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大権現様の、わしの音楽を聴け! 第16回
「改革を止めるな!」



(大)最近、気になることがあってな。
(な)はい?
(大)わしのイメージが固定化されちゃってるのかと。髪がボサボサだの、激しい曲しか作らないだの、モテないだの…。
(な)仕方が無いですよ。髪ボサは、あの有名な肖像画のせいでしょ(*1)。バッハもヘンデルも、ビシッと「かつら」でキメてますしね。しかし、ほら、小泉元総理に似ているので良しとしませんか。小泉元総理も一応独身です。自民党もブチ壊したようですし、古典派をブチ壊した先生としては似たもの同士じゃないですか? 胸像は壊すし、タマゴはぶつけるし(*2)。
(大)おいおい、タマゴまで持ち出すな。しかし、おだやかな曲もけっこう作っているつもりなんだが。つまらん曲(*3)だが、「エリーゼのために」なんかは、いいだろ?
(な)可愛い曲ですが、3つの旋律のうち1つは、暗めで何かのうごめきを感じます。一筋縄では演奏できない曲ですよね。少なくとも、子供向きじゃない。
(大)暗いと、マズいか? でも、ピアノソナタなんかは、ごく普通の古典派的雰囲気を持つ曲は多いと思うのだが。可愛い雰囲気の楽章は、けっこうあると思う。
(な)そこは、いわゆる「名前付き」が影響をあたえているのでしょうね。ピアノソナタは全部「熱情」みたいな、とか。交響曲といえば9曲とも交響曲第5番みたいな、と思われたりしてませんか?
(大)つまり、わしの全ての曲は、いかつい顔でさらに苦悩に満ちて作っておるということか…。そのようなものばかりじゃ売れないぞ。社交ダンスを作曲したりイギリス民謡の伴奏を編曲したりと、金を稼ぐためにはいろいろやったもんだ。社交ダンスはお手軽にできたが、民謡の編曲はけっこう大変だったな。
(な)交響曲第4番などは、快活で美しく楽しい曲であるのですが。アピールが足りません。そこでですね、今回は私が選んだ可愛い曲ベスト3ということです。一応、楽章としてまとまりのあるもので、名の知れた曲にしました。
  第一位 ピアノソナタ第10番 Op.14-2 第1楽章
  第二位 ピアノソナタ第30番 Op.109 第1楽章
  第三位 ロマンス ヘ長調 Op.50
(大)なんだか、ピアノ曲ばかりだなあ。
(な)可愛いということなので、そうなります。室内楽で可愛いくて印象深い曲って、そうも無いんですよね。ピアノなどとの対話になってしまいますから。そこでピアノ曲なのですが、ソナタ第10番は軽やかで楽しいです。可愛い雰囲気で走り回るようなところもあります。こういう曲は、先生のイメージを新たにさせるのに最適ですよね。それでいて、ソナタ形式としてごく普通に作られていますし。
(大)ピアノの初心者にも弾いて欲しい曲だな。しかし、第二位はアダルトな曲だぞ。
(な)オトナの雰囲気で、これはこれで可愛いですよ。冒頭で、いきなり可憐で印象深く始まるのがいいですね。しかも、知的でもある。ソナタ形式はともかく散文詩的に聞こえます。そこがとても新鮮。でも次の楽章を聴くとベートーヴェンだとわかってしまうのですね。第三位は、まあ妥当でしょうか。
(大)「ロマンス」っていうのは、恋愛沙汰とは関係無いんだがな。では最も興奮する曲とは? おっと、恋愛して興奮するわけではないが…。
(な)これは、曲種が分散して、こうなりますね。
  第一位 交響曲第7番 第4楽章
  第二位 ピアノソナタ第23番「熱情」第3楽章
  第三位 弦楽4重奏曲第9番「ラズモフスキー」第4楽章
(大)第一位が「名前付き」交響曲ではないところが、ミソだな。
(な)トロンボーンもピッコロもコントラファゴットも無い、ごく普通の2管編成で、これだけの熱狂を描くことができるのだから、当然一位でしょう。交響曲第5番は、入れるかどうか悩むところです。しかし、興奮という点では第7交響曲にはかないませんね。
(大)ピアノ曲で「熱情」は順当な線かな。「ラズモフスキー」は、これはこれで物凄い曲なのだが、こうして3曲並ぶとおとなしく見えるな。
(な)結局、「熱情」は文字通りのスゴさです。ピアノソナタは第1楽章重視の傾向が強いのですが、「熱情」は最後がスゴい。「ラズモフスキー」は「熱情」と同時期の作だけあって、秘めたエネルギーはすごいですね。
(大)この3作は、一気呵成という点では同じだな。
(な)先生の作品は、ハメをはずした作品が多いですから。
(大)つまりは、形式を壊した音楽を作ると。はっはっは、わしは改革派ですからな。多数のご支持をいただきましたからには、必ずや改革をなしとげてみせますよ。って、もうオレの生涯、終わってたじゃないかぁ。


*1 ノートに音符を書く肖像画。
*2 家政婦に生卵をぶつけたこと。
*3 「バガテル」という曲種にかけてある。

(2005.9)



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