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大権現様の、わしの音楽を聴け! 第17回
「いい仕事なんだから値を上げろ」



(な)最近、面白いものが見つかったそうで。
(大)わしの頭蓋骨のカケラだろ(11/18ニュース)。あと、7月に大フーガのピアノ4手用編曲の自筆譜が見つかった(10/14ニュース)。
(な)立て続けですね。しかも、骨は鉛入りだそうで。
(大)まずいワインが、多少は甘くおいしくなるんでな。今だったらおいしいワインが安く飲めるのに、当時は不便だったからなあ。
(な)鉛中毒なんて知識は、当時は無かったようですね。
(大)それにしても、楽譜のほうはわしのものであることを忘れていたかのようだな。19世紀に売り飛ばされていたものだというではないか。なんとも不憫な…
(な)過去にオークションで買い取られたのが行方不明ということになっています。

ニュースによると…
 「黒、茶のインクのほか、鉛筆、赤のクレヨンなどで加筆、推敲(すいこう)が重ねられ、紙に穴が開くほどの消し跡や、数枚をはり合わせた跡などがある。ベートーヴェンの情熱と苦悩の曲作りを表しているとサザビーズは指摘する」

(大)大切なことを忘れておるな。今回発見の大フーガは弦楽4重奏の編曲版なのだ。つまり原曲はすでに完成していたわけで、「情熱と苦悩の」跡とはいうものの、単に元の音をどの音に置き換えようかと苦労しただけなんだがな。
(な)たしかに。編曲モノの楽譜では、創作の跡が偲ばれるというのとは、ちょっと違うのでしょうね。作曲の過程ではなく、編曲の過程ですから。研究者にとってはやはり見たいものなのでしょうが、見る人の位置づけによって価値は違ってくるのでしょうね。
 また、紙の状態は、苦悩の跡というより、単に紙をケチっているのではないか、という考え方もありえますね。あるいは乱暴な使い方をするから紙に穴が空くのではないかと。
(大)ちっちっち。ケチではない。それが証拠に交響曲第5番冒頭4小節で、1ページを使ったこともあるぞ。どうだ、贅沢だろ。
(な)それはさすがに贅沢な。だから貧乏になるんですよ。
(大)わが作品は、まさに貧乏脱出への情熱と苦悩の跡なのである!
(な)せ、先生、泣けてきます! 芸術への情熱でも、聖なるものを求めての苦悩でもないのですね! で、大フーガが競売にかけられることになって、2億円とも3億円とも呼び声が高いそうですが、どう思います?
(大)おお! その数字を目にするたびに、わしのほうが猛烈に泣けてくる…。たかが20分にも満たない連弾曲で3億円なのか!? もう一度言っておくが、ありゃ「編曲」モノだからな。
(な)オークションを担当するサザビーズは、そのあたりを知ってるのか、知らないのか、よくわからんですね。
(大)まっこと偉ッ大なるわしの名前により、あおりにあおっているのであろう。しかしまあ、1億円でもいいよ、わしにくれよ。それだけありゃ、わし苦労してなかったって。わしが出版社と交渉したときには、自筆楽譜の歴史的価値についても、徹底的に攻めるべきだったな。

とういうわけで、結果は…
「ベートーベンが作曲した弦楽4重奏曲「大フーガ」のピアノ版の自筆楽譜が12月1日、ロンドンの競売商サザビーズでオークションに掛けられ、112万8000ポンド(約2億3700万円)で競り落とされた」
ということです。

(な)結局、2億円を越えました。
(大)わはは。正直、頭の中で整理がつかん。もっと編曲をたくさん作るべきだったか? それとも自筆楽譜をもっとたくさん残すべきだったか? どうすれば儲かったと思う?
(な)少なくとも、存命中は自筆譜で儲けることはできなかったと思いますが。さて、こういう値段がついたとするなら「第9」だったらいくらになるでしょう?
(大)ううむ。演奏時間で「大フーガ」の4倍以上だ。スコアは13段以上だから、これも4倍としよう。今回の「大フーガ」を2億円で落札なら、4×4=16倍になるが、第9は編曲版ではないから、さらに倍にして、つまり64億円というところだな。
(な)それは、1秒あたりおよそ140万円になります。
(大)今からでも遅くない。盗みに入るぞ。で、どこへ行けばいいのかな?


(2005.12)



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