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大権現様の、わしの音楽を聴け! 第6回
「抱き合わせでGO!」



(なかさん、以下、な)今回は軽い話題にしたいと思います。あなたのこだわっているものは何ですか?
(大権現様、以下、大)そうだな。女性だな。明るく気品があって、教養があって、母性を感じる美しく可愛い女性がよい。声がきれいなのもよいな。やっぱり歌や楽器をたしなむ若い娘。そういうのがよい。
(な)女性の話になっちゃいましたが。
(大)うむ。ポイントがずれたか。こだわりといえばコーヒー豆だ。コーヒーはいいぞ。香りが好きだ。豆の数を飲む量にきっちり合わせるのがポイントだ。次に卵だ。新鮮な卵で料理を作るのだ。明かりにかざして、鮮度を見るのだぞ。それから、魚だな。魚料理は好きだぞ。
(な)もっとずれてきましたが…。音楽のことで、お願いしますよ。
(大)音楽なら、ヘンデルだな。あの壮麗さはじつに見習うことが多い。
    ※晩年に「ヘンデル全集」を贈られて、たいそう喜んだということである。
(な)モーツァルトにならないんですね。
(大)うむ。モーツァルトもすごいが、こだわりとは趣味の問題だ。わしは気宇壮大がよい。フーガを組み込むのも好きだな。でも、生きていた当時はヨハン・セバスチャンは忘れ去られた存在だった。
    ※J.S.バッハは、もちろん知られてはいたが、メンデルスゾーンによる「マタイ受難曲」復活演奏までは、あまり注目されていなかった。
(な)ところで、日本でクラシック音楽といえば、おおかたの作曲家ではどうしても交響曲が筆頭に来ますが、あなたは何を一番聴いてほしいでしょうか。
(大)わしはピアニストだからな、ピアノが一番だ。それには理由があって、いろいろな試みをまずピアノソナタにぶつけているのだ。作曲上の工夫とかいうものをな。だからピアノソナタが一番だ。2番目は弦楽4重奏曲だ。これも、4声という和声の基本と、均質化された音色であるために、実験的なものが組み込み易いのだ。だから、一味違う音楽を聴きたいと目指すなら、この2種類だよ。
 しかし、クレメンティやモーツァルトやハイドンの曲をよく聴いておかないと、どのような違いや発展があるのか、わからくなるぞ。そうそう、紙に1本の線を書いて、作曲年のしるしをつけながらいくつか聴いてみるといい。5年たったらこうなった、10年たったら、こうも違っていたと。
(な)では、交響曲は9曲しかないので、その聴き方ではちょっと足りないですね。
(大)しかも、2曲セットで作ってしまったからな。当時は、「セット」で作るというのは、習慣のようなものだったのだ。ほら、弦楽4重奏の作品18は、それだけで6曲セットだったろう? ピアノ3重奏曲やピアノソナタでも、3曲まとめて作品番号をつけたことがあるぞ。だから、交響曲を2曲まとめて作ったりしたのは、別に不思議なことではないのだ。なんとまあ、ハイドンは、「ザロモン・セット」などといって交響曲を6曲もまとめて作ったくらいだ。内容は3曲ぶんであるが。
 そうそう、モーツァルトも最後の交響曲は3曲セットのようなものらしいな。
    ※6曲セット、3曲セットというのが、当時は一番多いパターンだった。
(な)セットといえば、第5と第6、第7と第8ですね。これには、偶数番号と奇数番号の性格の違いという話がありますが。
(大)それはいいかげんな話だ。だいたい、ハ短調交響曲は初演では第6番だったからな。つまり「田園」は第5だった。すぐに今の順序になってしまったが。それが理由か、勝利(Victory)のVは、ローマ数字のV(5)で、モールス信号でVは、「・・・−」になったということだそうだ。
(な)「第9」が作曲されたあとには、どうも「セット」の習慣が消えたようですね。
(大)そうだな。交響曲は大艦巨砲主義になったし、弦楽4重奏は渋いから人気がイマいちになったし。セットで作るということは、セット全部を初演したいことになる。交響曲を3曲セットで、休憩込みで4時間の長丁場になったら、誰が来るかな。
(な)2晩に分けますね。普通は。でも、あなたは、第5、第6、そのほかもろもろで、大変長い演奏会を開きましたね。さんざんの出来だったそうじゃないですか。
    ※練習不足だった上に、寒かったことや、演奏とは関係が無いトラブルも原因だった。
(大)うむ。抱き合わせ販売のようなことをしておったが、無理がたたったのだ。じつは、当時から、わしは抱き合わせ販売をやっておったのだぞ。売れなさそうな曲と、売れそうな曲をちらつかせて、出版社に売り込むのだ。両方買ってくれれば、シメたもの。
(な)アコギな商売ですね。
(大)作曲家たるもの、売り込みもきちんとせねばならん。わしは、貴族社会が終わりを告げようとする時代に生きた、経済的に自立する作曲家なのダ。
(な)そうは言いながらも、貴族から年金を受け取ろうと、問題を起こしたのではありませんか。それは、貴族に頼っている証拠では?
(大)それは違う。金が欲しかったのである。となると、音楽の趣味がわかる奴からもらわねばならん。
 そうそう、最近も、あちこちで抱き合わせ販売をしておるのが多いではないか。2人とか3人とか5人とか。
 もともと5人だったのが8人になり、1人抜けたり足したりして、今じゃ12人だったか? 分裂したとかいう話もあったが、いったいどうなっとるんだ。そもそも、コンサートのときに、8人のときの歌を12人で歌うのだろうか。混乱してしまわないかな。
(な)何の話をしているのですか?
(大)娘。の話に決まっておるだろう。わしは、若い「娘。」が大好きだと、最初に言わなかったか?



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