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この曲を聴け 2


 ここでも珍しい部類の曲を紹介したい。「なくした小銭への怒り」といった曲は、前ページの「バガテル」のように、素直に書かれた、じつに楽しめる曲になっている。こういった小曲は、たしかに「ショパン」あたりの魅力的な小品に隠れてしまっているが、元をただせばベートーヴェンの「バガテル」のような、組曲などの構成といった制約から離れた曲が先祖なのである。だから「この曲を聴こう」。面白いのである。

1.三重協奏曲 作品56

 今回紹介する中では最も有名であろう。しかし世にも珍しい楽器編成であるために、なかなか演奏されない。バイオリン、チェロ、ピアノという3人の独奏者をどうやって集めるか。それは至難の技であるが、もしすごい顔ぶれを集めてしまったら、大変なヒットになってしまう。カラヤンとベルリン・フィルに、リヒテル、オイストラフ、ロストロポービチを加えての演奏のLPということで、ものすごいネームバリューでかつて登場したのが、この曲。じつは、雄大に演奏されると、この第1楽章が大変効果的に鳴り、楽しめる。試みにコレギウム・アウレウム版の、少人数の古楽器で演奏されたものを聴くとわかるように、非常に小さくまとまってしまうとつまらないのである。
 雄大な第1楽章、幻想の第2楽章、活発な第3楽章という内容は、「英雄」交響曲を書いた頃のベートーヴェンならではである。「皇帝」協奏曲に対するがごとく演奏されたら抜群の曲になる。とにかく、カラヤンと3巨匠の演奏でメジャー枠に入りかけた曲なのだ。ベートーヴェンの管弦楽が好きな人は迷わずに聴くべき曲だ。
 3人の独奏者を1人分にまとめれば、もっと演奏機会は増えたであろうに。

2.ロンド・ア・カプリチオ「なくした小銭への怒り」 作品129

 タイトルが面白いピアノ曲である。不思議なことに、私が持っているこの曲の楽譜を読むと左手に音符が無い(後に加筆記入されている)小節がある。作品番号が割り当てられているほどなのに変だなあと思うが、詳しい由来はともかく、大変楽しい曲であることは間違いない。本質的に「音の遊び」と思って聴ける。曲そのものは、(本人は預かり知らぬ題名ではあるが)小銭をなくして怒っている人(自分?)を茶化しているような感じ、と思えばいいだろう。演奏も録音も機会は少なく、小品集に時折加えられている程度であるが、もっとピアノで遊んであげていい曲である。面白い曲なので、別ページに解説を作った。

3.行進曲(WoO18,19,20,24)

 有名な「トルコ行進曲」(モーツァルトじゃないぞ)とほぼ同等の楽器編成である。だから管弦楽にピッコロとシンバル、トライアングル、大太鼓が加わっているわけで、のどかな軍隊行進曲ということ、と言いたいが、じつはトルコ行進曲と違って弦楽がない。なんと吹奏楽という珍しい(軍隊行進曲だから当然でしょうが)ものになっている。ベートーヴェンに限らずクラシック音楽で生き残っている大編成の曲は弦が主体であるため、逆に、聴くと面白い。トランペットなどは信号ラッパ程度の音しか用意されていないが、当時はそういうもんである。

4.弦楽三重奏曲 作品9-3

 この作品番号にある3曲は、弦楽四重奏曲の作曲の練習と思われる、と、よく(それほどの数の録音が発売されているわけではないが)解説に書かれるが、本当にそうだろうか。弦楽四重奏の作曲を練習するなら弦楽四重奏を書けばいいじゃんと思うが、どうだろう。想像だけど、弦楽三重奏でもこれだけ立派なものをかけるぞ。弦楽四重奏を書いたらもっとすごいぞ、という思いがあったのではないだろうか(だけど少々自信が無いので書かない)。
 だいたい、この編成は楽器数が3個であるわけで、弦楽四重奏とは異なった作曲上のアプローチがあって当然で、じつはそれを活用したかったわけなのかもしれない(無論、そのアプローチは当然弦楽四重奏でも有効活用されたであろうけど)。これとは別に、実際、すぐ後に書いた作品18-1という弦楽四重奏曲を作曲して友人に贈っている(あとで大改訂しているが)。別に弦楽四重奏だって書こうと思えば書けたに違いない。弦楽三重奏は弦楽四重奏の練習ではないのだ。
 ということでこの曲を聴くと、楽器3個であることを忘れてしまうような内容に驚くのである。できれば3曲セットで聴こう。

5.ピアノ四重奏曲 WoO36

 ピアノ三重奏曲+ビオラ。若い頃の作品が4曲(*)あるのみ。曲の雰囲気は、もうモーツァルトしてるね、と言われても仕方が無い出来。別に出来が悪いと言っているわけではないが、他の曲に隠れて影が薄いのは事実。ここで面白いのは、3曲ある中の第3番ハ長調では、出てくる主題の1つがピアノソナタ第3番(Op.2-3)第1楽章と同じということ。それだけではなく、その主題そのものがこれらピアノ四重奏曲の中で、最もモーツァルトしているように感じられるというところ。さわやかに聴けるということでは古典派そのものですね、という印象である。

* 4曲のうち1曲は、ピアノと管楽器のための五重奏曲(Op.16)から編曲したもの。



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