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長大なクレッシェンド



 クレッシェンド(crescendo , cresc.と略す)といえば盛り上がりなのだが、古典派の時代には、有名なクレッシェンドとして「ロッシーニ・クレッシェンド」というのがある(らしい)。らしいというのは、名前をうろ覚えということなのだが、なかさんが数年に一度しか聴かないという名曲「セヴィリアの理髪師」序曲などには、ところどころにそのようなクレッシェンドの部分がある。特徴は、けっこう長い坂道を持っていること、旋律も伴奏も、せわしないことだ。これだけではよくわからんと思うので、聴くしかない。
 さて、管弦楽団でクレッシェンドの効果的使用法を見つけたのは、かすかな記憶ではマンハイム楽派らしいので、それも調べていただくとして、とりあえず皆さんには、ハイドンやモーツァルトあたりで、長い坂道のクレッシェンドがあったかどうか、思い出していただきたい。
 私が思い出すのは、オペラ「フィガロの結婚」序曲のコーダ部分だ。16小節の長めのクレッシェンドがある。ちなみに「セヴィリアの理髪師」の長いクレッシェンドも、小節数ではそのくらいだ。あらかた1小節は1秒以下なので、せいぜい15秒になる。いや別に、長いからどうだというわけではない。
 他に思い出すかと言われると、それが実は…。2小節くらいの長さなら、ところどころにあったかな、と思う程度だ。

 ベートーヴェンの、クレッシェンドに関する論文は、ここ(2.2MB,PDF)、を読んでいただくとして、ここでは、ベートーヴェンの長めのクレッシェンドを、スリルを楽しんでいただくために、並べてみたい。ちなみに、楽譜上でcresc. poco a poco (徐々に徐々に音を大きくする)というような表記があるところから数えているが、雰囲気的には、それよりも前から仕込みが始まっているようなことが多い。その部分では、音の動きや楽器の重ね方で、cresc.の指示が無くても、cresc.そのものか、その準備作業と思わせてしまうのだ。譜面の例は随時追加するかもしれないが、聴いていればわかるので、あまり期待しないでください。
 それにしても、一言でクレッシェンドとはいうものの、いろいろな手法で盛り上げていく工夫は、さすがにかれの管弦楽を聴く醍醐味のひとつなのだ。

・交響曲第3番第1楽章、コーダ(631小節から)
  1小節3拍子で、24小節、約24秒。第1主題の上を、いろいろな楽器が駆け上って駆け降りていく。音の厚みの変化や楽器の交代がミソ。しかし、cresc.の指示があるのは、このうち17小節めから。

・交響曲第4番第1楽章、主題再現部の手前(325小節から)
 2拍子、8小節。意外に短く、6秒くらい。ティンパニによる静かなトレモロが始まったあたりから徐々に盛り上がっていくということでは、もったいぶったクレッシェンドの先駆けかもしれない。
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・交響曲第5番第4楽章への接続部(324小節からの50小節)
  言わずと知れたブリッジ。しかし、cresc.は最後の8小節にしか無い。意外に短いが、それまでの音型の工夫された動きで、全体がcresc.の印象を持ってしまう。そう、音量ではなく印象でcresc.してしまうのだ。そのぶん最後の8小節が急激で、より印象的だ。

・交響曲第6番第1楽章、展開部
  1小節2拍子で、24小節、約24秒。それが2回。第1主題を構成する1小節の延々たる繰り返し。あまりにも長いスロープなので、最初の8小節はcresc.しない、という手法をとる指揮者も多い。それでも飽きさせないのは、調や楽器の使用法の変化を駆使しているからだ。
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・交響曲第7番第4楽章、コーダ(389小節から)
  1小節2拍子で、16小節、約12秒。じつは、ここには、cresc.が無い。しかし、どう考えてもcresc.しなければいけない状況である。おまけに、かなり手前から延々と怒涛の流れを形成している。ここでのミソはそのような低音域の絶え間ない「うねり」だ。

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・交響曲第9番第1楽章、冒頭
  1小節2拍子で、16小節、約30秒。実際のcresc.は、11小節から。この楽章のいたるところに序奏の類似型が存在し、すなわちクレッシェンドになっている。クレッシェンドしなければいけないのは、その和音が不安定な形になっていることも理由のひとつだろう。いわゆる空虚5度と呼ばれるものだ。

・交響曲第9番第1楽章、終結部(427小節から)
  1小節2拍子で、26小節、約30秒。これも序奏の発展形。全曲中で最も長いクレッシェンドのはずが、よく見ると、この前半にはcresc.の指示は無い。しかし、意識の上では、全てがクレッシェンドであり、序奏をここでも引きずっている。

・序曲「エグモント」コーダ
  1小節2拍子で、16小節、約12秒。ありがちな盛り上がりであり、ロッシーニ・クレッシェンドに一番近い例でもある。最初の4小節には、cresc.の指示は無い。

・序曲「レオノーレ」第3番、第1主題提示(49小節から)
  1小節2拍子で、16小節、約12秒。実は第1主題の最初の静かな出現の直後から続いているが、それを序奏としかみなさないほどの圧倒的なffを導く。指揮者によっては、これに続く4小節のffの和音にもクレッシェンドで叱咤する場合もある。盛り上げ方の基本音型は、第1主題の冒頭1小節だ。

・序曲「レオノーレ」第3番、第1主題再現(364小節から)
  1小節2拍子で、14小節、約12秒。盛り上げ方の基本音型が第1主題ではない。半音階でどんどん上昇していくと思いきや、急激に落下しつつも音量は一気に増大させる。低音部のシンコペーションがミソ。小節の進行も、この曲では普通は4小節1単位であるのが、ここでは2小節余るような動きをしている。(じつは、このしばらく前でも、小節省略の動きをしている場所がある。)このため、浮いたような足りないような不思議な感覚を秘めている。下の例の、数字を参照。左ページは上下2つに(短い斜線)分かれているので、進行は、左上→左下→右ページ、となる。ちなみに右ページでは、第2バイオリンが主題を演奏させてもらえていないが、なぜだろうか。

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・ピアノソナタ「ワルトシュタイン」第1楽章再現部の手前
  じつはここ、交響曲第4番第1楽章、主題再現部の手前にそっくりな動きをする。管弦楽でできることはピアノでもOKさ、というところか。もちろん、現代の発達したピアノならでは音量の増加の幅も大きいが、作曲当時は、満足できただろうか。

・序曲「エグモント」第1主題確保の手前
 1小節3拍子で12小節。弦が細かく刻むわけでもなく、金管楽器がロングトーンでクレッシェンドするわけでもない。ひとえにコントラバスの迫力で盛り上げる。赤い矢印は、コントラバスによるクレッシェンドの開始。


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(思い出したら追加します)

(2007/9/15)



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