彼は僕の趣味である



Profile
 1943年2月13日生まれ 本名、森本治行 愛知県出身
 名古屋時代からDJとして活躍。ナレーション、声優から、クラシックの紹介文書まで手がける。趣味は将棋に、写真。


  森本レオである。トップバッターに踊り出たのは、最近また北原的に盛り上がりつつあるからだ。
 北原の名作(笑)に「君は天使じゃない」という短編があるのだが、それを読ませた人間は何故かことごとく、北原の不倫体験がベースとなっていると勘違いするらしい。・・・・かの作品は僕のレオ様への愛が書かせたものである。
 僕が彼に惹かれたのが、いつなのか定かではない。
 僕が子供の頃から彼はブラウン管の中にいた。
 一番古い記憶では、NHKの「鳴門秘帳」という時代劇に、「目明し三吉」という役で出ていたことだろう。ちなみに主演は田村正和だった。
 以来、好きな俳優の一人としていつも心の隅にいた彼が、一気にクローズアップされたのは、民放のTVドラマの「橋シリーズ」のワンシーンだった。
 不倫相手の女の子を本気で追いかけようとした瞳の色が、怖いくらいに胸に焼きついている。それまでの優しい平凡な男のイメージが、そのワンシーンで突如として崩れた。
 僕は彼の出演作をビデオで取りだめ始めた。先日の引越しでそのコレクションの多さに、僕の彼へ愛の深さを再認識した。
 彼は銀縁眼鏡が似合うエリートであり、刺青をしたやくざであり、腕のいい外科医であり、猫を抱いた気いい上司であり・・・。演技は俳優であること以外にも、箸は左、ペンは右で持つこと、思った以上に長身であることまで、僕は発見した。


 次に好きになったのは声である。
 僕は顔もそうだが、声にも拘る人間である。
 よく響く少し高めの渋い声は、僕の耳に心地よく響いた。FMのナレーションを編集して(ちょっとしたエッセイや詩の朗読)、60分テープにまとめて聞いていた時期もある。
 今はその熱狂ぶりもだいぶ収まったが(友人に土曜のサスペンスドラマのビデオ録画を依頼する程度には・・笑)、後にも先にもここまで入れ込む俳優は現れないと思う。
 さて、ここで僕が面食いであるあるという初歩的な問題にぶち当たる。
 されど、僕は不敵にもこう断言する。
 森本レオは少なくとも柴田恭兵より端正な顔してるし、彼の思いつめた眼差しはジョン・ローン以上である。
 あばたもえくぼ。何とでも言ってくれ。彼は僕の趣味なのだ。
 昔から線が細いメタルフレームの眼鏡とスーツが似合う男が好みだった。
 結婚するなら彼みたいな人がいいし、本人に申し込まれたら、二つ返事で頷くだろう。大丈夫、彼は独身のはずだから。
 で、僕はこれを知った時、驚きと安堵のほかに、さもありなんという考えが頭をよぎった。
 あの人は、最終的に人を寄せ付けないんじゃないかと思う。
 笑顔や優しい言葉に巧みに誤魔化しながら、心の中にけして他人踏み込ませない冷たさがある気がする。まるで、僕のように。
 だから好きになったのだろうか。
 その他に、僕が彼を好きになったもう一つの理由がある。
 誰かが僕に言ったのだ。
 曰く、森本レオってモラトリアムを続けていたのに、ふいに間違ってネクタイを締めたみたいだね。
 そういえば、いつ何を起こしてもおかしくない情熱をうちに秘めた役が彼に似合っている。


 何の映画だったか忘れたけれど、レオさんの台詞ですごく好きなものがある。
 『歩くのに疲れたら、周りの景色を見渡して見るといいですよ』  何とはなしに、素敵な台詞ではないか。
 今年2月で58歳と知り、そうは見えない若さにファンとしては嬉しい限りだ。
 彼の出演する連ドラを追いかけることはなくなったが、ケーブルテレビで若かりしレオ様がでているドラマを、録画しながら楽しんでる。
 彼は僕の永遠の恋人である。


 同人誌「MOONLESS COMPANY 77号」(1993.1.25)発表分を加筆改正。


 おまけ。
 「彼は僕の趣味である」の中に出てきた北原の短編小説、 「君は天使じゃない」をお読みになりたい方は、下のタイトルを  クリックしてください。


『君は天使じゃない』