この曲を聴け 6
やはり、無名の曲を並べる。じつは、かなり以前にこの「6」を書こうとしていたが、挫折してた。もう、打ち止めか。
1.バイオリン協奏曲 ハ長調 断章 WoO5
ベートーヴェンはバイオリン協奏曲をいくつ残したか。答え、1曲と1楽章。
ということで、1楽章しか残っていないのがこの曲。しかし、これが面白い。交響曲第1番よりすこし前に書かれたという雰囲気がプンプンし、聴くには面白い曲。意外にも、ピアノ協奏曲第0番よりも録音される機会が多い。1楽章しか残っていないのが寂しい。展開部に入ったあたりから譜面が現存していないが、それでも、じつにうまく復元されているといってよい。買って損無し。ただし、補筆完成版は約16分あるが、実際に残っている展開部直前までで終わっている録音(ズスケ版を確認)もあり、この場合は9分程度なので注意。
2.モーツァルトのピアノ協奏曲のためのカデンツァ
ベートーヴェンが好きなら、コレは知っていないとね。ニ短調、K.466のためのカデンツァがある。昔ならLPジャケットの裏に解説があって、ベートーヴェンのカデンツァを使っているのかどうかがわかったが、今はどうだろう。CDなので、解説が中に封印されてしまっている場合が多い。かろうじて、グラモフォン(GRAMOPHON)が、読めるかもしれない。よくできたカタログでは、ベートーヴェンのカデンツァかどうかわかるに違いない。しかし、大多数は聴くまでわからない。
ただし、モーツァルトを「ぶち壊し」ているようなカデンツァではないので、ベートーヴェンそのものを期待する場合には物足りないかもしれない。あくまでも、モーツァルトのためのカデンツァなのだ。
リヒテル独奏ヴィロツキ指揮の1959年録音、および、ゼルキン独奏アバド指揮の1980年代録音の2種類は、ベートーヴェンのカデンツァによるものだ。
ちなみに、ピアノ協奏曲第1,2,3,4番では、ベートーヴェン自身による、各々複数のカデンツァが存在する。
3.バリー・クーパーの交響曲第10番 復元版
マニアの鑑、クーパー先生による、ベートーヴェンのスケッチの復元演奏である。晩年に残したスケッチから、交響曲に使うつもりらしい旋律を集めて、1楽章の形態にしたもの。
スケッチから練りに練って曲を完成させるベートーヴェンである(例外もあるが)が、こちらのスケッチはほんとに単なるスケッチそのまま。私も、テレビ放映されたものを見たし、録音されたCDも買って聴いた。少し考えれば当然のことであるが、完成されたものではないし、そもそも聴くに耐えない。こんなものに対して、人は何かを期待してはいけないのである。
これの発表に際しては、妙に期待した人もいるかもしれない。結論であるが、無理に管弦楽で演奏させるべきじゃなかったよな、と私は思っている。しょせんクーパー大先生は研究者であって音楽家ではなかったのだ。
3種類ほど録音がある。この演奏の価値は、ただ音になっている、それだけである。しかし、この研究の中に、シンドラーの意見も含まれているので、結果としてマユツバものである。
4.「大フーガ」のピアノ連弾版 Op.134
弦楽四重奏曲の「大フーガ」のピアノ連弾版だ。2台ピアノじゃなくて連弾版というのが、どこかやりにくいように思うがどうだろう。元々入り組んだ動きの四重奏が、4本の手をもつれさせてしまわないだろうか。少なくともあまたある弦楽四重奏のほうが丁丁発止の名演が多いので、ピアノ連弾版には期待しないこと。
この曲の録音もいくつかあるが、つまらないものと面白いものとの差がありすぎるような気がする。「大フーガ」が大好きであって初めて買える録音だろう。
5.皇帝ヨゼフ2世の葬送カンタータ WoO87
まだボンにいた20歳の頃の作品で、ハイドンにも少し感想を語ってもらった逸話で有名な曲。タイトル通りの葬式音楽で、「死んだ〜、死んだ〜」で始まる音楽は血気盛んな若者に書かせるのはどうかとも思うが、その渋さ厳粛さは20歳の想像を超えている。さすがに聴いて面白いというものではないが、なるほど若くてもベートーヴェンだなあ、ということをハイドンとともに再確認する意味で一度は聴いておきたい。
ただ、少なくとも私には、どんなに才能や技術があっても「死んだ〜、死んだ〜」なんていう音楽は書けないなあ。
(2008.8.29)