「ベートーヴェン解説」書籍のご紹介
ここでは、楽曲、作曲法、理念などの解説本を紹介します。ここにあるのは私が所有しているものですが、当然、出版された全てを購入しているというわけではありません。古くて現在絶版の本は買えませんし、発売中のものでも買っていない場合もあります。興味のある人は音楽に強い書店や図書館へ行こう!
A:初心者向け
B:中級者向け
C:上級者向け
マ:マニア向け
研:研究者向け
価格は、購入当時のもの。
◎:推薦
1.◎ノッテボーム「ベートーヴェニアーナ」第1巻、第2巻(上)音楽之友社(絶版)(Cマ研)
ノッテボームは研究家。ベートーヴェンのスケッチブックから抜粋し、解説を付けたもの。第2巻(下)は無い。2冊とも絶版になっている。どの曲に言及されているかというと、第1巻は交響曲第5、7、8番、ピアノソナタOp.109、ディアベッリ変奏曲、弦楽4重奏曲Op.130,131など。第2巻は、交響曲第7、8、9番、バガテル、ピアノ三重奏曲第2、3番、ピアノ協奏曲第1、2番など。大変貴重である。
2.◎吉田秀和「ベートーヴェンを求めて」白水社(B)1,500円
音楽評論家であるが、演奏の解説ではなく楽曲の解説である。演奏評論も織り交ぜながら、豊富な譜例を含め、非常に読み易い。内容は交響曲第5番、「英雄」「後期弦楽4重奏曲」「フィデリオ」「スケッチブック」など。いろいろと示唆に富む、面白い内容だ。買って損はない。
内容としては難しいので大人向き。
3.◎「鳴り響く思想 現代のベートーヴェン像」東京書籍(B〜C)3,500円
20人の研究者による論文。各論文はテーマを絞ってあるので、発散することなく、お互いに補完するようになっている。表題からすると哲学的のように感じられるが、そのようなものは少数派であり、多くは譜例を従え、わかり易い。「ベートーヴェンと当時の社会情勢との関連」「ピアノソナタ、弦楽4重奏、バイオリン協奏曲、英雄、交響曲第5番などへのアプローチ」「楽譜出版、演奏史」の3部に分かれる。
内容としては難しいので、大人向き。
4.アドルノ「ベートーヴェン 音楽の哲学」作品社(C)5,600円
哲学者による解説。読みにくい。譜例も無し。正直言って、ここまでこねくりまわして聴いて書いて、どこが面白いのだろう。「ベートーヴェンの音楽はヘーゲル哲学」だそうな。哲学者が自分の論理に酔っていると思った。こういうひとりよがりな論を書きすぎると、ベートーヴェンに怒鳴られるのがオチであろう。こんな本を買うくらいなら、名演奏を聴くほうがよい。私は古本屋で買った。
枕にするには、ちょうど良い。
5.◎児島新「ベートーヴェン研究」春秋社(B〜Cマ)3,200円
ヘンレ新ベートーヴェン全集の校訂者にも携わった研究家。「ピアノ音楽の歴史的理解」「スタッカートの意味」「ピアノ曲の装飾音」「交響曲第5番、田園などの楽譜研究」「ボンの歴史」など。研究とはいっても、随筆あり、ボン市の歴史概説ありと、内容は面白い。2000年初めに復刊。
児島氏はすでに物故されており、この本の続きは、無い。
大人向き。
6.フォーブス編「ベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調」東海大学出版会(絶版)(Bマ研)3,000円
フォーブスはベートーヴェン研究家。この本はハインリヒ・シェンカー校訂の交響曲第5番のフルスコアがあり、さらにスケッチ抜粋、校訂の覚書、有名はホフマンによる「第5交響曲の批評」、シェンカーによる「第1楽章解説」、他にもワーグナー、ベルリオーズなどの論文が掲載されている。貴重品。
7.チェルニー「ベートーヴェン全ピアノ作品の正しい奏法」音楽の友社(A〜B)1,200円
