ライブスチームの運転


928. ボイラーに適した水  (R7.8.20掲載)

 これまで、”ライブスチームにおいて、どんな水を使うと良いのか?”、ほとんど考えたことがありませんでした。 が、2級ボイラー技士の免許取得を目指して勉強したこと(791. ”2級ボイラー技士”について (R6.4.21掲載) 参照) をきっかけに、関心を持つにいたりました。 そこで、今回はボイラーに適した水について、考えてみたいと思います。

 ボイラー水の中には、溶存気体全蒸発残留物(溶解性蒸発残留物と懸濁物)といった不純物が含まれています。

 ・溶存気体である、酸素や二酸化炭素は鋼材の腐食になる
 ・溶解性蒸発残留物である、カルシウムやマグネシウムの化合物などは、ボイラー水の蒸発に伴い、 濃縮され、スケール(カルシウムやマグネシウムの化合物などが、管壁や伝熱面に付着したもの)スラッジ(固着せずに底部に沈積する軟質の沈殿物)となり、 伝熱面の腐食伝熱管の過熱ボイラーに連結する管やコックなどを詰まらせる
 ・懸濁物である、泥や砂や有機微生物などは、キャリオーバ(ボイラー水面から水滴が蒸気と共に運び出される現象)の原因となる

これらのことから、水に含まれている、不純物の除去や不純物の濃度を下げる必要があるのです。 ボイラーには、不純物の無い、100%H2Oの水が良いようですが、自然界には存在していないので、 人工的にそれに近づけようということです。

アスターホビー製 V&T 4−4−0
 「鉄道模型趣味1977年4月号」に掲載されている、 45mmゲージのアルコール焚き蒸気機関車 V&T NO.11 ”RENO” の組立記のなかで、 ボイラーの水に関しての記述があります。
 ・スイス製のライブスチームの説明書では、機関車を長持ちさせるには、蒸留水の使用を勧めていること。
 ・ゴミや鉄さびなどをボイラーに入れないようにしたい。その意味で、蒸留水のことを記していること(著者は蒸留水の大ビンを取り寄せているとのこと)。
 ・英国のライブスチームの教科書では、硬水はなるべく避けたい。 雨のよく降る地方では、雨水が使うのもよい、と記されていること。

また、渡辺さまの著書「ライブスチーム 模型機関車の設計と製作」においても、記述があります。
 ・実物のボイラーの本では、水処理などについて、詳しい記述があること。
 ・模型では、1日の運転が終了すれば、ボイラーの水を抜いて空にするので、溶解物質の沈積は極めて少ないこと。
 ・天然水では雨水が最も純粋で、運転場に雨水を集める装置があればよいが、埃の混入防止方法、ろ過器の設置も必要であること。

一方、模型の世界ではなく、一般のボイラーにおいては、ボイラーの水管理はシビアなようで、その目的は、次の通りのようです。
 ・ボイラー内部のスケールの生成と付着を抑制すること。
 ・ボイラーや関連機器の腐食の発生を防止すること。
 ・アルカリによる障害を防止すること(水酸化ナトリウムなどの濃度が高いと、 高温下でアルカリ腐食が生じる)。
 ・キャリオーバを防止すること。
 そのため、水質標準を設定し、設定した水質標準を達成するため、水処理を行っているようで、 具体的には、補給水処理(ボイラーに給水する前に除去する方法)として、懸濁物の除去や溶解性蒸発残留物の除去を行い、 また、ボイラー系統内処理として、溶存気体(酸素や二酸化炭素など)の除去(脱気)や清缶剤の添加やボイラー水の吹出し(ブロー)などを行うようです。 実機の蒸気機関車においても、清缶剤の添加などの対策がとられていたようです。

 @1日の運転が終了しても水を抜くことのない、一般のボイラーや実機の蒸気機関車においては、 ボイラー水の蒸発により、不純物が濃縮され、さまざまな障害をもたらすようですが、 模型の世界においては、渡辺さまが記されたように一般的に、運転の都度、ボイラーに水を入れ、その日の運転が終了すれば、 ボイラーの水を全部抜いていること。
 A一般のボイラーにおいては、常用使用圧力が高圧(概ね2MPa超え)の場合、陽イオンだけではなく、 陰イオンも除去した、”イオン交換水”を使用しますが、 模型の場合は、常用使用圧力が低圧(1.0MPa未満)であること。

 これらのことから、一般のボイラーと同様な対策(水処理)をとるにこしたことはないのかもしれませんが、 原水(水道水など)のまま使うことは避けることとし、 ”蒸留水”を使うか、 軟化装置でイオン交換処理(陽イオンのみ除去し、陰イオンは除去していない)した水(”軟化水”)を使えば良いのではないか、と思います。


 実例です。ボイラーに給水する水を作っている画像です。 軟化装置でイオン交換処理(単純軟化法)して、水の中のカルシウムやマグネシウムなどの硬度成分を除去しています。 原水は水道水で ↓ ↓ → ↑ → ↑ ↑ と通って、 軟化装置に入り、ここから()処理された水(”軟化水”)が出てきて、 ホース内を通って、 ここから(ポリタンクに入れています。 ポリタンクを蒸気機関車まで運んで使用します。


この軟化装置には、 電気伝導率計(水質計)(一つ前の画像の)が付いています。


 0〜10μS/cm(マイクロジーメンス毎センチメートル)までならで、10μS/cmを超えると不適のようです。 つまり、”電流が通りにくいほど、ボイラーに適している。”ということです。 なお、現在は、S/cm(ジーメンス毎センチメートル)ではなく、 S/m(ジーメンス毎メートル)を使用するようで、10μS/cm = 1mS/m ですので、 限度は、1mS/m(ミリジーメンス毎メートル)になります。 なお、電気伝導率の逆数が電気抵抗率であり、電気伝導率1mS/mは、電気抵抗率1kΩ・mですので、 電気伝導率を1mS/m以下にするには、電気抵抗率を1kΩ・m以上にすることになります。

