872.つくで高原模型鉄道倶楽部 令和6年11月 定例運転会(その9)において、
Wada Works製 コッペルのスチームアップを行っているところで、
ボイラーの蒸気圧が上がって、圧力計の針が0.2MPaを超えたとき、
「水面計を見ると、水の膨張により水位が上がっています。」と記しました。 Wada Works製コッペルのスチームアップを行っています
![]() ![]() 圧力計の針は、0.2MPaを超えています。 着火前 現在
![]() ![]() そのときの水面計が右の画像で、左の画像の着火前と比べて、水位が上がっています。 そうしたところ、"872.つくで高原模型鉄道倶楽部 令和6年11月 定例運転会(その9)"をご覧いただいた方から、 「水温が上がると水の膨張により水位が上がるのでしょうか?。」 「圧力は、どのような関係があるのでしょうか?。」とのご質問をいただきました。 この点について、考えてみたいと思います。 そのご質問に、次の通り回答しました。 Q1.水温が上がると水の膨張により水位が上がるのでしょうか?。 A1.ボイラー水が加熱されて、水から蒸気に変化する時、体積が膨張して、水位が上昇します。 標準大気圧において、100℃の水(飽和水)が100℃の水蒸気(飽和蒸気)に変化する時、 体積は約1600倍になります(標準大気圧において、100℃になる前でも加熱により少し膨張し、 沸騰すると急激に体積が増えます)。 Q2.圧力は、どのような関係があるのでしょうか?。 A2. ・標準大気圧において、100℃の水(飽和水)が100℃の水蒸気(飽和蒸気)に変化する時、 体積は約1600倍になりますが、圧力が1MPaの場合は、飽和蒸気の体積は飽和水の約170倍にしかなりません。 なお、標準大気圧は0.1013MPaですので、1MPaは標準大気圧の約10倍になります。 ・実際のボイラーにおいては、大気圧力よりも高い圧力で蒸気を発生させますが、 圧力が高くなるに従い、飽和温度が高くなります。 ・縦軸を温度、横軸を圧力としたグラフ(蒸気圧曲線)において、 蒸気圧曲線よりも下の領域は水、上の領域は過熱蒸気ということになります。 Q3.A1の更問 この事が水面計の水位を上げているのでしょうか?。 A3.はい、加熱により体積が膨張し、水位が上がると考えていいと思います。 Q4.水10Lを152℃にしたら、何Lになるんでしょうか?。 A4.それを知るには、蒸気表(注)を見るといいのかなと、思います。 (注)圧力条件と飽和温度、 顕熱と潜熱の関係を実験結果に基づいて作成された数値表のこと。ここでは、 圧力(絶対圧力で、単位:MPa)、飽和温度(単位:℃)、飽和水と飽和蒸気の比容積(単位:m3/kg)、 飽和水と飽和蒸気と蒸発熱の比エンタルピ(単位:kJ/kg)の関係を表で表した、 飽和蒸気表(圧力基準)を参考にしました。 飽和蒸気表(圧力基準)の飽和温度欄の152℃に近い151.8℃の比容積(単位:m3/kg)を見ると、 ・飽和水 0.001093 ・飽和蒸気 0.3747 です。ちなみに、151.8℃の飽和水が、151.8℃の飽和蒸気に変化すると、 体積が約374倍になるということだと思います。 Q5.A4の更問 水10Lを152℃にしたときの体積を知りたいが、可能でしょうか?。 また、そのとき、膨張や収縮があるのでしょうか?。一体それは、どれ程なのか知りたくないですか?。 A5.今、分かっているのは、蒸気表から、飽和温度151.8℃の場合、比体積(単位:m3/kg)は、 ・飽和水 0.001093 ・飽和蒸気 0.3747 であり、151.8℃の飽和水が、151.8℃の飽和蒸気に変化すると、 体積が約374倍になるということまでではないでしょうか。ボイラー関係の本をいくつか読みましたが、 これ以上の記載がある書物を、少なくとも現時点で私は見たことがありません(私の勉強不足でしたら、ごめんなさい)。 活発に燃焼するウェールズ炭(OS製コッペル)