まだ売っているはず(価格は上がっている)。チェルニーは言わずと知れたベートーヴェンの直弟子。この本は、メインはピアノ作品の演奏法であるが、ベートーヴェンについての回想録が大変興味深い。演奏法は、多くの楽曲を網羅しているとはいうものの、1曲毎では、それほど突っ込んだ解説をしているわけではない。ピアノ弾きが読むと良い本とは思うが、あくまでも軽い助言でしかないので多くを期待しないように。
ピアノ好き向き。
8.ダールハウス「ベートーヴェンとその時代」西村書店(C)4,700円
音楽評論家。内容については吉田秀和氏の著作と類似しているが、読み易さではイマいちである。聴くことに役立つかといえば、吉田秀和氏の著作は役立つが、こちらは役立たないだろう。あまり考察しすぎると、「聴き、楽しむ」という原点から逸脱してしまうのだ。
大人向き。
9.◎「ベートーヴェン・ルネッサンス(ONTOMO
MOOKシリーズ)」音楽之友社(A〜Bマ)1,500円
雑誌「音楽の友」に掲載されたものの集大成。演奏史、楽曲解説、コラム、随筆。面白い内容。もう売っていないんじゃないか、どうだろう
10.◎「音楽の手帖 ベートーヴェン」青土社(絶版)(A〜Bマ)980円
さまざまな書籍からの抜粋などの集大成。論文、随筆、演奏や曲の解説、コラムなど。想像以上にバラエティに富んだ内容。
11.朝比奈隆+東条碵夫「朝比奈隆 ベートーヴェンを語る」音楽之友社(B)1,800円
朝比奈隆へのインタヴュー形式による、ベートーヴェンの交響曲演奏法。指揮者の苦労を知るには一番よい本ではないだろうか。
朝比奈ファン向け。
12.◎属啓成(さっか けいせい)「ベートーヴェン 作品篇」音楽之友社(絶版)(Bマ)4,300円
昭和56年頃に買った、日本で最も古いベートーヴェン全作品解説集。姉妹品に「生涯篇」がある。WoO番号のものもかなり納められていて、さすが研究家という力作で貴重な本である。希少価値の小品まで譜例付きで書かれているのは、いまだこの本以外には無い。
13.◎「作曲家別名曲解説ライブラリー ベートーヴェン」音楽之友社(B)3,900円
こちらは「名曲」だけを集めたもの。従来の名曲解説全集をもとにしてある。著名な曲に限定されているのは、惜しい。
一般向け。
14.◎ベッカー「ベートーヴェン」音楽之友社(B)1,000円
伝記を含むが、楽曲解説本である。ジャンル毎の総論としては非常に出来がよいようで、広く読まれているそうだ。
一般向け。
15.メルスマン「ベートーヴェン」音楽之友社(B研)500円
音楽学者による分析、論文である。哲学者であるため難解な部分もある。
16.ブークーレシュリエフ「ベートーヴェン」白水社(Bマ)1,800円
楽曲分析を主にした、研究論文。巻末に伝記がある。
17.シンプソン 「ベートーヴェン 交響曲」 日音楽譜出版社 (絶版) (B〜Cマ)
作曲家の特質に通ずる、高度な解説書であり、9つの交響曲の進化の過程を考察し、「第9」が9番めに作曲されたことをあらためて納得させる、中級者以上向けの本です。シリーズとして、さまざまな作曲家で30冊ほどのシリーズになっていたのですが、もう、書店では全くお目にかかりません。ヨーロッパではさておき、日本では、こういう本が売れる土壌が無いのです。出版社は儲かったのでしょうか。
18.ラム「ベートーヴェン 弦楽4重奏曲」日音プロモーション(Cマ)1,480円
シンプソン「交響曲」(後述)、次項の「ピアノソナタ」と同じシリーズのもの。弦楽3重奏、5重奏を含めた、弦楽合奏曲の総合解説本である。同等の本は散見されるが、4重奏以外の曲に言及されているものは、これのみではないだろうか。
19.マシューズ「ベートーヴェン ピアノソナタ」日音楽譜出版社(B〜Cマ)980円
出版社名が違うが、同じ会社である。この本はソナタ全32曲の総合解説本であるが、ソナタ以外にはほとんど言及されておらず、紙数の都合か、一部の曲は解説が短い。その点では、あまり買う価値が無い。
20.「ハイリゲンシュタットの遺書」音楽之友社(Bマ)2,000円
ファクシミリと翻訳、解説の本。原寸大のファクシミリが貴重。