 ちなみに、軟化装置で、陽イオンのみ除去した水は”軟化水”で、 イオン交換処理(脱塩)で、陽イオンだけではなく、陰イオンも除去した水は”イオン交換水”です。 不純物をほとんど含まない純度の高い水は”純水”と言われており、 電気伝導率が、0.01〜0.1mS/m(0.1〜1μS/cm)ぐらいのようですので、 電気伝導率1mS/m(10μS/cm)は”純水”と言えるか、微妙なところかと思います。


 
 こちらは、硬度指示薬です。 軟化装置がチャンと機能していることを確認するため、 これを使って、硬度リークテストを行います。 右の画像のこの硬度指示薬の使用説明書によると、 採水容器に30ml採り、そこに硬度指示薬を1〜2摘入れて振りながら溶かし、 変化した色で軟水硬水かを判別します。


 採水容器は何が良いのか分からなかったので、とりあえず、30ml入れて振れるものということで、ご覧の蓋のある小瓶にしてみました。 画像は原水(水道水)をテストした結果です。 ””に変色した場合はリークですので、 ご覧の通り、水道水はリークです。つまり、硬水です。


 こちらは、軟化装置で処理された水をテストした結果です。 に変色しました。 つまり、軟化水になっているということです。 これで、軟化装置がチャンと機能していることを確認できました。 また、同時に軟化装置電気伝導率計(水質計)は、 正しく指しているようであることが分かりました。


こちらは、自宅のキッチンで、水道水をテストした結果です。 やはり、硬水です。



こちら(内)は、OS法隆寺レイアウトで使用していた軟化装置です(令和6年1月27日(土)撮影)。 ”ロコ用整水器”と書かれていました。


 
上部に付いている、電気伝導率計です。 ORGANO(オルガノ)製のようです。


 目盛は、3μS/cm(マイクロジーメンス毎センチメートル)までしかなく、 2μS/cmのところが赤線になっています。 限度は、0.2mS/mということでしょうか?。


 こちらは、令和6年9月15日(日)〜16日(月)に開催されました、 ミニSLフェスタ in おやべにおいて、 撮影した画像です。参加された、どなたかが持参されたと思われる、 軟化装置(洗車用に販売されている純水器)です。 ターンテーブルの近くにある、水道の蛇口に繋いでありました。


 
以前、OSさまが、”洗車用の純水器もボイラーに使える”とおっしゃっていました。


 蓋を開けて中から取り出して、右手に持っているのが樹脂バッグです。 成分が明らかにされていないようですが(企業秘密か?)、強酸性陽イオン交換樹脂が含まれているものと思われます。 強酸性陽イオン交換樹脂は、 カルシウムイオンマグネシウムイオンなどを、 ナトリウムイオンに置き換えます。

硬度リークテスト
 硬度指示薬)を持参していたので、 硬度リークテストを行ってみました。 原水(水道水)()は、”から”に変色し、 つまり、硬水です。 軟化装置で処理された水()は、””に変色しました。 つまり、”軟化水になっている”、ということです。 これで、軟化装置(純水器)がチャンと機能していることを確認できました。


 
 こちらは、令和6年11月24日に開催されました、つくで高原模型鉄道倶楽部の定例運転会において、 メンバーの方が持参されたものです。 ”浄軟水器”と表示されていますが、軟化装置だと思われます。

 軟化装置強酸性陽イオン交換樹脂は、 使用するにつれ、次第に表面が鉄分で汚染され、交換能力が減退するので、一般のボイラーでは、1年に1回程度、洗浄・交換を行うようです。 模型の世界では、一般のボイラーと比べて、使用頻度が少ないと思われますので、 硬度指示薬硬度リークテストを行い、 リークとなったら交換するか、あるいは、電気伝導率計で測定し、 その値が高くなったら(限度は、0.2〜1mS/m程度が目安かと思います)交換する、といった運用で良いかなと思います。


 
 こちらは、5インチゲージ 動輪舎製 C56124です。 テンダーの水槽に、 ひとつ前の画像の軟化装置で処理した軟化水を入れています。 軟化水を入れる、水タンクはよく洗っておき、ゴミなどが入らないよう注意し、 水槽に入れます。そして、入れた後は、蓋をしておきます。逆止弁内にゴミが混入したり、湯垢が付着すると、 ステンレスボールが完全には着座しなくなり、ボイラー水の逆流などの不具合いを招く恐れがありますので。
 愛機の快適な走行を長く続けられるよう、ボイラー水の扱いにも注意を払うといいと思います。

参考文献(敬称略、順不同)
 鉄道模型趣味 1977年4月号.株式会社機芸出版社,1977.
 渡辺 精一.ライブスチーム 模型機関車の設計と製作.株式会社誠文堂新光社,1982.
 平岡 幸三.ライブスチームのシェイを作ろう.株式会社機芸出版社,2004.
 ボイラー実技テキスト.一般社団法人 日本ボイラ協会,2020.
 ボイラーの水管理 小型貫流・中級ボイラーユーザーのための水管理.一般社団法人 日本ボイラ協会,2015.
 小谷松信一・酒井幸夫.ラクラクわかる! 一級ボイラー技士試験 集中ゼミ(改訂2版).株式会社オーム社,2019.
 コンデックス情報研究所.いちばんわかりやすい! 2級ボイラー技師 合格テキスト.成美堂出版,2021.  


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