![]() 温度や、圧力や、飽和水から更に加熱して飽和蒸気に変化する程度により、 体積が異なってくること、更に実際のボイラーでは蒸気圧は常に一定というわけではないこと、 石炭燃焼による加熱(熱エネルギー量)も一定ではないこと、ボイラーの水位が低下すれば、 100℃より温度の低い水をボイラーに入れていることなど、ファクターが多くて、 計算できないのではないかと思います。 運転室の右側にハンドポンプ(←)を装備している、タカダモケイ 5インチゲージ Bタンク機
![]() また、仮に将来、”体積計”なるものが開発されて、ボイラー内の体積が分かったとしても、 それが実用的にどんな意味があるのか?、どう役立つのか?、と聞かれると、私は返答に窮します。 それよりも、ボイラーの水位を常に安全低水面以上に保つことなどの、安全面に注力することが重要ではないかと思います。 火を入れる前にハンドポンプなどが正常に機能することを確認することや、 火を入れた後は水面計の監視を怠らず、適宜、給水することなどに気を使うことが大切だと思っています。 Q6.水道水(多分10℃ぐらいと思いますが)を90℃の温水にしたら、やはり水位が上がりました。 おおよその増え具合は30cc程度でしたが、増える事は確実でした。 でも、これは、水の膨張と言うより、水中に含まれている空気が膨張したようにも思えました。 A6.ご存じの通り、水(原水)には色々な物質(不純物)が含まれています。 @酸素や二酸化炭素などの溶存気体 Aカルシウム、マグネシウムの化合物、シリカ化合物、ナトリウム化合物といった溶解性蒸発残留物 B泥、砂、有機微生物、水酸化鉄などの懸濁物 です。使用されたのは水道水とのことですので、これらの不純物が含まれていたと思われます。 よって、今回の実験結果から、水(H2O)が膨張したと、 断定することはできませんね(水(H2O)が膨張したのか、水(H2O)と不純物の何かの両方が膨張したのか、 不純物の何かが膨張したのか)。 それを確かめるには、不純物を除去した純水・超純水を使って実験すると、答えが見えてくると思います。 今回のテーマの ”ボイラー水を加熱すると、膨張して水位は上昇するのか?” をまとめます。 <まとめ> ・ボイラー水が加熱されると少し膨張し、沸騰し飽和水から飽和蒸気に変化する時、急激に体積が増える。 ・飽和水から飽和蒸気に変化する時、急激に体積が増えるが、圧力が増すにつれて、体積が増す度合いは小さくなっていく。 ・ボイラー水の膨張に伴い、水位が上昇する。 ・実際のボイラーにおいては、大気圧力よりも高い圧力で蒸気を発生させ、圧力が高くなるに従い、飽和温度が高くなる。 ・ボイラー内の体積を知るには蒸気表が参考になるものの、ファクターが多くて、その量の計算が困難である。 ・たとえ、ボイラー内の体積が分かったとしても、実用上の重要性は疑問であり、それよりも、 お客さまやボイラーなどの安全面に注力するほうが重要だと思います(777. ”安全”について (その1) (R6.1.14掲載)、参照)。 なお、ボイラーの知識・技術を修得することは、ライブスチームを取り扱う上の安全面において、有用なことだと思います。 参考文献(敬称略、順不同) 小谷松信一・酒井幸夫.ラクラクわかる! 一級ボイラー技士試験 集中ゼミ(改訂2版).株式会社オーム社,2019. コンデックス情報研究所.いちばんわかりやすい! 2級ボイラー技師 合格テキスト.成美堂出版,2021. ボイラー実技テキスト.一般社団法人 日本ボイラ協会,2020. [新版]ボイラー図鑑.一般社団法人 日本ボイラ協会,2023. ボイラー実技講習補足資料.一般社団法人 日本ボイラ協会愛知支部, 安田克彦・指宿宏文.今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい ボイラーの本.日刊工業新聞社,2018. 勝呂幸男.今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい 蒸気の本.日刊工業新聞社,2016. |