ソフトでD音とA音を再生させ、それに合わせています。





千斤位置の調整


千斤の位置を低くすると弦上の音階の幅(指間隔)が狭まり、千斤の位置を高くすると弦上の音階の幅(指間隔)が広がります。自分の手の大きさや指の長さに合うよう調節しないといけません。
(逆に言えば、二胡は手の小さな人や子どもでも弾ける楽器ということです。)
指の短い人・手の小さい人は千斤の位置を低く、指の長い人・手の大きい人は千斤の位置を高くしてやりましょう。

千斤の位置決めも何通りか方法があるようですが、一般的には

「左手のひじを琴筒の上に置き、千斤に向かって左手前腕をまっすぐ立てる。」

この状態で、小指の付け根の関節か、その上の関節あたりに千斤をおくとよいと言われています。(写真右)
でもこれはあくまで目安の一つであって、最終的には個々人の指の状態を見て決めるべきことです。
最初のうちは指の関節が開きにくいので千斤を低めにしておき(D調内弦でドレミファソと弾き、小指がソの音を正しく出せる位置)、二胡に慣れて指が動きやすくなったら少しずつ千斤を上げて下さい。

千斤が低いままだと(指間隔が狭いままだと)、指位置が少しずれただけで音階が大きくずれてしまうため、安定した音階での演奏が難しくなります。
また、高把位になるほど指間隔が狭まり、隣り合う音階だと指位置が重なってしまうため、将来的に高音の曲が非常に弾きにくくなります。
二胡に慣れたら、必ず千斤を少しずつ上げていき、指間隔を広げる訓練に入ってください。
千斤を上げると最初は小指が届きにくいですが、えいっえいっと小指を伸ばすうちにだんだん届くようになりますよ。

なお、千斤を動かすと、調弦も狂います。千斤を動かした場合は、必ずもう一度調弦し直すこと。





練習開始


以上のことがすべて終了すれば、二胡は演奏OKの状態になっているはずです。
では張り切って練習して下さい!





練習後(保管)


演奏後は二胡に松脂の粉が付着していますので、琴杆や琴筒を中心に柔らかい布で軽く拭き取って下さい。
弦は、弓が擦れる部分を中心に松脂が、千斤付近に汗や皮脂が付着しており、これが錆の原因となります。琴馬から千斤まで柔らかい布で念入りに拭き取って下さい。

週に何回か練習するのであれば、弦は緩めず、弦の圧力から蛇皮を守るために琴馬の上に長琴馬を差し込みます。(写真右上)
長琴馬は鉛筆を蛇皮幅に切れば簡単に作れますが、大きな琴馬(背の高いもの)だと、鉛筆では細すぎて高さが足りないこともあります。その場合は鉛筆の両端にテープなどを巻き、高さ調整してください。
手近に鉛筆がない場合や、何ヶ月も演奏予定がないのなら、琴馬を蛇皮の端にずらすか(写真右下)、弦を少し緩めておいてやるといいでしょう。

片づけるときは、弓毛の松脂が弦に付着しないように弓と弦の間に薄いハンカチなどを挟み込みんでから弓を弦軸に引っかけ(写真下)、ケースに入れて保管します。
長期間弾く予定がないのなら、弓毛の張りをゆるめる(持ち手側の金具をゆるめる)か、二胡から弓を外してやるといいでしょう。

布で弓と琴杆を巻いて
やればさらに丁寧
 


蛇皮は湿気・乾燥に弱いので、部屋に出しっぱなしにはせず、必ずケースに入れて保管して下さい。中国とは気候の違う日本では、環境による影響が大きいのです。
ケースには、取っ手側(ファスナーや金具でふたをする側)に蛇皮が来るように収納して下さい。つまり、持ち運ぶ際に蛇皮が上に来るように収納します。
こうすると蛇皮を痛める心配が少なくなります。

ケースに入れた後でも、直射日光の当たるところ、高温高湿なところには放置しないで下さい。
特に、車の中に置きっぱなし、は厳禁です。
大事な二胡なら大事に扱いましょう。





二胡に慣れたら


自分の二胡を調整するため、練習環境や生活環境に合わせてより快適な二胡ライフを送るため、必要消耗品を交換したり、必要に応じて便利グッズを揃えていきましょう。
二胡の用具に関して詳しくは「二胡の用具」のページを、日本語教材に関しては「日本語教材・楽譜」のページをご覧下さい。





で、ですね、


以上のことはすべて、私が習ったことや読んだこと、調べたことに基づいて書いています。
でも、ここに書いたことはあくまで「一般的な方法のうちのひとつ」に過ぎず、これ以外にもいろんなやり方、いろんな考え方があるはずです。
ですので、みなさんもどうぞいろいろ自分で調査し、研究してください。
ここに書いてあること以外の方法をご存知なら、ぜひ掲示板で教えて下さい。

実のところ、私ごとき未熟者がこのような教本まがいのページを作ることには、かなりの葛藤がありました。
このページが参考になったという人がおられましたら、参考になったよーというメッセージを下されば幸いです。


*   *   *


公開数日後


「初歩の初歩」ページに関して反響ありがとうございます。m(_ _)m
なかなかケータイのカメラも使えるものですね。(ハンカチ写真は30万画素デジカメですけど。)

私はもともと、なにか分からないことがあれば掲示板で質問してほしいという主義だったので、こういうふうに別ページでノウハウをまとめてしまうことには消極的でした。
掲示板で誰かが質問するとそれに関連する話題で板が活性化するし、それに初心者の質問というのは上級生にとっても案外勉強になるからです。(知っているようで改めて問われると実はあやふやな知識だったことに気づいたり、他にもいろんな方法があることを他人の書き込みで知ったり。)
また、素朴な初心者の質問というのは、上級生に自分の初心者だったころを思い出させ、新鮮な気持ちにさせます。

でも、こういう初心者質問が繰り返されるのをうっとうしく思うベテラン愛好者がいるのも事実。
また、初心者の中にも初歩的過ぎて聞くのが恥ずかしいと思ったり、先走って手遅れ(紐千斤を切る、弓毛を素手で触る、松脂を溶す・砕く、弓を分解してしまう等)になってしまう人がいるのも事実。
双方にとってより良い状態を作るためには、せめて二胡のセットアップ解説ページぐらいはあった方がいいのかと、いつしか思い始めました。

が、掲示板やメールにアドバイスを書き込むのと、こうやって別ページでノウハウをまとめるのとでは、いろいろ事情が変わってきます。
掲示板やメールはその時の一意見として読み流してもらえますが、一つのコーナーとしてまとめてしまうと、それを「教本」として、或いは「絶対的なもの」として受け取られてしまうおそれがあるからです。
だから掲示板やメールでは気軽に書けたことも、このようなまとめページでは慎重にならざるを得ないし、だいたいベテランやプロであるならまだしも、私のような一練習生がこんなページを作ちゃっていいものだろうか、と。

とまぁしばらく葛藤があったりしたのですが、先日購入したカメラ付ケータイでぱしゃぱしゃ二胡を撮影しているうちに、なんとなくページが出来上がってしまったのでした。

そういうわけで、意見・批評・希望等いろいろありましょうが、せっかく作ったページなので、どなたかの参考になれば幸いです。



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