50歳オッサン記者 新人猟師日記 その7

(23)最終日は収穫なしも充実のシーズン終了
 この冬最強の寒波だと聞くと、それだけで身震いしてくる。2月某日。プロ野球はキャンプインしたが、ことしは一時帰京するタイミングがあり出猟機会に恵まれた。とはいえ気温25度もあった沖縄との寒暖差は20度以上。しかも前夜は雪が降った。しかし猟期最終日の2月15日から再び沖縄に入るため、これが今季最後。気持ちを奮い立たせ、なんとしても仕留めたい。
 朝から大先輩たちが獣の足跡を追う。「シカが2頭、こっちの山に入っているな」「どっちから犬を入れようか」と作戦会議が始まる。“主戦場”にしてきた山で、シカやイノシシを見る数が減っていた。賢い生き物だけに禁猟区に逃げ込んだのか、別の山に移動していったのか-。理由はあれこれ考えられるが、いつもの山に入ることに。
 午前中は気配なし。午後、少し場所を変えて再チャレンジ。「ギャンギャン」と犬が獣を追う鳴き声が響くと同時に、犬を操る勢子(せこ)のKさんの無線が飛ぶ。「シカ出たぞ」。配置された向かい側の山から響く鳴き声に緊張感が高まる。谷に下りてくれば、下に向けて狙える。
 すると2人向こうのタツ(射手)のH君が「ドーン」と1発。残念ながら「メスのシカに逃げられました。また山に戻っていきました」と無念の報告が聞こえた。外しても、山をぐるりと囲むように配置された次のタツが狙えばいい。大事なのは「どっちへ逃げたのか」を正確に伝えること。だがこの日は、その後も姿をみせることなかった。
https://www.sanspo.com/geino/news/20190211/sot19021111100007-n1.html  2019/2/11 サンスポ

(22)猟師の勘と情報網 8頭のイノシシを追え
 1月某日。初めてイノシシを仕留めてから1週間、何だかまだ気持ちが高ぶっている。
 いつもと違う場所に集合となったのは「きのうの夕方、イノシシ8頭出たって話だぞ」という情報がもたらされていたからだ。8頭とは尋常ではない。イノシシの痕跡が少ないので、前週もいつもと違う山を攻めて成功した。
 そこは杉林と竹林に囲まれたうっそうとした森。目の前には広大な畑が広がり、民家も視界に入る。勝手知ったるいつもの山ではないので、獣道とイノシシの行動パターンを読み、撃つ方向にも十分な配慮が必要になる。「川の向こうは人家だから絶対に撃つな。外してもいいから、獲物を開けたところで確認してから狙うように」と指示され配置についた。
 勢子(せこ)が犬を放って間もなく3匹の犬が激しく鳴く。自分の隣、川沿いに立ったIさんが2発撃った。
 「イノシシ、1頭止めたよ」
… 中略 …
 あれこれ考えながら帰路につく車中で、ショッキングなニュースを聞いた。
 山梨県で同じように犬を使って猟をしていた59歳の男性が、イノシシにかまれ失血死した。獣は本来、人間の気配を感じたら近づこうとはしないはず。状況が分からないが、犬に追われ人間に気づかず急に出くわしたのか、それとも何か別の理由があったのか。以前、ベテランから「手負いのイノシシは真っすぐ向かってくることはある」と聞いたこともある。獣も命がけ、人も命がけ。気を抜いてはいけないと、改めて思う。
 今季は北海道での誤射で死者が出たのをはじめ、すでに数件の事故が報告されている。11月15日に始まったばかりだと思っていた狩猟期間も、残りわずか。獲物も大事だが、無事故で終えることがもっと大事なのだ。
https://www.sanspo.com/geino/news/20190123/sot19012311000001-n1.html 2019/1/23 サンスポ

(21)ついに捕らえた 念願のイノシシ
 1月某日。ことし2度目の猟は、まず「どの山を攻めるか?」からだった。今季はワナにはかかるのだが、猟果があまり上がらずベテランたちも頭を悩ませていた。獣は動く。気配を察してか、エサを求めてか。「あそこやってみるか」と数年ぶりとなる猟場に選んだのは、牧場に近く休耕田を囲むような低山地帯。もちろん新人猟師には初めての場所だ。シカやイノシシの動きを見極める新しい足跡があまりないが、勝負してみるしかない。
 その瞬間は突然、訪れた。「シカ出たよ」。無線の声は犬を操る勢子(せこ)ではなく、隣のタツ(射手)に配置されたKさんの声。緊張がみなぎる瞬間だ。約30メートル先、イノシシ2頭、続いてシカ3頭が一気に山の斜面を駆け下りてきた。狙えるか狙えないか、ギリギリの距離。獣たち一行は沢を抜けると、反対側の斜面を登っていく。
 シカの後ろ姿に照準を定めたが、もう尾根に近いので引き金は引けない。無線で「シカとイノシシが抜けていきました」と報告を入れたときだった。
 登りきれなかったのだろうか。イノシシが1頭、斜面の中腹で迷ったようにたたずんでいる。迷わず引き金を引いた。
 「ブヒッー」と断末魔の叫びを上げながら、上ってきた斜面を転がり落ちていくのが見えた。沢の手前で枝に引っかかり絶命していたのは、40キロ級のメスだった。
 「イノシシ、倒れていました」報告すると「おめでとう」と次々に祝福の無線が飛んできた。足にロープをかけ、引き上げやすい場所まで引きずっていく。昨年初めてシカを撃ったときもそうだったがアドレナリンが出ているからか、1人でも引っ張れるのには驚きだ。
https://www.sanspo.com/geino/news/20190116/sot19011611000001-n1.html  2019/1/16 サンスポ

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2019年02月12日