これまで、”ライブスチームにおいて、どんな水を使うと良いのか?”、ほとんど考えたことがありませんでした。
が、2級ボイラー技士の免許取得を目指して勉強したこと(791. ”2級ボイラー技士”について (R6.4.21掲載) 参照)
をきっかけに、関心を持つにいたりました。
そこで、今回はボイラーに適した水について、考えてみたいと思います。 ボイラー水の中には、溶存気体と全蒸発残留物(溶解性蒸発残留物と懸濁物)といった不純物が含まれています。 ・溶存気体である、酸素や二酸化炭素は鋼材の腐食になる。 ・溶解性蒸発残留物である、カルシウムやマグネシウムの化合物などは、ボイラー水の蒸発に伴い、 濃縮され、スケール(カルシウムやマグネシウムの化合物などが、管壁や伝熱面に付着したもの)やスラッジ(固着せずに底部に沈積する軟質の沈殿物)となり、 伝熱面の腐食や伝熱管の過熱やボイラーに連結する管やコックなどを詰まらせる。 ・懸濁物である、泥や砂や有機微生物などは、キャリオーバ(ボイラー水面から水滴が蒸気と共に運び出される現象)の原因となる。 これらのことから、水に含まれている、不純物の除去や不純物の濃度を下げる必要があるのです。 ボイラーには、不純物の無い、100%H2Oの水が良いようですが、自然界には存在していないので、 人工的にそれに近づけようということです。 アスターホビー製 V&T 4−4−0
![]() ・スイス製のライブスチームの説明書では、機関車を長持ちさせるには、蒸留水の使用を勧めていること。 ・ゴミや鉄さびなどをボイラーに入れないようにしたい。その意味で、蒸留水のことを記していること(著者は蒸留水の大ビンを取り寄せているとのこと)。 ・英国のライブスチームの教科書では、硬水はなるべく避けたい。 雨のよく降る地方では、雨水が使うのもよい、と記されていること。 また、渡辺さまの著書「ライブスチーム 模型機関車の設計と製作」においても、記述があります。 ・実物のボイラーの本では、水処理などについて、詳しい記述があること。 ・模型では、1日の運転が終了すれば、ボイラーの水を抜いて空にするので、溶解物質の沈積は極めて少ないこと。 ・天然水では雨水が最も純粋で、運転場に雨水を集める装置があればよいが、埃の混入防止方法、ろ過器の設置も必要であること。 一方、模型の世界ではなく、一般のボイラーにおいては、ボイラーの水管理はシビアなようで、その目的は、次の通りのようです。 ・ボイラー内部のスケールの生成と付着を抑制すること。 ・ボイラーや関連機器の腐食の発生を防止すること。 ・アルカリによる障害を防止すること(水酸化ナトリウムなどの濃度が高いと、 高温下でアルカリ腐食が生じる)。 ・キャリオーバを防止すること。 そのため、水質標準を設定し、設定した水質標準を達成するため、水処理を行っているようで、 具体的には、補給水処理(ボイラーに給水する前に除去する方法)として、懸濁物の除去や溶解性蒸発残留物の除去を行い、 また、ボイラー系統内処理として、溶存気体(酸素や二酸化炭素など)の除去(脱気)や清缶剤の添加やボイラー水の吹出し(ブロー)などを行うようです。 実機の蒸気機関車においても、清缶剤の添加などの対策がとられていたようです。 @1日の運転が終了しても水を抜くことのない、一般のボイラーや実機の蒸気機関車においては、 ボイラー水の蒸発により、不純物が濃縮され、さまざまな障害をもたらすようですが、 模型の世界においては、渡辺さまが記されたように一般的に、運転の都度、ボイラーに水を入れ、その日の運転が終了すれば、 ボイラーの水を全部抜いていること。 A一般のボイラーにおいては、常用使用圧力が高圧(概ね2MPa超え)の場合、陽イオンだけではなく、 陰イオンも除去した、”イオン交換水”を使用しますが、 模型の場合は、常用使用圧力が低圧(1.0MPa未満)であること。 これらのことから、一般のボイラーと同様な対策(水処理)をとるにこしたことはないのかもしれませんが、 原水(水道水など)のまま使うことは避けることとし、 ”蒸留水”を使うか、 軟化装置でイオン交換処理(陽イオンのみ除去し、陰イオンは除去していない)した水(”軟化水”)を使えば良いのではないか、と思います。 ![]() ![]() この軟化装置には、
電気伝導率計(水質計)(一つ前の画像の→)が付いています。 ![]() ちなみに、軟化装置で、陽イオンのみ除去した水は”軟化水”で、 イオン交換処理(脱塩)で、陽イオンだけではなく、陰イオンも除去した水は”イオン交換水”です。 不純物をほとんど含まない純度の高い水は”純水”と言われており、 電気伝導率が、0.01〜0.1mS/m(0.1〜1μS/cm)ぐらいのようですので、 電気伝導率1mS/m(10μS/cm)は”純水”と言えるか、微妙なところかと思います。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() こちらは、自宅のキッチンで、水道水をテストした結果です。
やはり、硬水です。 ![]() こちら(□内)は、OS法隆寺レイアウトで使用していた軟化装置です(令和6年1月27日(土)撮影)。
”ロコ用整水器”と書かれていました。 ![]() ![]() 上部に付いている、電気伝導率計です。
ORGANO(オルガノ)製のようです。 ![]() ![]() ![]() ![]()
以前、OSさまが、”洗車用の純水器もボイラーに使える”とおっしゃっていました。 ![]() 硬度リークテスト
![]() ![]() ![]() 軟化装置の強酸性陽イオン交換樹脂は、 使用するにつれ、次第に表面が鉄分で汚染され、交換能力が減退するので、一般のボイラーでは、1年に1回程度、洗浄・交換を行うようです。 模型の世界では、一般のボイラーと比べて、使用頻度が少ないと思われますので、 硬度指示薬で硬度リークテストを行い、 リークとなったら交換するか、あるいは、電気伝導率計で測定し、 その値が高くなったら(限度は、0.2〜1mS/m程度が目安かと思います)交換する、といった運用で良いかなと思います。 ![]() ![]() 愛機の快適な走行を長く続けられるよう、ボイラー水の扱いにも注意を払うといいと思います。 参考文献(敬称略、順不同) 鉄道模型趣味 1977年4月号.株式会社機芸出版社,1977. 渡辺 精一.ライブスチーム 模型機関車の設計と製作.株式会社誠文堂新光社,1982. 平岡 幸三.ライブスチームのシェイを作ろう.株式会社機芸出版社,2004. ボイラー実技テキスト.一般社団法人 日本ボイラ協会,2020. ボイラーの水管理 小型貫流・中級ボイラーユーザーのための水管理.一般社団法人 日本ボイラ協会,2015. 小谷松信一・酒井幸夫.ラクラクわかる! 一級ボイラー技士試験 集中ゼミ(改訂2版).株式会社オーム社,2019. コンデックス情報研究所.いちばんわかりやすい! 2級ボイラー技師 合格テキスト.成美堂出版,2021. |