1. ベートーヴェン勝手解説大全集 >
  2.  
  3. メニュー >
  4.  
  5. 答えは、皆さんの死後に

大権現様の、わしの音楽を聴け! 第7回
「答えは、皆さんの死後に」



(なかさん、以下、な)人生50年などと言われていた昔のこと、56年も生きれば御の字でしたね。
(大権現様、以下、大)人生50年って、どこの国のいつの話じゃ?
(な)で、あと5年くらい長生きしていたら、どうなっていたでしょう。
(大)うむ、あと1曲くらい交響曲ができた。ピアノソナタなら5曲くらい増えたか? 弦楽四重奏曲でも、5曲くらいはできるか。それはそうと結婚は無理だな。
(な)あのピアノソナタ・ハ長調(最後のソナタ)の後に何かできるとは思えませんが?
(大)ふっふっふ、そこがトーシロ。わしの作曲は一曲入魂だ。どの曲が最後でも、おかしくないぞ。また、さらに1曲作ることは、わけはない。もっとも、本当の最後の作品は弦楽4重奏曲(ヘ長調)だったな。
(な)スゴい自信ですな。そこで、面白い話が伝わっているんですが。交響曲第9番は、あれで「完成」なのですか?
(大)う、痛い所を突かれた。何か知っておるな?
(な)「これは、かなり信用していいですよ」という話として新聞記事に残されているもので、最終楽章でミスを犯したとか、器楽のみの楽章に置き換えようと言ったとか言わないとか。
(大)誰だ、そんなことを言ったのは!
(な)チェルニーですよ。もしあなたがもっと長生きしていたら、あの「第9」は器楽による終楽章に、置き換えられていたかもしれない。これはすごいことですね。もしそうなったら、合唱付の楽章は「大合唱」とかなんとかいって、単独で出版されたかも。
(大)どこかで聞いたような話だ。
 たしかに現行の最終楽章は、取って付けたようなところがあると、誰もが一度は思うだろう。そのため、シラーの詩による合唱が始まるまでに、わしはいろいろと旋律を出した。低弦のみによるレシタティーヴォがあったり、前半3楽章の回想があったり、歓喜の主題が伴奏を変奏しつつ都合4度も現れたり、じつに念入りにしたからな。凝った作りをしているのだ。
(な)実際のところ、「取って付けた」ようなところが、取り替えようと思った理由ですか。
(大)ふっふっふ、そこでクエスチョンだ。最終楽章を器楽の楽章に取り替えてしまおうかと思った理由は、以下のどれか。
 1番 演奏が難しく、効果があがらないから。
 2番 最終楽章がお祭り騒ぎのようで、器楽の3楽章につりあわないから。
 3番 シラーの詩の使い方がまずいと思ったから。
 4番 苦労して演奏会をしても、儲からないから。
 さて、どれだ?
(な)たしかに、たった15分ほどのために合唱団と4人の独唱を用意するのは、練習も費用の調達も大変ですし、4番が正解かな。
(大)そうだな。初演は、たしかに儲からなかったな。儲からないというか、2回めの演奏会は赤字だったぞ。
 儲からないということは、何度も演奏してもらえない、ということだ。しかし今は、どこの楽団もコレで儲けているな。大変うらやましい。しかも、けっこう上手に演奏してしまうのだから、よい時代になったものだ。
(な)2番も頷ける。そもそも、あの第1楽章の開始がスゴい。
(大)あれは神秘的かつ重厚に始まるからな。あのような楽章が最初にあると、最終楽章がどうなるか予想がつかないぞ。
(な)第1楽章などの重厚さの後に、第3楽章がクッションになっているから、今の第4楽章があっても、なんとかサマになっているのですかね。歓喜の歌でけっこう明るく盛り上がるところが多いですね。最後の部分はお祭り騒ぎと言われても仕方ないでしょうか。そう思うと、第1楽章冒頭などとはつりあわないかもしれない。
(大)そこをうまくつなぐための工夫が大変だったことは事実だ。
(な)3番ということでは、シラーの詩は切り貼りして使ってしまいましたが、それがいけなかったのですか?
(大)うむ、気に入ったところだけを、当時の政治情勢もふまえて使ったわけであるが、若い頃はその詩の全てに作曲したいと思ったものだ。
(な)これはこれでいいのではありませんか? 理念が単純明快になったと思いますが。で、答える前に、「オーディエンス」を使っていいですか。
(大)だめだめ。「フィフティ・フィフティ」も無しだぞ。答えは、死後の世界で、お教えしよう。
 ということで、死後にわしのところへ来てくれた方には、さきの質問の答えとともに、もうひとつ、新しい最終楽章はどのようなものになるはずだったか、という点について、もれなく教えてあげよう。「ファイナル・アンサー」は、あの世で。
--------------
(余談)
(な)で、実際のところ、器楽の楽章にするつもりだったのですか?
(大)その気があれば、すぐに作ったが、結局やらなかったんだ。ま、あれでいいや、とね。だから、そのままウィルヘルムV世に献上しちゃったのだ。




トップに戻る メニューに戻る