21.グリルパルツァ「ベートホーヴェンの思い出」大学書林語学文庫(B)800円
劇作家グリルパルツァの、ベートーヴェンに関するエッセイと、葬儀における弔辞。ドイツ語学習用なので原文と対訳付き。
語学学習者向け。
22.「フィデリオ」(オペラ対訳シリーズ)音楽之友社(B)500円
ドイツ語原文と翻訳。解説は無い。
オペラ好き向け。
23.◎「フィデリオ」(名作オペラブックス)音楽之友社(B)1,900円
イタリア・リコルディ社の書籍の翻訳。ドイツ語原文と対訳、各種解説付き。初演当時の評論が納められているのが面白い。
オペラ好き向け。
24.小松雄一郎編訳「ベートーヴェンの手紙」岩波文庫(Bマ)上巻400円、下巻450円
ベートーヴェンが書いた手紙の抜粋。不滅の愛人への手紙、ダイム伯爵夫人への手紙を含む。
25.◎木之下晃、堀内修「ベートーヴェンへの旅」新潮社(A)1456円
ベートーヴェンゆかりの地をカラー写真で巡る。簡単な解説付き。
旅行準備用。
26.青木やよひ編著「図説 ベートーヴェン 愛と創造の生涯」河出書房新社(Aマ)1,600円
ロマン・ロラン「ベートーヴェンへの感謝」、簡単な伝記、「不滅の愛人」についての考察、の3部からなる。
ゴシップ好きなマニア向け。
27.青木やよひ「ボヘミア・ベートーヴェン紀行」東京書籍(Bマ)1,800円
青木やよひ先生、「不滅の愛人」関係で、立て続けに出した本のうちの1冊。こちらは、ボヘミアの保養地を軸に、解説したもの。
ゴシップ好きなマニア向け。
28.青木やよひ「遥かなる恋人に ベートーヴェン・愛の軌跡」筑摩書房(Cマ)2,796円
これまた不滅の愛人関係。写真は少ない。所詮、楽曲にはあまり関係無い話である。
ゴシップ好きなマニア向け。
29.稲生永「ベートーヴェン音楽散歩」音楽之友社(A)2,233円
ウィーン、ボン、プラハなどの街の紹介。ベートーヴェンへの突っ込んだ解説は無い。
旅行準備用。
30.◎クーパー原著監修 「ベートーヴェン大事典」 平凡社 (A〜Cマ研)
解説本ではなく事典です。政治、経済、人脈、歴史、作品目録など各種観点からまとめられた百科事典です。とにかく持っているべき本なのです。
31.◎平野昭他著 「ベートーヴェン事典」 東京書籍 (A〜Cマ研)
解説本ではなく事典です。完全作品目録として、出色の出来です。これも、とにかく持っているべき本なのです。
32.シェンカー著 「ベートーヴェン 第5交響曲の分析」 音楽之友社 (Cマ研) 1600円
読みにくさでは、かなりのもの。第5交響曲の音楽的な構造について分析した。ソナタ形式とかいう形式のくくりではなく、音の流れに重きを置いた分析で、いわゆる「有機的統一」とも似ている話である。
番外その1.トマス・ハウザー 「死のシンフォニー」 東京創元社 創元推理文庫(絶版)
謎だらけの楽譜をめぐる奇怪な陰謀! 若き女性ヴィオラ奏者が巻き込まれた、その演奏会とは何が目的だったのか。そして演奏される曲の真の作曲者とは!? 謎に気付いた演奏者たちの運命は!
売れなかった本と思いますが、ベートーヴェン・ファンなら持っていておかしくはない、希少価値あふれるミステリーです。絶対映画化されないというお墨付き本です。だって、誰が作曲するの、その「交響曲」を!
番外その2.森 雅裕 「モーツァルトは子守唄を歌わない」 講談社など(文庫版で復刻)
第31回江戸川乱歩賞受賞作品。ベートーヴェン主演のコミカル・ミステリー。ま、とにかく読みなはれ。「史実に反する」と、非難する読者が多かったという、間抜けな現象を引き起こした。
番外その3.森 雅裕 「ベートーヴェンな憂鬱症」 講談社など(文庫版で復刻したかな)
ベートーヴェン主演のコミカル・ミステリーの続編。4短編を収録。
番外その4.森 雅裕 「マンハッタン英雄未満」 新潮社
ベートーヴェン+土方歳三主演のコミカル・よーわからん小説、第3作。