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この曲を聴け 1


「聴くと面白いベートーヴェンのこの曲」

 ここでいわゆる名曲紹介を並べても仕方ない。そういうことは、本屋や各種サイトに、ごまんとある。当然、私は交響曲第5番、も「合唱」も「熱情」も好きである。だからとて、そればかりを聴いているわけでもない。今これを、祝典劇「アテネの廃墟」の「行進曲と合唱」作品114を聴きながら書いている。楽しい。面白い。こういった曲を書きながら、話題作や大作を書いていったのだ。まことの大作を書ける人は小品もすごいのである。すごいと言っても、名曲だとか内容が濃いとかいった、そういうことではなくて、心温まる曲であったり、器用な曲であったりするのである。
 ベートーヴェンの駄作として有名なものに「ウェリントンの勝利(戦争交響曲)」というものがあるが、いきおい「英雄」「田園」などと比べられてしまっては、どうしようもない。それと比較すれば駄作に決まっているのだ。しかし、管弦楽はまさにベートーヴェンそのものなのであり、構成上じつに器用に書かれていることは否定しようがないのである。もちろん戦争とは言っても、戦闘機が飛び交うわけでもなく、ナパーム弾も炸裂しない。ミサイルは発射されないし、戦車も熱核兵器も存在しないわけだから、迫力もそれ相応なのである。そこを考えると、当時これだけの曲を当時の文明と2管編成という基礎の上で書き上げたベートーヴェンであるならば、もし現代に、トロンボ−ンやチューバを含む4管編成の大管弦楽で戦争交響曲を書け、と言われたら、壮絶な大作になってしまったであろうことは容易に予想できるのである。
 そういったことにも考えがおよぶと、小品はおろそかにできない。絶対面白い何かが隠れているのである。
 であるから、あなたがもしある作曲家を本当に好きであったなら、小品や埋もれた曲にも、とことん付き合ってみることをお勧めしたい。絶対に面白いのである。

1.合唱幻想曲 作品80

 ピアノ・ソロによる自由な形式、管弦楽とピアノによる変奏曲形式、合唱と管弦楽とピアノによる自由な形式、という3部構成。単純明快な旋律と景気のいい終わり方で、結構楽しめる。
 合唱が好きなあなたも、ピアノが好きなあなたも、管弦楽が好きなあなたも楽しめるという、お得な曲。室内楽風や行進曲風など、いろいろなスタイルもあって、飽きない。しかも20分弱という短めで、最後はちゃんと盛り上がっておしまい。単純明快で不思議な編成の曲。ソナタ形式などといった難しい形式にも無縁。深みが無いと思われるかもしれないが、そこは「第9」への流れを語る上では欠かせない曲であり、価値は十分。こういうことでは、珍曲と言える。生で演奏される機会も少ない。とにかく聴いて損は無い。
 時折録音されるので、常時2種類ほど買えるようになっている。

2.バガテル(6曲)作品126

 バガテルは単発の曲もあれば組曲になったものもある。ここでは特に傑作揃いの作品126を採り上げる。
 ピアノ曲で有名ということではピアノソナタになってしまうが、それらの楽章に入れてもらえなかったのが、これらバガテルと思って間違い無いのではないだろうか。質が悪いとかではなくて、曲の長さや調や性格を考慮して、あぶれてしまったというような。作品33や119にある作品は短すぎる曲もあるが、この作品126の6曲は、もともと組曲として構想を練ったもので、長さもそこそこ。音楽も面白いし充実している。作品番号からして後期のピアノソナタの雰囲気を思い浮かべていただくと誤りのもと。明快な内容と気軽に楽しめるということでは、バガテル「エリ−ゼのために」と同等である。
 この6曲を演奏しているCDは少ないが、リヒテルが1960年頃に録音した第1,4,6番は、よい演奏である。

3.2つのオブリガート眼鏡付きのビオラとチェロのための二重奏曲 WoO32

 室内楽といえば弦楽四重奏やピアノ三重奏であるが、これはビオラとチェロだけという珍しい曲。当然演奏される機会は非常に少ない。しかし曲そのものは大変面白い。第1楽章はソナタ形式。楽器が中低音であるだけに、妙に重厚な音色であったりするので聴き応え十分。第2楽章はメヌエット。第3楽章は断片しかないようで、録音はされていない。たったふたりであるということは、音の動きに工夫が見られるということで、聴いて非常に興味を持てる曲であることは確か。
 「オブリガート眼鏡」というのは「眼鏡の支え」ということで、眼鏡無しでは生活できないド近眼のことである。

4.祝典劇「アテネの廃墟」の「行進曲と合唱」作品113(第6曲)、あるいは作品114(改訂版)

 ここにある行進曲というのは有名なスーザの行進曲などとは違い、のどかなものである。「アテネの廃墟」といえば、有名なのは「トルコ行進曲」。無論、ピアノ版ではなくてオーケストラ版であることは言うまでもない。のどかさということでは、ここで採り上げる行進曲もトルコ行進曲も同じだ。およそ軍隊(らしきもの)が歩いているとは思えない。これらに限らず当時の行進曲は、とても軽やかなものである。逆に交響曲第5番の第4楽章などの方が今ふうの「軍隊」にふさわしいといえる。
 ここでの「行進曲」はちょっとうまく説明できない。旋律の表情に少しあこがれがあり、広がりのある豊かな表情を持っていて良い。「アテネの廃墟」序曲の冒頭近く(主部の直前)にある、オーボエによる旋律を活用した行進曲である。後半では健康的な盛り上がりを見せる。
 スクロヴァチェフスキー、ミネソタ管弦楽団他(VOX)は、序曲全集とともに、珍しい曲満載でとってもお得な2枚組。アバド、ベルリン・フィル(グラモフォン)盤もある。

5.祝典劇「献堂式」への合唱 WoO98

 ソプラノのソロと合唱が入った、楽しい曲。これものどかで単純明快。こういう楽しい曲が見つかるのがうれしいのである。献堂式とは建物が出来たお祝いということなので、めでたい曲である。だから素直に楽しめる。冒頭からゆったりとした合唱が響き、中間ではソプラノのソロが楽しさを引き出している。バイオリンのソロが単調な雰囲気を救っていて、ミサ・ソレムニスにも応用されている。全体として能天気。



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