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  5. 交響曲第7番第1楽章

ベートーヴェンの交響曲第7番
第1楽章


はじめに

 難しいことは抜きにして楽しむ、第7。というのが理想ですが、そんなことはおかまいなしに、各内容は、つれづれに書かれています。文中、(b.??? )とあるのは、小節番号です。
 文中のあちこちにある話は、出典を覚えていないので、それなりに記述しています。小節番号は全音楽譜出版社が出版しているオイレンブルグ版(?)スコアのものです。

1.必殺の序奏
 第1楽章の特徴は、ひとえに綿密に計算されたリズムに尽きる。しかし、その前に序奏に注目しなければならない。序奏が序奏の役割を逸脱しているからだ。この交響曲になって初めて、序奏のみですでに巨大な建築物を思わせる規模になった。いろいろな旋律素材はもちろん、調もイ長調のみではなくいろいろと動き回る。
 序奏が長いということでは、交響曲では第2番、序曲では「レオノーレ」であるが、それよりも長い。しかも2個の主要旋律があり、序奏における第1主題(b.1)、第2主題(b.23)ということになる。第2交響曲の序奏で、主題らしく印象に残る旋律が無い(まあ、第9冒頭に似た部分はあるが)ことを考えると、この第7のソナタ形式に入る以前で、豊かな世界を初めて形成できたことになる。このように濃厚な序奏にしてしまったために、どうしても、かろやかに(b.63)ソナタ形式に入る必要ができた。そこで現れたのがフルートのソロによるさわやかな主題(b.67)。面白いのは、ベートーヴェンの交響曲の第1主題でフルートが、いや管楽器がソロで受け持つのは、この曲のこの楽章のみなのである。もちろん、6/8拍子のリズムの発生処理(b.58からb.62)の楽器の使い方の都合もある。

2.ソナタ形式主部のリズムは、休符が重要だ。
 序奏が終わったので話をリズムに戻すが、この曲の最大の特徴がリズムであると、単純に言い切ってはいけない。楽譜をお持ちの方はご覧いただきたい。じつは休符の有無まで綿密に計算されて書かれている(b.85とb.86=譜例1さらに、b.222,223,224)。つまり、タッタカというリズムである。休符があると音がはっきりと切れ、確固とした足並みになり、休符が無いとのびのびとした表現になる(b.224-227等譜例2)。であるから、この部分は2小節毎に緊張と開放という要素が交互になって面白い効果があると、朝比奈隆の本にも書いてあった。
 また、スタッカートも考えて配置されている。スタッカートは音を短く切るということであるから、これの有無は休符の有無と同等と言える。展開部ではこのリズムが数多く出てくるが、休符やスタッカートの有無はじつに巧妙に設定されている(b.201 譜例3)。ここは、第9の第1楽章の主題に似ている。
 もちろんリズムを単純に練習したり聴いたりするのもいいが、このような違いを演奏し、聴き分けて楽しむと価値倍増だ。そもそも、この楽章ほど休符とスタッカートが厳密に配置された例は少ない。これらを十分に考えた演奏は、豊かな印象をきっと与えてくれるだろう。逆に注意が足りないと、どこも同じリズムになってしまう。演奏が難しいところと思う。
 なお、第2バイオリンやビオラが面白い動きをしていて、ここ等がよく聞こえると得をした気分になる(b.89〜、b.119〜、b.146〜、b.157、b.164〜、b.201〜、b.278〜譜例4)。じつは、得をしたというより、ここがしっかり聞こえることにより重厚な響きになったり緊張感が高まったりするという、重要な部分なのである。

3.提示部は、くりかえそう。
 とりあえず、あたりまえのことを言うと繰り返そう。それは、b.177で雰囲気の一発転換が行われているからだ。ソナタ形式提示部の冒頭に戻るか展開部に入るか、という大切な雰囲気の転換、これを効果的なものにするためには、まずb.176で提示部の頭に戻るしかない。これをバランス感覚というのであろう。

4.第9にもある、バロック的使用法
 トランペットとティンパニは、この楽章に限らずセットで動くことが多い。特にコーダのb.409からであるが、こういう響きは、第9の第1楽章コーダにも聞こえる面白い使い方である。

5.ここが面白い
 第1楽章の最後の最後と、第4楽章の最後の最後は、全く同じ動きをしている、ということに気付いたであろうか。
 b.442からのホルンの叫びは第4楽章b.452からに対応している。しかも、旋律は上から少し下に下がり上に戻る。これを2回繰り返すのだ。次にb.445から弦などが激しく下っていく。これは第4楽章のb.461からも同様だ。そして最後に、ジャン、ジャン、と和音打撃で終わる。全く同じである。特に深い意味は無いが。
 とにかく、ホルンの叫びがすばらしい! 特に第1主題で叫ぶ叫ぶ! この交響曲ならではである。しかしそれでも、まだどこか落ち着いた雰囲気を消していない。その理由は、第4楽章に到達したときにわかるのである。

6.場面の一発転換
 b.109,110,111では、場面の一発転換が行われ、ここを通過すると一気に雰囲気が変化する。再現部b.323,324,325でも同様であるが、強弱の位置関係が異なっていて、凝った造りをしていることがわかる。

7.気分で言うと第2主題はどこ?
 この楽章では、第2主題がはっきりしていない(一応、そういうことになっているようだ)。全音楽譜出版社のポケットスコアで解説をされている諸井三郎氏によれば、第2主題はb.130からであるが、本人「第2主題と認められるほどの独立性は保持していない」という。そう説明するなら、私は第2主題はb.119からを採りたい。ここは、「タッタカ」のリズムが途切れて気分が変わるため、第2主題にふさわしい部分なのだ。しかもホ長調で、イ長調の属調である。主題が2つあるということの最大の目的は、気分を変えるということではなかったか。



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