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「Beethoven大全集」その2(Cascade)


2007年はいったい何が起こったのか?

 EMI(50枚)、Briliant(40枚)、SONY(60枚)、CASCADE(87枚)。詳細を書く気はないが、とりあえず、そういうことなのだそうだ。Briliant、CASCADEは、寄せ集めである。寄せ集めというのは、複数のレコード会社の音源をかき集めてセットにしたということだ。2007年は、寄せ集めのベートーヴェン全集花盛りであった。いったい業界に何が起こったのか。じつは没後180年なのだが、妙に半端である。(全集は、さらに増加中の模様)

 この「前」のページで、全集は買って損はない、と書いたが、どうやら損になりそうな状況だ。どんな全集が損でないか考えておきたい。とはいうものの、聴いてみなければわからないのは言うまでも無い。

寄せ集めだからこそ、注目しておきたいのは

 私が注目しているのは、バイオリン・ソナタ、チェロ・ソナタ、ピアノ三重奏といった、比較的地味な室内楽だ。指揮者やピアニストと違って、それほど華やかに急激に人気が出る分野ではないので、もしかしたら実力があるにもかかわらず埋もれている比較的うまい演奏家がいるのではないか、という、あまり根拠は無いがそういう考えがあるのだ。10数年以上前に買った無名の演奏家の室内楽が、そこそこ上手に演奏されていて今でも十分に楽しめる、という経験もあった。きっと室内楽の演奏家は、大きな団体に属さないで自分の腕で食っていこうとしているために、けっこうハングリーで聴かせる演奏ができるのではないか。あるいは、バイオリン対ピアノ、チェロ対ピアノというような、ライバルがいる構図が比較的良い演奏をもたらすということもあるだろう。スポ根マンガのようでもある。この考え方では、一番スカをひく可能性があるのは、ピアノ・ソロの曲ということになる。たしかに、以前に買ったエランドが演奏したピアノソナタ全集は、つまらなかった。
 買ってみなくちゃわからないが、以上のようなことは考えられなくもない。

CASCADEの全集(カスだケード)を買ってみた。(2007.7)

 CASCADEの全集を買った。注意しておきたいのは買った理由だ。大変珍しい曲が、いくつか含まれているのだ。いくつと言われても整理に時間がかかるが、ほんの5、6曲。それも1曲5分とか10分なのだ。たったそれだけのために、87枚の全集を買うのですかと言われても、仕方が無い。これを逃すと永遠に聴けないかもしれない。マニアックなのである。このような場合、見つけたら買うのが鉄則。しかし初心者にお勧めできるかどうかを判断するポイントは、もちろんそのようなことではない。

 初心者のためには、そこそこ聴ける演奏が有名曲で揃っているかということになるが、それがこの全集ではお粗末。とにかく、不親切、不始末のオンパレード。

(1)交響曲とピアノソナタでは、注目すべき演奏が無い。わずかに3曲、リヒテルの演奏があるが、粗悪なライブ録音。
(2)バイオリン協奏曲は通常の版ではなく、なんと独自のオリジナル版。これを、まさにベートーヴェンのバイオリン協奏曲であると思ってもらっては困る。しかもカデンツァは珍しいティンパニ共演(原曲はピアノ協奏曲用)の、さらにそのバイオリン向け編曲版。
(3)冒頭が欠けているもの。
  ・交響曲第1番第1楽章で、若干。
  ・ピアノソナタ第4番第3楽章で、若干。
  ・ピアノソナタ第11番第1楽章で、かなり。
  ※ピアノソナタ第20番第1楽章では、ほんの数十分の1秒というような微妙な程度に欠けているようだ。
(4)一瞬、音が詰まったように変動する。うっ、という感じ。わかるだろうか。交響曲第2番第1楽章で4ヶ所。数え出したらきりが無いんじゃないかと思う。
(5)レベルオーバーと思われる、一瞬のバザッというノイズ。交響曲第2番第1楽章で十数ヶ所。これも数え出したらきりが無いだろう。
(6)ある曲が終了してから、間髪を入れずに次の曲が始まっている。2秒くらい空けてほしい。
(7)何の脈絡もなく、出所もわからない室内楽の編曲が含まれているのは、不親切。
(8)急に左右の音がゆらめく場合がある。編集時のミスなのかどうだか不明。
(9)弦楽四重奏曲第15番第3楽章では、CDにキズも無いのに、いきなりバザッ!とノイズが入る。
(10)左右のバランスについて。最初は、三重協奏曲で左右の音量バランスが妙に左に傾いていると思ったが、ソロ3人は中央に定位している。木管が全て中央から左にかけてあり、第1バイオリンが強すぎるので左に傾いていると思ったのだ。聴きづらいことは確か。
(11)曲種ごとに演奏家を統一するのが通例なのに、それが出来ていない。(ピアノソナタなど)
(12)民謡の編曲は番号順にまとまっていなくて、複数のCDに散らばっている。
(13)民謡の編曲で、通常はピアノ、バイオリン、チェロの三重奏が伴奏であるところ、説明無くギターになっているものがある(Hess133,134など)。ギター版は確かに存在するが、説明が無いんじゃ、わからんよね。
(14)序曲では小編成の楽団と大編成の楽団の演奏が混在して入れてあるが、説明が無いので編成の違いの印象と曲の印象とを取り違えてしまう。
(15)各CDの内容は箱の外面と内面に書かれている。原価削減とはいえ、ひどい。
(16)当然、曲の解説は無し。英語でも無し。

ピアノのための変奏曲では、ブーフビンダーの録音が入っていた。変奏曲は、なかなか全部が集まらないので、ブーフビンダーの選択は正しい。とはいいながら、全てのピアノ変奏曲がブーフビンダーのものではない。困ったものだ。

 寄せ集めが悪い方向に走ってしまった。
 もしこれが日本国内製作なら、絶対にあり得ない作りである。とはいいながら、妙なことをやっている会社が摘発されることが多い最近なら、あり得ると思ってしまうのが悲しい。


(2008/2/7, 2016/11/11改訂)



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